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米ヘッジファンド、創業者引退続々 運用は勘からAIへ

米ヘッジファンドの創業者が相次いで引退している。好成績を残してきたカリスマ運用者がファンドを清算する例が目立つ。AI(人工知能)を使ったファンドの台頭で、「勘」や「センス」に頼った運用スタイルで勝ち続けることが難しくなった。ファンド業界はカリスマ不在の時代へ向かいつつある。

顧客投資家のリターン向上のために残りの人生をS&P500種株価指数の運用利回りとの競争に費やしたくない――。昨年半ばにヘッジファンド運用会社オメガ・アドバイザーズをファミリーオフィスに転換したレオン・クーパーマン氏は11日、ヘッジファンド業界の関係者を集めた講演会でこう語った。

オメガは1991年設立で、ファンド業界では老舗中の老舗だ。同氏のファンドは長い間S&P500種の総収益率を上回り、投資家の間で人気だった。クーパーマン氏は「ヘッジファンドで十分稼いだし、76歳になった今、もう市場のプレッシャーを受けたくない」と打ち明けた。

米調査会社ヘッジファンド・リサーチ(HFR)によると、今年1~3月期に清算したヘッジファンドの数は213本で新規設定ファンドの136本を上回った。2018年は清算数が659本、新規設定数が561本だった。その中でも1990年代に設立された老舗ファンドで清算したり、投資家に資金を返還した後で個人資産のみを運用する「ファミリーオフィス」に転換したりする例が目立つ。91年設立のSPOパートナーズ、95年設立のセミノール・パートナーズがファンドの清算・転換を決めた。

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  • >>12971

    SACキャピタル(92年設立)のスティーブン・コーエン氏は14年にファンドをファミリーオフィスに転換した。サブプライム住宅ローンの空売りで巨額の富を手にしたジョン・ポールソン氏も数年以内にファミリーオフィスへの転換を検討していることを明らかにした。著名投資家のデビッド・テッパー氏率いるアパルーサ・マネジメントもファンドの資産を投資家に返還する計画を表明している。

    老舗ファンドが運用事業から撤退する背景には、上場投資信託(ETF)などのパッシブ運用との競争激化が背景にある。少しでも高利回りを求める投資家は、ETFが相場並みの運用利回りを出しているのなら、そちらに資金を振り向ける傾向が強い。ETFは運用手数料が低いのも投資家にとって魅力だ。

    預かり資産の2%、成功報酬として利益を増やした分の20%を徴収する従来のヘッジファンドの報酬体系に対し、年金基金などの大手機関投資家は手数料引き下げ圧力を強めている。こうした傾向もファンド運用会社には重荷だ。

    ヘッジファンドの運用資産総額はHFRによると今年6月末で3.2兆ドルと過去最高を記録した。しかし、ファンドの数は14年以降減少傾向となっている。

    一方で、AI(人工知能)を使いオルタナティブ(代替)データを駆使する一部のAIヘッジファンドは良好な成績を維持している。この分野で著名なヘッジファンドのツーシグマは15人の数学オリンピックのメダリストを抱え、社員の6割は伝統的な金融分野の経歴を持っていない。運用資産は580億ドルに上る。

    ヘッジファンド業界はカリスマの「勘」や「センス」に頼った運用スタイルで毎年勝ち続けることが難しくなっている。ファンド業界はAIによる運用の台頭で、銘柄選別のプロだった老舗ファンドが次々と姿を消し、カリスマ不在になっている。

  • >>12971

    「ファンドマネジャーは代替可能」 最前線の研究者に聞く(AI革命)

    2000年代から始まったといわれる第3次人工知能(AI)ブームの到来を受け、金融・資本市場では大量のデータを高速で処理し、取引戦略に生かす「スピード競争」が激化した。投機筋などは市場の何らかのゆがみに乗じて標準指標(ベンチマーク)を超えるリターンを目指すが、AIを用いたトレーディングでは参照するビッグデータが似通うため、戦略の差別化が難しい。処理の高速化などコンピューターの性能も拮抗している現状では、突出して利益をあげられるモデルはなかなか見つからない。

    足元で進む激しいスピード競争の先には何があるのだろうか。AIにかかわる分野の最前線の研究者であり、「お金のデザイン研究所」所長や首都大学東京の特任教授、京都大学客員教授を務める加藤康之氏は「人間の運用担当者をAIに置き換えることによるコストの削減が最大のメリット」と話す。

  • >>12971

    ■データ発掘競争激化、それでも取れぬ超過リターン

    ――資産運用におけるAI活用のトレンドを教えてください。

    「インターネットの普及で情報のデジタル化が進展し、誰でも多様な形で膨大なデータを扱えるようになった。2005年ごろからはデータの広がりと資産運用への活用があっという間に進み、米国を筆頭にデータ先進国では超過リターンを示す「α」(アルファ)は小さくなっている」

    「個人投資家のデータ収集能力はいまや、プロのファンドマネジャーと比べても遜色ない。新しいデータを利用して仮にαが出せても、同じような投資をする人がすぐに登場するため、αが縮小するまでの時間が極めて短くなった」

    「足元では『ビッグデータ』をどう生かして(システムなどを)開発するかに市場参加者の関心が集まっている。最近、米国のある大手運用会社の幹部が来日し、日本で皆にまだ使われていない『使える』データを探していた。今後はこうしたデータの発掘競争が激化するのではないか」

    「例えば、POS(販売時点情報管理)データや個人の信用情報、医療情報といった嘘がつきにくかったり秘匿性が高かったりする情報の価値は高い。運用にうまく活用できるデータを見つけた人が勝てる状況が当面は続くだろう。それでも、いずれそうしたデータすら(ありふれた)コモディティー(商品)と化し、データではαを出せない世界が訪れるだろう」

  • >>12971

    ■生き残れるのは一握りの天才だけ

    ――AIは投資の現場でどんな形で存在感を高めていくと思いますか。

    「いずれはアクティブ運用のファンドマネジャーの多くがAIに置き換わるだろう。様々な情報を読み込んで判断し、アウトプットして取引に生かす流れは人も機械も同じ。それなら、AIのニューロン(神経細胞)の速度のほうが人間を上回っているし、システム上で膨大なデータ分析も瞬時にできる」

    「市場の合理化が進むなかでαが縮小し、戦略面ではAIを使っても使わなくても大差ない。だがかかるコストはだいぶ違う。ファンドマネジャーを雇って高い人件費をかけるより、最低限の電気代やメンテナンス費用で済ませられるAIを使うほうが合理的だ」

    「今後、アクティブ運用で残っていくのは、未来の予見能力が桁外れに高い一握りの本物の天才など限られた人間だろう。悪材料だらけなのに経営者の将来性などを買って株を購入し、収益につなげるのはAIには不得手だ。だが、手持ちのデータを駆使して将来、株価が上昇しそうな銘柄を選ぶのはAIのほうが優れているはずだ」

    「もちろん、人間のやっていることすべてがAIに取って代わられるとは考えていない。ほんの数十年前にIT(情報技術)の技術職などを(世の中が)想定していなかったように、我々が想像もしない職業が生まれることは確実だ。人間にしかできない、その時代に合った職業が登場するに違いないと思う」

  • >>12971

    ■リポート読解など省力化に活用

    ――コスト低減には使えそうですね。

    「超過リターンが減少しているので、コストを極小化できれば、最終投資家が得られる利益はおのずと増える。最近はアナリストリポートを直接読まない市場関係者も増えた。AIに多くのリポートを収集、分析させてサマリー(要約)だけに目を通すなど、ムダな作業はどんどん省き人手を減らす傾向にある」

    「アナリストにしても、AIに外国語のリポートを翻訳させることなどで手間を大幅に省き、アシスタントを整理しているケースなどもみられる。ディープラーニング(深層学習)の導入で最近の自動翻訳の精度は極めて高くなった。徹底的な省力化のためのAI活用が軸になっていくだろう」

    「数値やデータを使った定量分析をする『クオンツ・アナリスト』も、実は経験や勘に頼りがちなケースが多かった。『バリュー投資』ではPBR(株価純資産倍率)やPER(株価収益率)の指標をよく使うが、それらの指標が本当に最適なのかと問えば、おそらく答えられない。客観的なAIで最適解を見つけ出したほうが、真実に近づける公算は大きいかもしれない」

    ――AIがもし完璧に将来を予測できれば、運用で勝ち続けることも夢ではなくなるのでしょうか。

    「市場でその質問は究極の『自己矛盾』だ。金融の世界は必ずフィードバックが入る。勝てばその手法を必ず皆がまねをする。勝利は相応の敗者がいてこそ成り立つのに、皆が同じ方角を向けばバランスが崩れ、むしろ敗者に回る可能性が高くなってしまう。AIは統計手法の延長線上の技術にすぎないと肝に銘じてほしい」