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(株)ツインバード【6897】の掲示板 2021/04/10〜2021/04/17

家電メーカーのツインバード工業は2021年2月、厚生労働省に新型コロナウイルスワクチンの運搬庫5000台を納品した。同社によると、温度管理をしながらワクチンを運ぶ製品は他にないという。20年来の研究開発が役立つこととなった。
「毎日が緊張の連続」とツインバード工業の野水重明社長は語る。厚生労働省への納品を終えたばかりだが、新潟県燕市の工場では急ピッチで製造が続く。続いて武田薬品工業へ5000台を納品する。

ツインバード工業の野水重明社長
同社がワクチン運搬庫を受注できた理由について、野水社長は「超低温まで冷却できるだけでなく、極めて精緻な温度制御が可能。それから、軽量、コンパクトでポータビリティーに優れている点が他社製品にはない。これらの点で、独自の性能を評価いただいた」と説明する。
倒産寸前でも開発あきらめず
開発が始まったのは02年。ワクチン運搬庫に使用されたのは、スターリング冷凍機と呼ばれるヘリウムガスを使用した環境にやさしい冷却システムだ。従来のコンプレッサー方式にはない画期的技術で、極低温までの冷却が可能。精密な温度制御に加え、軽量、コンパクトで振動にも強い特徴を持つ。野水社長の父であり、工学系の研究者だった野水重勝前社長が「他にはない技術を世の中の役に立てる」と開発投資を開始した。過去には大手企業が量産化を断念している。
ツインバード工業でも実用化に時間を要した。途中、会社が5期連続で赤字を出し倒産寸前だったこともある。しかし「独自の技術」にこだわり、開発の手は止めなかった。父と同じく研究畑で育った野水社長も11年の就任以来、スターリング冷凍機の開発である「フリーピストン・スターリングクーラー(FPSC)」事業を社業の軸の1つに据えた。事業自体が黒字化したのは13年だ。
これまでに宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米国企業への納品実績がある。「こうした実績によるものかは分からないが、厚生労働省から新型コロナウイルスワクチン用の運搬庫製造についての打診があった」(野水社長)
当初その内容を聞いた野水社長は、「到底できるわけがないと思った」。極めて短期間に、経験したことのない数を納品するだけでなく、新規開発も伴う。ツインバード工業にとってはリスクだらけだ。

工場での製造の様子と米モデルナ製新型コロナウイルスワクチンの運搬庫
数カ月間で納品
従来の生産台数は年間で300~400台だ。しかし月間4000台を製造しなければならない。また、温度を計測してデータを取り込む温度ロガー(記録計)や、医療施設で使いやすくするための装置など、オプション機能を追加する必要があった。
量産のためには、設備投資や人員確保も必要だ。緊急会議を開き、財務担当役員や開発本部長らと議論を重ねた。シミュレーションを重ねて彼らから出てきた言葉は、「期日までに納品できるかは確約できない。でも、社長、やってできなくはないかもしれない」
「確率は6割だった。もし慎重な会社だったら受注しなかったと思う」と野水社長は語る。
心を揺さぶられたのは、厚生労働省で初めて現場の担当官と対面したときの言葉だ。朴訥(ぼくとつ)な担当者が、「1億2000万人の国民の命を守るためにやっている」と口にした。他にはない技術だ。自分たちがやるしかない。
厚生労働省がある霞が関から帰る電車の中で「長年投資を続けてきたスターリング冷凍機の技術がとうとう人の役に立ち脚光を浴びるときがきた」という実感が湧いた。隣にいた役員に「これからご苦労をおかけします」と小さな声で話しかけると、「20年前に開発投資を英断した先代が本当に喜んでいますね」とうっすらと涙を浮かべていた。
失敗すれば、会社の命運にかかわる。20年10月末に4億円を投資して、敷地内に製造ラインを増設した。50人の製造部員に加え、11月末からは関連会社の50人が加わり、100人体制でワクチン運搬庫の製造にあたっている。
運搬庫の部品作りは約30社が担う。7割が地元の新潟県燕市を中心とする企業だ。残りも国内の企業が担う。「一番精密なエンジン部分は、部品のバラツキが1ミリの千分の一、数十マイクロメートルもない。燕三条の金属加工やプレス加工の技術に支えられている」(野水社長)。共に開発を続けたからこそのワザだ。