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(株)田中化学研究所【4080】の掲示板 2015/10/16〜2015/10/19

スタジオシャブリ・・・最新作・・・

「となりのトロロ」

サブタイトル:そば屋で横に座ったおじさんは猫持ちでした

保険屋で料率を計算している僕の唯一の楽しみは昼食だ。
その日も近くのそば屋で、ひいきにしているそのそば屋で、ざるそば大盛を楽しみに昼を迎えた。
普段は同じ課でいっこ下の鈴木君と一緒に昼を取るのだが、今は鈴木君が研修で大阪に行っているものだからひとりでの食事となる。

昼は近場のオフィスのサラリーマンでにぎわうそのそば屋は一人か二人で来る者が多いせいかカウンターがほとんどを占める。

僕がそば屋に来た時には立ち待ちの人が2~3人いた・・・と言っても、座って待つスペースもないのだから、みんな立ち待ちである。今日は空いていて、とてもラッキーだった。

ほとんど待たずに案内されて、カウンターの右から2番目に腰を掛けた。右を見ると大きな体の紺色のスーツに白いシャツで黒縁の眼鏡をかけた男がそばをすすっている。その男のさらに右にはその男が持つには不似合いな籐編みのバスケットが地面に鎮座していた。僕は多少のいぶかしさを感じたが、貴重な昼休みを浪費するのもつまらないので早速例のごとく大盛を注文した。

その男の様子を横目で見るとはなしに見ていたのだが、僕の好きなとろろそば大盛を注文していたらしく、とろろをおいしそうにすすっていた。僕は家内から昼食600円ルールを決められていたので、足が出てしまう大盛とろろは特別な時にしか注文しない、言わばぜいたく品だった。少しの嫉妬心を覚えながら観察しているとバスケットが少し動いた感じがした。まさか・・・と僕は思った。食べ物屋にペットを持ちこんでいるのではとの疑念が沸いた。

程なくして、バスケットが「にゃ~~ん・・・」とひと鳴きした・・・。従業員も他の客も確かに聞こえたはずだが・・・誰も一瞥(いちべつ)だにしなかった。

隣のとろろは何事もなかったようにつゆまで飲み干して、何を思ったのか椅子から下りてバスケットに腰を掛けた。
こんな大男が乗ってもミシリとも苦悶の声をあげないバスケットに敬意を感じた。

隣のとろろそばの男が、猫入りのバスケットに乗っている。

隣のとろろが、猫入りバスケに乗っている。

となりのトロロが、猫バスに乗っている。

僕はさわやかな気分でそば屋を後にした。

(完)

(鬼少佐)

(株)田中化学研究所【4080】 スタジオシャブリ・・・最新作・・・  「となりのトロロ」  サブタイトル:そば屋で横に座ったおじさんは猫持ちでした  保険屋で料率を計算している僕の唯一の楽しみは昼食だ。 その日も近くのそば屋で、ひいきにしているそのそば屋で、ざるそば大盛を楽しみに昼を迎えた。 普段は同じ課でいっこ下の鈴木君と一緒に昼を取るのだが、今は鈴木君が研修で大阪に行っているものだからひとりでの食事となる。  昼は近場のオフィスのサラリーマンでにぎわうそのそば屋は一人か二人で来る者が多いせいかカウンターがほとんどを占める。  僕がそば屋に来た時には立ち待ちの人が2~3人いた・・・と言っても、座って待つスペースもないのだから、みんな立ち待ちである。今日は空いていて、とてもラッキーだった。  ほとんど待たずに案内されて、カウンターの右から2番目に腰を掛けた。右を見ると大きな体の紺色のスーツに白いシャツで黒縁の眼鏡をかけた男がそばをすすっている。その男のさらに右にはその男が持つには不似合いな籐編みのバスケットが地面に鎮座していた。僕は多少のいぶかしさを感じたが、貴重な昼休みを浪費するのもつまらないので早速例のごとく大盛を注文した。  その男の様子を横目で見るとはなしに見ていたのだが、僕の好きなとろろそば大盛を注文していたらしく、とろろをおいしそうにすすっていた。僕は家内から昼食600円ルールを決められていたので、足が出てしまう大盛とろろは特別な時にしか注文しない、言わばぜいたく品だった。少しの嫉妬心を覚えながら観察しているとバスケットが少し動いた感じがした。まさか・・・と僕は思った。食べ物屋にペットを持ちこんでいるのではとの疑念が沸いた。  程なくして、バスケットが「にゃ~~ん・・・」とひと鳴きした・・・。従業員も他の客も確かに聞こえたはずだが・・・誰も一瞥(いちべつ)だにしなかった。  隣のとろろは何事もなかったようにつゆまで飲み干して、何を思ったのか椅子から下りてバスケットに腰を掛けた。 こんな大男が乗ってもミシリとも苦悶の声をあげないバスケットに敬意を感じた。  隣のとろろそばの男が、猫入りのバスケットに乗っている。  隣のとろろが、猫入りバスケに乗っている。  となりのトロロが、猫バスに乗っている。  僕はさわやかな気分でそば屋を後にした。  (完)  (鬼少佐)