【USD】ケース・シラー米住宅価格指数の掲示板
-
>>90
■ リーマンショックでは巨大年金は救われた
世界の巨大年金のほとんどは、世界の株と債券の両方に投資している。
だから、リーマンショックの時もFRBの「予定調和」(後で説明する)に救われた。米株が大暴落した時に、米国債が大暴騰したからだ。
やがて、2015年までのゼロ金利政策により、米国株式市場の上昇が始まり、日本や世界の株式市場も上昇して、世界の巨大年金はここまで大きなゲインを得てきているはずだ。
そして、ここまでの米国株式市場の上昇で、今も「米国は強い」と自信を持つことになった。
しかし、現在は、米国株だけでなく、米国債も最高値圏である。しかも、次回説明するように、米国債のファンダメンタル(基礎的経済条件)は史上最悪である。
もし、米国株と国債の大暴落が起きたら世界の巨大年金にパニックが広がるだろう。
■ FRBは米国債の世界最大の保有者に
注意してもらいたいのはリーマンショックの時には、FRBは米国債をほとんど持っていなかったことだ。
だから、FRBがFF金利を上下させて国債価格を大変動させても、FRB自身のバランスシートは価格変動の影響を受けなかった。
しかし、今は違う。
リーマンショック後は、FRBは「金融システム危機対応」「量的緩和」として国債の大量保有を開始した。
そして、2020年からは、コロナ対策の財政支出のために市場最大規模で発行された米国債の最大の保有者になった。
下の図2を見てほしい。
リーマンショック当時は米国債をほとんど保有していなかったFRBが、今では米国債だけで日本のGDP(国内総生産)に等しい500兆円を保有し、さらに、景気後退や金融危機には国債以上に価格が下落するモーゲージ債券を200兆円も保有している。
■ 金利を上げるとFRBに巨額損失が発生
FRBは特別の法的な権限を有するが、形式的には民間銀行である。
その2020年末のバランスシートを見ると、資産は7.4兆ドル、そのうち米国債が5.0兆ドル、モーゲージ債券(Agency債)が2.1兆ドルを占め、資産のほとんどが長期の債券である。合計すると、日本のGDPの1.4倍に上る。
大事なのは、国債とモーゲージ債券の2つの種類の債券は、市場で活発に取引され、金利の上下によって、市場価格は大きく変動することだ。
先ほど説明したように、「国債価格と金利は逆に動く」から、金利が上がれば、国債価格は下がる。
金利の変動の度合いを「金利感応度」といい、1%金利が動けば、国債価格は平均して10%も動くのである。
もし、金利が3%急に上昇したら、国債価格は3割程度下がる。つまり、FRBにはそれだけ「評価損」が発生する。
仮に、かつてのFRBのように、株式市場の過熱を抑えるために、5~6%の大幅な金利引き上げを敢行したらは何が起きるだろうか。
FRBの保有する国債やモーゲージ債券の市場価値は約半分になってしまう。3.5兆ドル程度目減りする。
■ FRBの借金は減らず損失が発生
バランスシートで、資産の反対は負債である。もし資産が半分になった時に、負債も半分になるのであれば、FRBに「評価損」は発生しない。
しかし、FRBの負債のほとんどが、民間銀行に強制的に預けさせている「準備預金」と連邦政府への短期の債務である。
こうした債務は、短期性のものであり、金利により債務の価値は上下はしない。つまり、FRBが金利を大幅に引き上げても、FRBの負債、つまり借金は減らない。
FRBが保有する国債やモーゲージ債券などの資産が半分になって、反対側の負債が減らなければ、FRBは巨大な「評価損」「含み損失」を抱えることになる。
普通の民間銀行であれば、大幅な「債務超過」になる。FRBにはどういうことが起きるだろうか。
■ 民間銀行なら許されないFRBの国債保有
いささか専門的になるが、FRBのバランスシートのリスクは、民間銀行なら「ALMリスク管理」の観点からは許されない。
ALMとはAsset Liability Managementの略称であり、日本語にしたら「資産負債管理」という平板な言葉になる。
ALMリスク管理とは、「資産と負債のマッチング」を基本とする。
具体的には、先ほど登場した「デュレーション」、つまり、金利感応度を一致させることが基本である。
FRBが大量に保有する国債の金利は低く、しかも今の国債金利はゼロに近い。金利が大きく上昇したら資産である国債の市場価格は暴落する。
しかし、その時に、負債である銀行や国などからの預金、つまり、短期借入は価値が減ってくれることはない。
そのようなバランスシートは、FRBが監督する民間銀行であれば、許されない。
■ FRBが実質債務超過になるメカニズム
FRBの純資産は1490億ドル。大きく聞こえるが、総資産に対する自己資本比率は、1490億ドル÷7.4兆ドル(総資産)だから、2.0%に過ぎない。
もし、米国債の金利が大幅に上昇して(といっても6~7%になるだけであり、歴史的には低金利の範囲だ。下の図3の過去60年間の金利を参照してもらいたい)FRBの保有する国債とモーゲージ債券の市場価格が50%低下したら、FRBの資産は「時価評価」すると3.7兆ドル低下する。
しかし、その時には、負債は仮に金利変動に対して時価評価しようと、7.2兆ドルで不変である。
そうなると、FRBの純資産価値は、資産価値3.7兆ドル-負債価値7.2兆ドル=マイナス3.5兆ドルだから、3.5兆ドル目減りする。
■ FRBの借金は減らず損失が発生
バランスシートで、資産の反対は負債である。もし資産が半分になった時に、負債も半分になるのであれば、FRBに「評価損」は発生しない。
しかし、FRBの負債のほとんどが、民間銀行に強制的に預けさせている「準備預金」と連邦政府への短期の債務である。
こうした債務は、短期性のものであり、金利により債務の価値は上下はしない。つまり、FRBが金利を大幅に引き上げても、FRBの負債、つまり借金は減らない。
FRBが保有する国債やモーゲージ債券などの資産が半分になって、反対側の負債が減らなければ、FRBは巨大な「評価損」「含み損失」を抱えることになる。
普通の民間銀行であれば、大幅な「債務超過」になる。FRBにはどういうことが起きるだろうか。
■ 民間銀行なら許されないFRBの国債保有
いささか専門的になるが、FRBのバランスシートのリスクは、民間銀行なら「ALMリスク管理」の観点からは許されない。
ALMとはAsset Liability Managementの略称であり、日本語にしたら「資産負債管理」という平板な言葉になる。
ALMリスク管理とは、「資産と負債のマッチング」を基本とする。
具体的には、先ほど登場した「デュレーション」、つまり、金利感応度を一致させることが基本である。
FRBが大量に保有する国債の金利は低く、しかも今の国債金利はゼロに近い。金利が大きく上昇したら資産である国債の市場価格は暴落する。
しかし、その時に、負債である銀行や国などからの預金、つまり、短期借入は価値が減ってくれることはない。
そのようなバランスシートは、FRBが監督する民間銀行であれば、許されない。
■ FRBが実質債務超過になるメカニズム
FRBの純資産は1490億ドル。大きく聞こえるが、総資産に対する自己資本比率は、1490億ドル÷7.4兆ドル(総資産)だから、2.0%に過ぎない。
もし、米国債の金利が大幅に上昇して(といっても6~7%になるだけであり、歴史的には低金利の範囲だ。下の図3の過去60年間の金利を参照してもらいたい)FRBの保有する国債とモーゲージ債券の市場価格が50%低下したら、FRBの資産は「時価評価」すると3.7兆ドル低下する。
しかし、その時には、負債は仮に金利変動に対して時価評価しようと、7.2兆ドルで不変である。
そうなると、FRBの純資産価値は、資産価値3.7兆ドル-負債価値7.2兆ドル=マイナス3.5兆ドルだから、3.5兆ドル目減りする。
自己資本は1490億ドルだから、純資産価値のマイナスはそれをはるかに上回る。民間銀行であれば債務超過、破綻、ということになる。
そんな事態になったら、どうするのだろうか。
■ それでも大丈夫と言う人たち
驚くことに、このようなFRBの状況を「全く問題ない」と言う意見は多い。多数派といってもいい。
例えば、3月22日の日本経済新聞の定評ある経済教室において、ハーバー大学シニアリサーチフェローのポールシェアード氏は「超金融緩和と資産バブル(FRBの、筆者注)現行政策は妥当、懸念及ばす」という論文を発表しておられる。
その中で、シェアード氏は、「量的緩和(米国債のFRBによる買入、筆者注)は中銀通貨1ドルを政府債務やその他の資産1ドルと交換するものであり、資産スワップとよく似ている。(中略)民間部門がポートフォリオに保有するある形式の資産を別の形式に置き換えるだけだ」と主張する。 -
>>90
まもなく米国債の大暴落が始まる仕組みを詳解
前回のシリーズは相当に歯応えがあったようだ(「まもなく米株式市場に続き米国債も大暴落する」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64667)。
【本記事の図】今の米国債が過去最悪であることを説明する図
米国株式市場と国債、そしてドルはお互いに深く影響し合う。大事なことなので、別の角度から解説しよう。
前回説明したように、3月16~17日に「2023年まで金利を引き上げない」と発表した米国の中央銀行FRB(準備制度理事会)は「もう株式市場はコントロールしない」と宣言したのに等しい。
■ マエストロの指揮棒がFF金利だった
1987年から2006年まで、19年間もFRB議長に君臨し、マエストロと称えられたアラン・グリーンスパン時代のFRBは、政策金利であるFF金利を思い切って上下させることで、株も金融も経済もコントロールした。
グリースパン議長は、就任直後に株価が20%以上暴落したブラックマンデーの株式暴落を切り抜け、前回の2000年のITバブルを抑制するためにFF金利を思い切って引き上げた。
ITバブルが崩壊すると瞬時にFF金利をゼロ付近まで引き下げて、その後の成長を導いた。
退任の2006年までは、不動産から始まった株のバブルを押さえ込むために、FF金利を思い切って引き上げ続けて、2008年9月に、リーマンショックで株が暴落した時に、後任のベン・バーナンキ議長がFF金利を思い切ってゼロにまで引き下げる余地を作っておいた(下の図)。
(* 配信先のサイトで本記事の図表が表示されていない場合はこちらでご覧ください。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64749)
■ 株暴落を債券暴騰が緩和した「予定調和」
だから、リーマンショックまでは、米国の株が大暴落したら、国債が暴騰して、両方を大量に持つ年金などの巨大機関投資家は安泰でいられた。
世界最大の債権国日本の年金もその恩恵を受けた。まるで、「予定調和」あるいは「地震体験室」の中の地震のようだった。
そのため、私は安心していられ、2009年2月に出版した『太陽経済』の中で「リーマンショックが戦前型の大恐慌にならない理由」が書けた。
しかし、これからは米国株が大暴落したら米国債は大暴落する。さらに怖いのは、米国株が暴落する前でも、米国債はどこかで大暴落しうる。
「予定調和」はもうない。
■ 米国債のファンダメンタルズは過去最悪
株を評価するときにファンダメンタルズ(基礎的経済条件、複数あるから複数形であることに注意)があるように、国債にもファンダメンタルズがある。
国債のファンダメンタルズの中心は、財政収支である。
黒字が健全、赤字が不健全となる。特に、財政赤字の累積である「国債残高」を、その国の経済規模と比較した「国債残高の対GDP比率」が最重要とされる。
国債を返済する原資は、究極的には税収であるから、税を負担する経済全体の規模と比較するわけだ。
この比率において、今の米国債は、過去最悪である。このことを下の図を使って説明しよう。
■ リーマンからファンダメンタルズ悪化の一途
2008年のリーマンショックで発生した「金融システム危機」を救済するために、米国は巨額の財政資金を投入した。その財政資金を調達するために大量の国債を発行した。
そして、第2次世界大戦直後以来52年ぶりに、米国の中央銀行であるFRBがその国債を大量に買い付けた。
このFRBによる国債大量購入のことを「量的緩和(quantitative easing、略してQE)」と呼んだ。戦後2回目だから、QE2と呼ばれる。
注目してもらいたいのは、QE2が始まって一貫して米国債残高の対GDP(国内総生産)比率、つまり、ファンダメンタルズは悪化を続けてきた。
そして、新型コロナウイルス感染症の発生以降、米国債の対GDP比率はさらに跳ね上がり、ファンダメンタルズは急速に悪化している。
QE2によって、これからの米国債とFRBの危機の種がまかれた。QE1とは逆である。
■ QE1ではファンダメンタルズ大きく改善
FRBによる国債の大量購入、すなわちQE1は、第2次大戦直後の1946年から1951年に行われた。
日本と同様に、米国でも第2次世界大戦の戦費の調達のため、大量の国債が発行されて民間経済がそれを引き受けた。そして、終戦時には、米国債残高の対GDP比率は、史上初めて100%を超えていた。
戦後になると、米国の中央銀行であるFRBと財務省は平和になった戦勝国米国の民間経済が高度成長して、資金需要が高まり、金利の上昇が予想された。
金利が上がれば、国債は暴落し、国債を大量に保有する民間銀行が破綻して、金融危機を招くことが予想された。
■ QE1は一石二鳥だった
そこで、当時の米国政府は一石二鳥の政策を考え出した。それがQE1、つまり、FRBによる国債の大量購入だった。
QE1によって、米国の中央銀行であるFRBが、民間銀行からその保有する米国の戦時国債を「簿価で」、つまり、民間銀行の損なしに買い上げた。
FRBから米国債の売却代金を受け取った民間銀行は、旺盛な戦後の米国経済の資金需要に応えて、積極的に貸し出しを行って、ゴールデン50sといわれた米国の戦後の高度成長を支えた。
こうして達成された高度経済成長によって、税収も増加して、米国の「国債残高の対GDP比率」は大きく低下し続けて、1970年代末には20%近くまで低下した。
つまり、米国債のファンダメンタルズは大きく改善した。図2を見れば、QE1の直後から、米国債のファンダメンタルズの改善が急速に進んだことが分かる。
■ コロナでファンダメンタルズ悪化が加速
ところが、同じQEでも、リーマンショック以来のQE2では、米国債のファンダメンタルズである「国債残高の対GDP比率」の悪化は止まらない。
しかも、2020年に発生したコロナ対策として巨額の財政支出が必要になり、それを賄うために史上最大規模の国債発行を行なったから、米国の国債残高の対GDP比率は悪化した。
■ 「大きな政府」に転換したバイデン政権
そして、今年誕生したジョー・バイデン政権は、コロナ対策以外に、「格差是正」「景気刺激」「福祉向上」などを掲げて、200兆円規模の新たな財政支出を行うことを発表した。
ジョン・F・ケネディ亡き後を継ぎ、「公民権運動」「人種差別撤廃」という切実な国民の声に応え、「偉大な社会(Great Society)」の建設を目指した1963年のリンドン・ジョンソン大統領によく似ている。
ジョンソン大統領は、ケネディ前大統領以上に人種格差の是正に努めた功績は大きいが、野放図な福祉政策が(偉大な社会実験であったとも言える)その後の米国の財政を圧迫し、1980年代に「小さな政府」「市場原理」を掲げたロナルド・レーガン大統領を誕生させる素地を作った。
しかし、ジョンソン大統領時代に比べても、バイデン政権が引き継いだ時には、米国債残高の対GDP比率ははるかに高かった。
そして、バイデン政権の「大きな政府」は、米国史上最悪の国債のファンダメンタルズをさらに悪化させることは確実である。
なぜなら、「国内製造業の消滅」「高所得雇用の消滅」による「格差問題」を引き起こしているのが、1990年代以降のグローバリゼーション、2000年代以降のDX(デジタル・トランスフォーメーション)化の進展という「米国の強さ」「米国の生産性向上」である。
つまり、格差問題の解消は、バイデン政権のような単純な財政支出では解決不能だからだ(「太陽経済」という真の解決策については別の機会に説明しよう)。
ということは、バイデン政権の米国は経済を再建できず、財政赤字を拡大させてしまう。
■ ファンダメンタルズ悪化で何が起きるのか
米国政府は、現時点では世界最強の軍事力をもち、その通貨ドルは世界の準備通貨の6割を占めている。
その意味では世界中で圧倒的な政府であり、民間企業とは違い狭義の「倒産」はあり得ない。ドルを印刷すれば、世界で受け入れられるからである。
現にそうしている。
米国財務省が発行する国債をドルを発行するFRBが買うのは、ドルを印刷していることにほかならない。
しかし、その弱点は、国債の返済に必要なのが究極的には米国民からの税収であることだ。
第2次世界大戦直後のQE1では、戦後の高度成長によって、税収の急増により、財政収支が好転して、国債残高の対GDP比率は急低下し、米国債のファンダメンタルズは大きく向上した。
しかし、バイデン政権の「大きな政府」路線は、米国の財政をさらに悪化させるだろう。それが、米国債残高の対GDP比率が悪化する時に起きる確率が高いのだ。
ということは、米国債が「元の価値を維持したまま返済される可能性」が低下するということだ。
hardWorker 2021年3月29日 06:23
まもなく米株式市場に続き米国債も大暴落する
■ 株式市場のコントロール放棄したFRB
3月16~17日に、米国の金融政策を司る中央銀行FRBは、「2023年末までFF金利を上げない」と発表した。
私には「FRBはマーケットのコントロールを放棄します」あるいは、「さらに株式バブルを発生させます。後は知りません」とも聞こえた。
図1を見てもらいたい。2015年、今よりはるかに米国株が安かった時、すでにFRBはFF金利を引き上げ始めた。
「米国株は過熱になった。冷やさなくては」という正常な判断が働いたのだ。
しかし、2020年のコロナ以降の米国株は、FRB自身がFF金利を一気にゼロにすることでバブルを加速させた。2016年よりはるかに過熱だと分かっていながら。
つまり、FRBは株式市場のコントロールを放棄したのだ。
それだけ、コロナ克服のための景気刺激の必要性、そしてジョー・バイデン新政権の超大型の財政拡大を賄うために戦後最大の規模で発行される国債の消化のために、ゼロ金利政策を継続することが至上命題となったとも言える。
■ FRBは万能という共同幻想は終わった
前回説明したように、FRBはボルカー議長時代(1979~87年)に信用を回復し、マエストロと呼ばれたアラン・グリーンスパン議長時代(1987~2006年)に米国の経済と株式市場の長期成長を実現して、「FRBは万能」という評価を高めた。
しかし、3月16~17日の決定をそのまま実行すれば、これからのFRBは、株式市場はもちろん、国債市場と金利のコントロールを失うだけではない。
最後には、FRB自身のバランスシートの深刻な悪化によって、FRBそのものの信用、すなわち、ドルの信用を失うだろう。
「共同幻想」が終わろうとしている。
■ 米国株の大いなる錯覚
このシリーズのこれまでの2回では、
(1)コロナが始まった2020年から米国株は恐ろしく割高の水準まで上がってきたこと(特にGAMFAが所属するナスダック=NASDAQ)
(2)米国株を引き上げたのはFRBのゼロ金利政策(図1のFF金利、2020年にゼロになった)
(3)リーマンショックまでは「ゼロ金利になったら買い」が勝利の方程式だった(この報告は後で説明)
(4)ところが、今回のゼロ金利はコロナ対策のためで、コロナがなければ金利は「引き上げ」のはず
ということを説明してきた。つまり、今回のゼロ金利に基づく米国株高は「大いなる錯覚」である。この錯覚に気がついた時に、米国株式市場の興奮は去り、逆に我先に売りに走る。
■ 米国株大暴落の法則
特に、逃げ足が速いのが、ヘッジファンドや投資銀行のトレーダーたちである。
彼らに巨額の投資資金を貸している銀行も我先に、追加保証金(「追証=おいしょう」とも言う)を投資家に求め、払い込んでくれなければ担保に取っている株式を強制売却する。
これが大規模になれば、下げ→売り→下げ→売りが連鎖し、その中で投資家や金融機関の破綻が起き、津波のような下げを繰り返す連鎖反応が市場全体に広がり、数日間で大暴落する。
5年、10年かけた値上がり益は3~4日でなくなる。米国株の大暴落の法則である。
1929年の米国の大恐慌は4日間の株式大暴落で始まり、2008年のリーマンショックでは3日間で大暴落した。
■ 大暴落は津波
資本主義の総本山、米国の株式市場は、100年前も今も、巨大投資家と、投資家に投資資金を貸す銀行が主役である。
どういうことだろうか。
100兆円を超すような株の「ポジション」を持つ投資家の資金の中身を見ると、最大の資金源は「レバレッジ」つまり、銀行からの借金の複雑な仕組みであり、「自己資金」は一部にしか過ぎない。
(様々に「ヘッジ」はしているが、万能ではあり得ない)
お金を貸す時に、銀行は投資家の保有する株式を担保に入れている。株が大きく値下がりして、投資家が「追加証拠金」を積むことができなくなれば、銀行は自動的に投資家から担保に取っている株を売って、貸金の回収を図る。
銀行が売れば、その株はさらに下がる。
だから、株が暴落すると、銀行からの「清算売り」「アンワインデイングス」が大量に出る。大量に売りが出るとさらに暴落が広がり、さらに暴落を呼んで「大暴落」となる。
平時の株の上げ下げを潮の干満としたら、大暴落の速度は津波であり、逃げるのが難しい。
株の上昇には何年もの長い年月が必要なのに、大暴落は一瞬で起きる。トコトコとゆっくり上がるジェットコースターが急に真っ逆さまに落下するのにも似ている。
■ 大暴落は金融危機になる
大暴落が発生すると、銀行は投資家から担保に取っている株を直ちに売却しても、貸付を回収できず、銀行に損失が発生する。
銀行の損失が拡大すると「金融機関の破綻」が起き、さらに、金融機関の救済ができないと「預金破綻」「企業倒産」「経済恐慌」「大失業」そして「大恐慌」となる。
さらに世界に広がって「世界大恐慌」「ブロック経済」「持たざる国の困窮」が発生する。
実際、「第2次世界大戦」になった起点が1929年からの米国株の暴落だった。
■ なぜ「21世紀型大恐慌」を心配するのか
米政府が財政負担で「金融機関の破綻」を食い止め、米国の国際協調の要請に中国が応えて市場最大の財政支出で世界景気を下支えし、日米欧の協力でギリシャや南欧、東欧諸国の危機を救済したのが、2008年9月のリーマンショックだった。
そう観察したから、後で述べるように、私は「リーマンショックは戦前型大恐慌にならない」と2009年2月出版の本に書いた。
しかし、今、コロナ対策と戦後最大の景気後退で米国をはじめ各国の財政に余裕はない。
米中の対立は深まるばかりだ。
英国がEUを脱退して、米欧間の国際協調もいざというときの実効性が保証されなくなった。
「21世紀型大恐慌」の発生を心配する。
■ 怖いのは米国債の暴落
今回、恐ろしいのは、米国株式市場の大暴落とともに、米国債の大暴落が予想されるからだ。
2000年のITバブルの崩壊、2008年のリーマンショック、直近2つの米国株の大暴落が起きた時には、米国債は、平均して50%も価格が大暴騰した。
つまり、株の損を国債の益で相殺することができたのだ。
何も偶然そうなったのではない。
■ 米国債は最高値の天井圏
国債の価格には天井がある。
国債の価格を決めるのは金利だ。ゼロ金利の今が米国債の天井圏である(厳密には日々の値動きがあるが長期で見たら誤差の範囲)。
■ 債券市場は隠れた巨大市場
ここで、国債を含めた債券というものの基礎知識を解説しておきたい。多くの読者の方は国債あるいは債券を買ったことはないと思う。身近な「金利」とは金利をもらう「預貯金」か、金利を払う「ローン」ではないか。
まして、債券を売買する経験などないのが普通だろう。だから、多くの人には債券の値動きや損益といってもピンとこないだろう。
しかし、先進国の経済では、国債などの債券は株式市場と比較しても十分に大きな巨大マーケットだ。
ただ、株とは違って参加者が年金やファンド、金融機関などのプロがほとんどの“隠れた”巨大市場だ。だから、債券市場の変動は金融と経済に直結する。
米国の債券市場総額は約40兆ドル(約4400兆円、2017年1Q)、株式市場は約51兆ドル(約5600兆円)だ。
(日本は債券市場が約1100兆円で、市場規模700兆円の株式市場よりも大きい)
そして、米国債の大暴落は、金融機関や年金、そして、中央銀行であるFRBを直撃する。
■ 金利と国債価格は逆に動く
次に、国債の大事な基礎知識をお伝えしたい。
株式と違って、国債の「市場価格」には、「金利と逆に動く」性質がある。
金利が上がると価値は下がり、金利が下がると価値は上がる(社債には、信用度による価格変動という要素が加わる)。
株と違って、国債の価格に天井があるのは、金利の「逆数」の性質を持つ「国債価格」は金利がゼロの時(もしマイナス金利といっても誤差に近い)が最高になるからだ。
■ 1%金利が動けば米国債は10%動く
金利感応度(デュレーション)という金融用語がある。「1%金利が動けば債券価格は何%動くか」かを表す指数だ。
米国債のデュレーションは約10である。つまり、1%金利が上がれば米国債全体は10%下がる。
リーマンショックでは米国債は大幅上昇した
図1を見ていただきたい。
リーマンショックの前は、FRBは黒い線のFF金利を大幅に引き上げていた。株式市場の過熱を抑えるためだ。金利上昇につれて米国債の価格もどんどん下がっていた。
しかし、いったんリーマンショックが発生したら、FRBはFF金利をゼロにまで引き下げた。先ほど述べたように、米国債の金利感応度は約10だから、アメリカ国債の価格は約50%ほど上昇した。