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アンジェス(株)【4563】の掲示板 2019/03/16

今朝の日経電子テクノロジー掲載
「高血圧、ワクチンで治療 生活習慣病対策に免疫活用」

アンジェスの名前も。
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過剰なカロリー摂取や運動不足などによって発症する高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、薬による完全な治療が難しい。この難題を、体に備わる防御システムである免疫を使って解決しようとする研究が注目され始めた。感染症をワクチンで予防するように、免疫の働きで生活習慣病を抑えこむ戦略だ。研究者は効果的な治療法として実現を目指している。

慶応義塾大学の畔上達彦助教が、多数の穴が開いた実験器具へ液体の成分を注いでいく。高血圧を治療するワクチンの候補物質だ。

ワクチンはもともと天然痘や風疹などの感染症を予防するために開発された。免疫の働きを活発にし病原体を倒す。がん治療を目指す研究もある。さらに生活習慣病の予防や治療にも応用しようという試みといえる。

高血圧は代表的な生活習慣病で、脳卒中や心疾患につながり「サイレントキラー」(静かな殺し屋)と呼ばれる。降圧薬で治療する人が多い。継続して飲み続ける必要があり、使う人が増えれば、医療財政を圧迫する要因にもなる。畔上助教は「体に備わる免疫の力を利用するワクチンなら、数回の投与で長く効く」と解説する。

このワクチンを投与すると免疫細胞の「B細胞」が特殊なたんぱく質を作り出す。血管などの細胞の表面にある血圧を高めるセンサー役のたんぱく質に特異的にくっつく抗体となり、センサーの働きを邪魔する。2012年には、高血圧のラットに注射し血圧を2割下げ、効果が約20週間続く成果をあげた。「降圧薬に匹敵する効き目だった」(畔上助教)

高血圧は慢性的な病気で治療が長引く。痛みを伴う注射を避けようと、使いやすい点鼻式のワクチンを開発した。これを高血圧ラットで使ってみると、血圧を1割下げる効果を18年に確認できた。

このワクチンは安価で発展途上国でも使いやすい。他のワクチンと一緒に使うことも可能で、動物実験では、高齢者の死因に多い肺炎を予防するワクチンも組み合わせた。畔上助教は「複数の病気を同時に治療、予防できそうだ」と期待を寄せる。

大阪大学の中神啓徳寄付講座教授も、B細胞に抗体を作らせて血圧を下げるワクチンの開発を狙っている。高血圧マウスの血圧を1~2割下げた成果を15年に発表した。高血圧に伴って発症する動脈硬化や心臓の肥大も改善できたという。

阪大発の製薬ベンチャー企業のアンジェスが、18年にオーストラリアで臨床試験を始めた。24人の高血圧患者の協力を得て効果を調べている。同社は、大手の製薬企業へこの技術を導出し、実用化を目指す考えだ。

様々な生活習慣病の元凶ととらえられている肥満の進行を、免疫の働きで食い止めようとする研究も始まった。北里大学の岩渕和也教授は病原体に感染した細胞やがんになった細胞を攻撃する「NKT細胞」に目を付けた。

岩渕教授は12年にこの細胞が肥満を促している仕組みを解明した。その成果をヒントにカロリーの高いエサを与えて、NKT細胞を作れなくした改造マウスと普通のマウスの肥満度がどう変化するのかを調べた。普通のマウスは14週間で体重が倍の40グラムに増えた一方で、改造マウスは3割少ない30グラムにとどまった。

NKT細胞はエサに含まれる脂質由来の物質を検知すると外敵と認識して攻撃を開始し、慢性的な炎症を起こす。炎症を起こした場所の周辺の細胞はエネルギーである糖分を消費する効率が悪くなる。余った糖分は将来の飢餓に備えて蓄えようとする脂肪細胞に取り込まれる。脂肪細胞はますますサイズを大きくし、肥満に陥る悪循環が考えられている。

動脈硬化を防ぐ薬の一種にNKT細胞の働きを邪魔する作用があると分かっている。岩渕教授は「この薬を使うとNKT細胞による炎症を抑え、肥満を防げるかもしれない」と予想。これから効果を確かめる考えだ。

先進国で市民の健康を守る政策の軸足は、感染症対策から生活習慣病や慢性疾患の克服に移っている。一時的に症状を抑える薬はあっても、根本的な治療には食事の制限や運動の継続が欠かせず、挫折してしまう人も多い。

生物の免疫機構は様々な細胞が多様な物質を巧みに使いこなして成り立っている。生活習慣病を発症する分子レベルの仕組みが明らかになり、うまく組み合わせようという考え方が盛り上がりつつある。効果的な対策が実用化できれば、生活習慣を簡単に改められない人に向いているかもしれない。

(科学技術部 草塩拓郎)