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ネット小説大賞 ヤフー株板編

ネット小説大賞 ヤフー株板編の掲示板

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  • 2022/10/21 19:57
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掲示板のコメントはすべて投稿者の個人的な判断を表すものであり、
当社が投資の勧誘を目的としているものではありません。

  •  こんばんわ。

     今日、しばらく書き込み不能の状態が続いていました。
     もう直ったのかな?

  •  記入者:嘘田美子
     職業 :会社員

    いつものとおり美子は出勤して来た
    そこに課長が言った
    「よう嘘田くん。今日はきれいだねぇ」とみんなの前で言った
    美子「きゃあ! セクハラで訴えてやる」
    その課長は「なっなんで訴えられるんだ!」

    美子も周りも、美人とは思っていなかった。お世辞のつもりが
    公然と馬鹿にされたと思ったらしい。
    そして美子は別な男社員に二人だけになった時こう言われた。
    「なにが! ブ.スが訴えるだって? ふざけんな」
    美子は「きゃあ! 訴えてやるー」と激怒

    そして課長は罰金、その男社員は無罪となった??
    刑法231条【侮辱罪】
    事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は拘留、または科料に処する。

    課長より酷いことを言われたけど無罪
    公けの場で言わなければ罪にならないとさっ
    こんど言ってみよう。しかし最近は女性が強いから
    場合によっては袋たたきにされるぞっ!!

  • これはまだ続きがあるのですね。麻奈は死の病を抱えたまま恋をしていたのですか?
    これはっつぎがありません。

    これを書いたのは小説を書き始めたころで何を書いて良いか分からなく
    駄洒落小説ばっかりですよ。

  •  おっ、ドリームさんは神出鬼没ですね、久しぶりに覗いてみたら・・・・・

     これはまだ続きがあるのですね。麻奈は死の病を抱えたまま恋をしていたのですか?

  • 作者 城(ジョウ)→現在 ドリーム
    記入者  青年
     職業  販売員

    〔二つの携帯電話〕

    ある一人の青年が強烈な恋に陥りました
    麻奈と言う女性も同時に運命とも思われる出会いだった
    とあるデパートの売り場の麻奈は一際は美しい女性だ

    青年も一階上の革製品売り場の派遣店員だった
    麻奈はバックを買いに青年のいる売り場に来たのだった
    二人の目が合った時、互い衝撃が走った
    つまり互い運命の人と出会った瞬間である。

    それから三日、二人は海岸の小波の音を聞きながら
    甘い香りに包まれて、恋のメロディーが海岸にいっぱい広まるほどに

    それは誰もが羨むほどの恋人同士だった
    それから一年が経とうとしていた二人の仲も熱く灼熱の太陽のように

    しかし二人の間に突然別れの通告とも言うべき転勤辞令がおりたのだった
    青年は転勤で麻奈を残してシンガポールに行った
    熱く熱く燃え上がった二人の恋は更に熱く燃え上がる
    遠すぎた距離と時間に冷やされる事もなく

    それから半年間二人の遠距離恋愛が始まった
    しかし其の後何故か麻奈からの連絡が途絶えた

    青年が帰国した時は麻奈の姿は忽然と消えていた
    前触れもなく麻奈は消えた……一体どうしたと言うのか!

    それから更に一年、青年は二つの携帯電話を持っていた
    一つは新しい携帯電話と番号

    もう一つは麻奈と話した思い出の携帯電話と当時の番号のまま
    青年は、今は使いもしない携帯電話を、二つをいつも持ち歩いている

    それが最後の麻奈との細い一本の糸だから
    そしてついに古い携帯電話の呼出音が鳴った

    青年は興奮気味に言った「麻奈!」
    それは麻奈の母から声だった

    麻奈の母は語ってくれた整理していたら携帯電話が出てきたと
    そこには二人の愛のメールが綴られて知ったと言う母の涙声

    「麻奈の母です、麻奈は貴方にひと目逢ってから 天国に召されたかったと」

  • 第三弾です。
    これらは小説を書き始めた頃のものです。
    しかし酷いですね。我ながら笑ってしまいます。


     記入者 地元住民
     職業  漁師

    鶴の舞い

    湖には鴨が餌を食べていた

    鴨はやっと見つけた餌場だった

    其処に鶴が舞い降りて来た

    当然のごとく鶴は大きな翼を広げて

    鴨を威嚇して追い払い餌を横取りした

    それを見ていた地元の住民が呟いた

    「あの鶴達はツルんでやがるな、鴨がカモにされたか」

  •  けものたち

     七
     康介と加奈子は五日間を洋一たちと共に過ごした。洋一たちは康介と加奈子を退屈させないように竹富島や小浜島、そして西表島などを案内し、シュノーケリングに連れて行った。また、バーベキューで石垣牛や新鮮な魚介類を味わってもらった。村の人たちも遠来の客のために魚介類や地場野菜などを提供してくれたほか、沖縄三味線を持ってきてバーベキューの炉のそばで歌う人もいた。洋一はここへ来てからの昭子の変貌ぶりに驚いていた。どちらかというと家から出ることは少なく、いつも家で花を生けたりお茶を点てたりする、控えめな、嫋やかな女だと思っていたのに、今はまるで生まれつきそうであったように、真っ黒に日焼けした体を気にもかけずに毎日飛び回っているのであった。
     そしてそのことに一番驚いているのは昭子自身であった。あの、お茶やお花を楽しんでいた自分と、マリンスポーツに興じるいまの自分と、いったい、どっちが本物の自分なのだろうか分からなくなるのであった。
     洋一の絵に現れた変化も大きかった。雄大な自然を描くことが洋一の信条だった筈なのに、今は浜の女たちの逞しい生き様を描くことに、生きがいを感じるようになっていた。康介の店に送った人物の絵はいずれも好評で、一人で続けて何点も購入しようとする人も出てきて、個展を開かないかという話もあったが、洋一にはそんな話には興味はなく、煩わしいばかりなので何度言われても断っていた。
     康介と加奈子も、初めて訪れた石垣島での半田夫婦の変わりように戸惑いを隠せなかった。康介にとって、憧れの存在だった昭子にはもう以前のような淑やかさは全く見られず、別人のような女に変貌していた。そして加奈子も、自分と同類だと思っていた洋一が、声をかけるのもためらう様な、近寄りがたい孤高の芸術家になってしまったと感じていた。
     五日間の滞在を終えた山田夫婦と、彼らを迎え入れた半田夫婦は、それぞれの想いを秘めて石垣空港で別れたのであった。

         了

  •  けものたち

     六
     それから1年が過ぎた。山田康介と加奈子は初めて沖縄の半田夫婦の住む石垣島にやってきた。
     半田夫婦が福井を離れてからも、康介の店で売るため洋一の絵を送ったり、一度は旅行先のヨーロッパの町で待ち合わせて逢うなどしたこともあったが、山田夫婦が2人そろって沖縄に来るのは初めてだった。
     康介は、以前はアンティークの仕入れのために、一人で旅行をしていたのだが、洋一たちがいなくなってからは、加奈子は一人で留守番をすることを我慢できなくなり、店番と犬の散歩を近くに住む妹に頼み、いつも二人で旅をするようになっていた。

     半田夫婦もまた、沖縄に来てからは大きな生活の変化があった。
     洋一の描く絵は福井にいた頃は風景画ばかりだったが、沖縄に来てからは浜の女たちを描いたり子供たちを描いたりすることが多くなっていた。またこちらに来てから見違えるように日に焼けた妻の昭子をモデルにして描くこともあった。
     昭子は、以前は家の中でお茶やお花を楽しむことが多かったのだが、あるとき洋一と共にシュノーケリングに出かけてからは、すっかりそれに魅せられてしまって、近くのダイビングスポットに、一人ででも出かけたり、近所の友達の船で誘い合って小浜島辺りまで出かけたりして、すっかりマリンスポーツの魅力に取りつかれてしまっていたのである。
     それにつれて、昭子の性格も、今まで隠れていた部分が表に出てきたのか、家に引きこもってお茶やお花を楽しむことはほとんど無くなり、海へ遊びに行く時以外も、暇があれば浜のサーフィン仲間と海沿いのカフェでおしゃべりする事が多くなっていた。
     すっかり変わって、まるで生まれながらの南国の女のような風貌になっていた昭子を見て、訪れた康介と加奈子を驚かせたのだった。

     洋一たちの住まいは島の北側に位置して、漁師の家や民宿やレストランやカフェなどが点在する、南北に伸びる小さな部落にあった。
     洋一たちはそこでの生活に満足していたのだが、初めて訪れた康介たち、とくに加奈子は、ひと晩過ごしただけで、退屈でどうにもならなくなり、なんでこんな、何も無い寂しいところがいいのかと不思議に思ったものである。
     昭子は、そうね、きっと加奈子さんはそう言うと思っていた、でもここには豊かな自然があって、浜の人達はみんな親切だし、漁師さんは取れたての美味しい魚を持ってきてくれるし、洋一の画題にも事欠かないし、私にも海に潜って遊ぶ楽しみが出来たし、・・・・・

  • けものたち

     五
     さらに数ヶ月が過ぎた。
     この問題は、初めは誰も、後々のことを考えていたわけではなかった。夫婦が互いに相手を取り替えて一夜を共にする、などというのは現実にはあり得ない話だが、凄くワクワクする話のようにも思えた。しかし一度それをすれば、二度、三度となるのは必然的だったし、そうすれば、やがては近所の人にも知られることになったであろう、そして半田夫婦には東京で全寮制の宿舎に入っている高校生の息子がいたし、山田家には子供はいなかったが近所には弟や妹の家族も住んでいた。
     そんな人たちに知られることにでもなったら、それはもう、取り返しの出来ない事態になり、まともに暮らして行けるわけがなかった。ようやく時間をおいてそういうことが実感として分かってきた時、なんて恐ろしいことを考えていたのだという事に、四人ともが気付き始めていた。
     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     洋一たちが福井に引っ越してきてから二年近くになっていた。
     ある夜、四人で食後のお茶を楽しんでいる時、洋一は言った。
     「なあ昭子、そろそろまた引っ越ししようか? ここも悪くはないが、今度はもっと暖かいところに住んでみるのもいいかなと思うのだが・・・どうだろう」
     昭子はいつも夫のいうことには従順だった。実際、彼女が思っている事をちゃんとわかっていて、昭子が何も言わなくても洋一の方から提案することが常であった。
     「そうね、私も大賛成だわ。沖縄なんかどうかしら? 加奈子さんたちと別れるのは寂しいけど、いつでも遊びに来てね。私たちもまた訪ねてきてもいいし・・・・・」
     康介「ああ勿論だよ、俺たちも沖縄に行く口実ができるのは嬉しいさ。なあ加奈子」
     「そうね、とびっきりスケスケのビキニを着て泳ぎに行くから、洋一さん期待して待っててね」
     康介「おいおい、大丈夫か、お前幾つになったんだ?」
     昭子「大丈夫よ。加奈子さんは、まだ体の線は崩れてないわよ」

     二週間後、沖縄の石垣島での住む場所も決まり、衣類や家庭用品の大部分と、家具のうち愛着のあるものは新居に発送して、残りは山田家に譲るか、処分を委託して、スーツケース二つだけを持って小松空港から飛び立つことになった。
     小松空港まで山田夫婦に送ってもらう事になったのだが、車内では四人ともが同じ思いにふけっていた。それは勿論、あの日の加奈子の爆弾発言とその後の気持ちの葛藤についてだった。
     表面的にはなんの事件も起きなかったのだが、彼らにとって、その心の内は、一生、決して忘れることのない二年間の、めくるめく夢のような享楽の日々であった。

  •  けものたち

     四
     その客、横田泰三は、加奈子から紹介を受けて、早速、洋一の自宅兼アトリエを訪ねた。
     そこにある絵はほとんど皆、風景画である。もちろん、それはそれでいいのだが、横田はどうしても、あの加奈子の絵が欲しかった。だから、
     「同じものをもう一枚書いていただけませんか?」
     と頼んだのだが、洋一は気が重かった。
     創作は楽しいが、同じ絵の二枚目を描くのは単なる労働である。洋一は商売で絵を描いているわけではない。まして人物画は洋一の得意分野ではない。
     「せっかくですが、それは出来かねます」
     と答えた。
     しかし横田は諦めなかった。
     「そう言わずになんとかお願いします。加奈子さんにもお願いしたのですが、あの絵は素晴らしい。私は一目で惚れこんでしまって、あの絵を分けて下さいと言ったのですが、いや、これは私の宝物だと言って、どうしても譲ってもらえなかったので、こうしてお願いに来たのです」
     「困りましたね。私は気が進まないのですが、それにしても描く以上は加奈子さんの許可も必要だし、だいいち、モデルとして座っていてもらわなければならないのですが・・・」
     「分かりました。加奈子さんには私からもう一度頼んでみます。今日は突然やってきて無理なお願いをしてすみませんでした」
     と言って帰っていった。
     無理に押し切られた形ではあったが、洋一は加奈子さえよければ引き受ける気になっていた。
     横田氏は加奈子の店の大事な常連客だろうと思ったし、絵のモデルを口実に加奈子と一対一で過ごせることも楽しみだった。
     洋一は自分とよく似たタイプの加奈子に、妻の昭子には無い親しみを感じていた。前の絵のスケッチを描いたのはほんの思い付きで、それをあの十二号の額縁付きの油絵に仕立てるつもりは無かったのだが、家に帰ってキャンバスに向かったとき、加奈子の喜ぶ姿が目に浮かび、筆が進んでしまったのであった。
     人間の心と身体は一体のものである。加奈子への関心が深まるにつれ、動作にもそれが表れ、言葉使いも立ち振る舞いも、知らない人が見たら夫婦かと思うような親しい関係になっていった。そういう空気は、当然、加奈子も同様で、女性の場合は身体から特殊なフェロモンが発せられるようであった。
      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     洋一たちが福井へ来てから、もう一年半になろうとしていた。
    そんなある日、事件は起こった。
     ある日、洋一たちのマンションに康平夫婦が来て一緒に夕食をとっている時、加奈子がふと、酒の酔いも手伝って、
     「ねえ昭子、今夜一晩、旦那を交換しようか!」
     と言ってしまったため、一瞬、その場が凍りついてしまったのである。
     時間が止まった。それはほんの一~二秒間のことではあったが随分長く感じられた。実はその時は、康介も、洋一も、そして昭子までも、口には出さずともそういう雰囲気になっていたのである。そんなことが、特別あり得ないことのようには感じなくなっていたのである。洋一は今の加奈子の発言が自分の口から出たのではないかと錯覚したくらいである。

     しかし、一瞬ののち、加奈子が、
     「あはは、みんな本気にしてる!! 冗談冗談、」
     といったため、表面上は冷静を取り戻したかのように見えたのだが、・・・・・・

     数日置いて今度は山田家の中庭で加奈子の手料理、(と言っても、ピザやサラダなどが中心で、さほど手のかかったものではないが、)を頂くことになった。
     洋一は言った。
     「加奈子さん、この前はびっくりしたよ!! でも残念だったな。俺、加奈子さんを押し倒してみたかったなあ!」
     「あら、じゃあほんとうにそうすればよかったのに、ねえあなた」
     康介 「俺も洋一だったら許すよ、ほんとは、あの時君が冗談冗談!と言わなかったら誰も反対しなかったと思うよ。ただ俺は昭子さんとは、そういうのでなくて、お茶をいただいて、静かにお話しして過ごしたいと思っていただけだがね」
    昭子 「私も洋一が加奈子さんとそういう関係になっても、きっと嫉妬する気は起きないと思うわ。康一さんだって、嫌がる私にそういうことを強いるような人ではないし、少し時間をもらえば、きっと康一さんと私も、そういう夢のようなひと時を過ごすことができたと思うの」
     冗談を装ってはいても、その場の雰囲気はぎこちないものだった。洋一はなにかそのことに触れないとかえって不自然な気がして、冗談めかして言ったのだが、なんとなくよそよそしい、口から出る言葉と、思っている事とが違うという、虚しい空気の流れを感じ取っていた。
     昭子は、自分が加奈子からの突飛な提案を聞いたとき、別段それが特別あり得ない提案のようには感じていないことに驚いていた。自分の心の底に眠っていたものが、加奈子の言葉で目覚めたような気がしたのである。いったい、貞淑そのものだと思っていた自分という女は何者なのかと、不思議に思ったのである。

  • けものたち

     三
     洋一は風景画を描くことを趣味としていた。会社を立ち上げてからは忙しくてゆっくり絵を描く時間は無くなっていたが、福井へ来てからは暇があるとスケッチブックを持って出かけるか、自宅でキャンバスに向かう毎日であった。
     康介がときどきヨーロッパ方面へ仕入れに出かけているのを知って、洋一も時にはスケッチブック持参で同行するようになっていた。康介がイタリアの田舎町で裏通りを歩くとき、洋一も一緒について行って街角でスケッチをするか、または一人で海岸へ向かってイーゼルを立てるときもあった。
     そうして描いた絵が増えすぎてしまって困っているのを見た山田康介が、
     「売れるかどうか分からないがうちの店に飾って見ないか」
    と言ってくれたので、
     「それはありがたい。値段はいくらでもいいので置いてみてくれないか」
    と言って四号から十二号までの油絵を数点、預けることにした。
     いくらでもいい、とは言っても書くのに要した時間や画材の代金など考えると、最低でも五万円~二十万円ぐらいの値をつける必要があると康介は考えて加奈子に値付けと飾り付けを頼んだ。
     特に絵の詳しい人でなくても、丁寧に描いた美しい風景画は見ていて心を豊かにしてくれるものである。何度も訪れてじっくり見て、買っていく人が一人、二人と出てきた。加奈子もそういう客との会話を楽しんでいるようだった。
     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     あるとき、加奈子が、店先で客と話しているのを見た洋一はメモ帳にサッとスケッチを描いて持ち帰り、キャンバスにそれを再現して見た。洋一がこれまで書いたのは、ほとんど風景画ばかりで、人物画としては学生時代に仲間数人とモデルを雇って描いたとき以来だった。しかし、この時の加奈子の絵は我ながらなかなか良い出来だと思ったので、きれいに仕上げて加奈子にプレゼントすることを思いついた。
     しかし仕上げるためには、やはり前に座って微細な色合いなど最後の調整が必要だったので、夕食を招待しがてら、山田夫婦を呼んで加奈子に見てもらうことにした。

     「わあ、素敵!これが私?」
     加奈子は大喜びだった。その日は三十分ほど、さらに翌日、お天気も良かったので加奈子に来てもらい、ベランダを開け放ち、太陽光の下で最後の色の調整をした。
     出来上がった絵を受け取って、お金を払うと言っても、勿論、洋一が受け取る筈はない。何かの形でお返しをするという事にして早速それを店の奥の応接セットのうしろに掛けた。何度も何度もそれを見ては楽しんでいた。
     売り物では無いので値段はつけてなかったが、モデルがその店の奥さんだという事は一目で分かるので、常連の中には、
     「この絵を分けてくれないか、」
     という人が出てきた。
     「それは出来ないわ。いくらお金を積まれてもそれは無理よ」
     「これは私の宝物だもの」
     「でもよかったら絵描きさんを紹介するわ。だから誰かモデルさんを決めて描いてもらいなさいね」
     「いや、この、奥さんを描いた絵が欲しいのだが、もう一度、モデルになってはもらえないかね」
     「やだわ。若い子ならいいけど、こんなおばさんなんかをモデルにしてどうするの?」
     「まあ、そう言わずに頼むよ。この絵のような落ち着いた雰囲気は若い子では出せないと思うのだが・・・」
     「それはともかく、その絵描きさんはいつ紹介してもらえるかな?」

  •  二
     洋一たちの福井での毎日は朝の散歩から始まる。東京にいた時は毎日仕事で出歩いていたので、わざわざ散歩に出掛けなくても運動不足になることはなかったが、こちらではそうはいかない。大雨や台風など、よほどの悪天候でない限り、いつも夜明けと同時に二人で家を出て、三十分か一時間ぐらい歩いて、帰ってから朝食を摂るのであった。
     車で通り過ぎるだけでは分からない裏通りの小さな店や 、住んでいる人の人柄が偲ばれるような、個性のある新築の家など見て歩いていると楽しく、今日はどの辺りを歩こうかと迷うのも、東京で仕事に追われていた時には味わうことが出来なかった楽しみである。
     そうしたある日、時々出会う、ラブラドールを連れた中年男性から声をかけられた。いつもは、
     「こんにちわ」とか
     「お早うございます」
     とだけ言って通り過ぎるのだが、その日は、
     「最近よく見かけますが、昔からこの辺りにお住まいなのですか?」
    と聞かれ、
     「いや、3月ほど前に引っ越して来たばかりです」
     と答え、それからは会うたびに少しずつ会話も増えてきて、山田康介という、その人と出会うのが楽しみになって来た。
     ある時、女性が連れて歩いている犬が、半田夫婦を見て尻尾を振って近づいて来たので、その人が山田康介の妻の加奈子だとわかり、加奈子とも声をかけ会うようになった。旦那が不在の日には加奈子が犬の散歩をしているのである。聞いて見ると康介も、妻の加奈子も四十三歳と四十一歳で洋一たち夫婦と同じ歳だとわかった。
      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
     山田康介はヨーロッパのアンティーク小物を収集し、販売するのを仕事としている。以前は繊維製品のブローカーだったのだが、趣味で海外旅行に出かけた時、イタリアの田舎の町の裏通りで売っていた古い生活雑貨が気に入って、少しずつ買って帰るうちに、それが貯まってきたので店に並べておいたら、それを欲しいというお客さんが現れて、そういう人がだんだん増えてきて、繊維の仕事が少なくなって来るのとは反対に、今ではそれが本業のようになってしまったのである。
     そして今では趣味と仕事を兼ねてヨーロッパ各地にある、そういったアンティーク小物の商社を訪ね歩く仕入れの旅に、二~三か月に一度は出かけるようになっていた。
     康介の店は半田家のマンションから五百メートルほどのところで、住宅地を背にした、かなり広い通りにあったが、走る車は少なく、雑貨店やイタリアンレストランなどが点在する静かな落ちついた雰囲気の街だった。康介の店もそうした街によく似合った構えで、食事帰りに、新しい商品が入ったかと立ち寄る馴染みの客も多かった。
     さほど儲かる仕事ではないが他に繊維商時代に建てたアパートの家賃収入もあり、生活は安定していた。
     妻の加奈子も以前は一緒によく旅行に行っていたのだが、店の客が増えてきたのと、犬も飼っているので、今ではほとんど康介一人が仕入れの旅に出掛けるようになっていた。
     加奈子は好奇心の強い、何事も積極的な、そして思いっきりの良い、活発な女性だった。店で留守番しているだけの生活には飽き飽きしていたので、半田夫婦と仲良くなるにつれ、閉店後に彼らを店の奥の自宅に招いて、中庭でバーベキューをしたり、半田家のマンションを訪ねて、洋一の描いた絵や、昭子の活けた花を見て、お茶を頂いて、おしゃべりをするのを楽しむようになった。昭子から誘いがあるといつも康介を追い立てるようにして出かけるようになっていた。康介が旅行中のときは加奈子一人でも自宅に半田夫婦を呼んだり、半田家のマンションにふらりと立ち寄ることが多くなっていった。
     半田夫婦としても福井には特に知り合いもいなかったし、気の合う山田夫婦との付き合いは楽しかったので、加奈子の誘いには喜んで付き合ったし、康介が旅行中で、加奈子一人だけの時には毎日でも家に食事に招いたりする事もあった。昭子は料理も得意だったので、加奈子の訪問が続いても気にならないどころか、来ないと寂しく思うことさえあった。
     両家は親友というより、次第に家族のような付き合いをするようになっていった。

  •   有難うございます。

     お世辞とわかっていても、褒められるとうれしく、調子に乗って次の作品も読んで頂きたくなりました。
     何回かに分けて投稿させて頂きます。

     けものたち
     一
     半田洋一四十三歳、世間的にはまだ若いが、洋一はもう十分仕事をして来たし、それなりの資産も築いてきた。大学卒業と同時に始めたIT関係の会社は、今は若い社員たちだけでしっかり成長し続けているので、数年前から、いつ、社長職を退こうかと考え始めていた。そして、創業当時から一緒にやってきたひとつ歳下の副社長に譲って、今年春に、この北陸の田舎町、福井で暮らすことになった時には、なぜか昔から,そうすることが決まっていたかのように感じたものである。
     洋一は好きでIT業界に入ったのではない。大学を卒業した時、これから何かで生きてゆかねばならないと思った時、たまたま注目されていたのがこの業界だったので、収入を得るために、当時まだ学生だった後輩の二人と共に、最初は彼のアパートで、互いのパソコンを持ち寄って業務を開始したのである。
     学生時代は美術部に籍を置いていたのだが、絵を描いて暮らしていけるほど甘い世の中でないことは分かっていた。

     二つ歳下の妻の昭子とは、洋一たちが美術館で作品の発表会を行ったとき、会場に設けられた茶席を、昭子がボランティアで手伝いに来ていた縁で知り合った。当時美術部の部長をしていた洋一と、女子大の茶道部から派遣されてきた昭子と、打ち合わせのために会ったのが最初である。何事にも積極的で行動派の洋一は、着物の良く似合う、静かな物腰の昭子とたちまち意気投合して、お茶会に誘ったり双方の学園祭のイベントに呼んだりして付き合いを深めていたのだが、昭子の大学卒業を待ってすぐに、洋一から受けた結婚の申し出を、昭子は迷わず即決で承諾した。

     昭子もまた、福井という、こんな、縁もゆかりもない街で住むことになった事に全く抵抗感はなく、洋一の提案を至極当然のことと受け止め、とても喜んでいた。
     十五年ほど前に初めて福井へ来て、越前海岸の民宿で新鮮な魚料理を食べた時には、思わず目を見合わせて、こんな美味しいものが世の中にあったのかと、二人で感動したものである。それ以来、年に一~二度は必ずやって来て、スケッチブックを手に越前海岸をドライブして、馴染みの民宿の魚料理に舌鼓を打ったり、養浩館庭園や朝倉遺跡、恐竜博物館などを見学したり、苔に覆われた平泉寺の参道を歩いたり、冬にはスキージャムで滑ったり、そして夏には若狭の海で泳いだりして、すっかり福井の虜になってしまっていた。
     福井ならどこでもよかったのだが、住むとなったらやはり便利なところがいいので、博物館や美術館、図書館や、広い公園などが点在する福井市北部の灯明寺地区にあるマンションを住まいと決めた。

  •  高校教師

     八  
     三ヶ月が過ぎる頃にはすっかり社員食堂として、毎日しっかりと、川田が期待していた通りの役目を果たせるようになった。スタッフは一人だけ正社員の調理師を雇ったが、ほかはパートで近所に住む農家の主婦の七人だ。皆良く働いてくれる逞しい女たちだった。
     朝、出勤してくると米を研いで業務用の炊飯ジャーのスイッチを入れる。そして前日用意した材料を煮たり焼いたりして料理を作り、十一時頃から盛り付けを始める。早い社員は十一時半ごろに来る場合もある。その日何人の利用者があるかは二日前に人事部の方から連絡がある。社員は現場と事務職と合わせて七十人ほどだが、支店勤務の者、出張中の者や弁当派の者もいて、毎日用意するのは大体四十〜五十人分ぐらいだ。メニューは十〜十五点ぐらいのうちから好きなものを選んでもらうバイキング方式を取る事にした。
     終わった後は残飯をディスポーザーにかけたあと食器をざっと手洗いし、食器洗い乾燥機にかける。そのあと翌日の食材の皮を剥いたり切ったりと、作業が続く一方で、食堂全体を掃除してアルコール消毒を済ませる。それで大体、六時近くになる。慣れてくると、雪乃が何も言わなくても、一連の作業がパートの人達だけでスムーズに流れるようになった。
     ・・・・・・・
     雪乃を川田鉄工へ紹介したあと、『ユキ』へ行く楽しみが無くなった孝太郎は同僚が良く行く学校近くの『辰巳屋』という小料理屋へ行くようになった。雪乃という話し相手のいない酒は少しも‟旨い”ものではなかったが次第に慣れていくより仕方が無かった。
     半年ぐらい経って、久しぶりに、また川田社長から電話があった。今度はその『辰巳屋』で逢おうというのである。ユキが閉店してからはこの店が孝太郎の行きつけの店になっていることをちゃんと掴んでいたらしい。七時頃と言われたが、馴染みの店なので早めに行って待つ事にした。
     「先生、ご無沙汰しています。今日はちょっと、ご報告したいことがあって、ご足労をお願いしました。実は・・・・・」
     と言われただけで、なんとなく予感がしたのだが、やはり、予感は的中した。
     「実は、妻とは仲違いしたつもりは無かったのですが、ほとんど実家へ帰ったきりだったので、たまには娘と二人で帰って来いと言ったところ、田舎住まいにはとても耐えられないので別れさせて下さいと言って来たのですよ。そして娘も取り敢えず妻の実家の方で預かるが、親権は俺の方につけてもいい、と言って来たので、それなら、ということで別れる事にしたんです。そして・・・」
     「分かった。その話を二人で言いに来たということは・・・・・つまり、アレだな、雪乃ちゃんと・・・・・」
     「お察しの通りです。なんか妻から言ってくるのを待っていたように見えるかも知れませんが、決して・・・・」
     「いや、いつだったか、摩天楼で飲んだ時、そんな気がしていたんだよ」
     「そうか、まあ、とにかくお目出とう。今日のここは私の馴染みの店なので、お祝い替わりに勘定は私が持たせてもらうよ。ところで式はどうするのかね」
     「はい、別れてすぐ、というのもまずいので、半年ぐらい後に、近い身内だけでひっそりとやろうか、と考えています。先生にはどうか媒酌人としてご出席をお願いします」
     「分かったよ。雪乃ちゃん、よかったね。本当におめでとう」
     孝太郎は前に、雪乃の自宅で誘われた時、自制心が働いて誘惑をおさえ込むことが出来た事にホッとしていた。あの時、成り行きに任せて雪乃との間で一線を越えてしまっていたら、こんなに気持ちよく二人を祝福する事は出来なかったであろう。
     だが、そう思う一方で、雪乃との間にもっと深い繋がりが出来ていたら、退屈極まりない彼の人生に華やかな色どりを添える事が出来たかもしれないと思うのであった。
     人は誰でも、欲望と自制心がせめぎ合う中で、判断を迫られることがある。教員として長く勤(つと)めているうちに身についた自制心を、くそ喰らえ‼ と思うこともあるが、ようやく校長の辞令を受け取ったばかりの孝太郎にとって、まだしばらくは、謹厳実直の教育者という仮面をかぶっていなければならないであろうと、心に誓うのであった。

               了

  •  高校教師
     七  
     雪乃が川田鉄工に就職して二週間ぐらい経ったころに孝太郎に川田社長から電話があった 
     「先生、川田です。雪乃さんを紹介して頂いてありがとうございました。彼女は張り切って働いてくれていますよ」
     「ところで先生、今夜あたり一杯如何ですか? ユキが無くなってから、行くところが無くなってお困りなんじゃ無いでしょうか?」
     雪乃が新しい職場に慣れたかどうか、孝太郎も心配していたところだったので、
     「川田くん、そう言ってくれるのを待っていたんだよ。勿論私はいつでもオーケーだ。どこへ行けばいいのかね?」
     「片町の有楽ビルの三階に『摩天楼』というクラブがあるのをご存知ですか? そこへ七時半ごろから私は行っていますので、ご都合の良い時間にいつでも来て頂ければいいと思います」
     『摩天楼』は勿論知っている。だが高校教師の給料ではそう簡単には行くことができない高級クラブだ。七時半を少し回った頃にタクシーを呼んでそこへ向かうと、川田と一緒に雪乃も座っていた。昼間は給食係をしている人とはとても見えない艶やかなドレス姿だった。
     「いやあ、雪乃ちゃん、しばらく。今日はまた一段と煌びやかで、お美しくて、どこの高級マダムかと思ったよ」
     「先生。その節は本当に有難うございました。おかげさまで社長さんにも良くして頂いていますし、少しずつ仕事にも慣れて来たところです。今日はまたこんなところまでお誘い頂いて、なんか昔に、といってもついこの前の事ですけど、戻ったような気分です」
     孝太郎は川田と雪乃の関係が、単なる社長と新入社員の関係を超えて親しそうな様子である事に気がついた。
     「ところで川田くん、私は川田くんの奥さんや娘さんとはお会いしたことはないのだが、あの会社横の自宅で一緒に住んでいるんだね」
     「いや、それが実は・・・・娘は福井市の明宝中学に行っているのですが、うちからは遠いんで、妻の実家から通っているんですよ。そんなわけで妻も最初は行ったり来たりしていたんですが、どうもあんな田舎ですからだんだん家には寄り付かず、最近はほとんど実家暮らしをしているんですよ。まあ、ほんとに何も無いところですから、日中は退屈で仕方が無いということは分かるんですが・・・・」
     「そうか、静かで自然豊かで、一見、住むには最適の場所のような気がするのだが、町の暮しに慣れた奥さんや娘さんには退屈なのかな」
     その日は久しぶりの酒ではあったが、教え子の奢りで飲むのにはやはり遠慮があり、会社の近況や雪乃の仕事の進捗(しんちょく)状況などを聞いたあとは、二軒目に行こうというのを断って、一時間ほどで引き上げて来た。経営者としては有能な川田だが家庭的には問題もあるようだという事と、雪乃との関係がどうなるのか、ちょっと心配だった。初め元教師の自分を交えてではあったが、そのあと新入社員の独身女性と社長がふたりだけで飲み歩くというのは、ちょっと、普通の関係では無いような気がしたからである。


     つづく

  •  高校教師
     六  
     会社の営業開始は九時なので、八時前には家を出なければならない。スナックの時は夕方の出勤だったので慣れるまでしばらくは早朝の出勤は辛かった。
     会社へ着いても、最初は給茶器の仕込みをしてお盆にコップを並べたあと、何をすればいいのか分からなかった。
     本格的に昼食を提供するとなれば大量のご飯を炊いて、おかずも三〜四品用意しなければならないだろう。そして終わったら食器洗い機にかけて、その後は材料の仕込みほか翌日の準備、掃除なども考えると最低でも三〜四名ぐらいの人員が必要と思われた。
     「社長、雇って頂いたからには出来るだけ早く、社員の方全員に、ここでお昼ご飯を提供できるようにしたいと思っているのですが、そうなると、毎日、何人分ぐらいの用意をすればよろしいでしょうか? 出張で出かけている人や自分で弁当を持って来る人もいるでしょうから、何人分が必要なのかを知りたいのですが・・・そして一人一人の好き嫌いやアレルギーで特別の食事を用意しないといけない人に対しても、どう対応したらいいでしょうか?・・・・そしてあと、お手伝いして下さる人も何人か必要だと思いますので、よろしくお願いします」
     「そうだね、初めは大変だと思うけど、例えば手始めに十人分だけ用意してもらうとしたらどうだろう。希望する社員のうちから交代で十人ずつ、ここで食べてもらって、慣れたら二十人、三十人、というように対応出来る人数を増やして行ったらいいのではないだろうか? そうすれば、社員の好みとか、どのくらいの量が必要とかも少しずつ分かってくると思うけど・・・・・そして必要な人員については、たとえば、近所のおばさんで良ければ募集すればすぐ集まると思うけど、それとも調理師免許を持った人とか、栄養士とかが必要なのだろうか?」
     「調理師免許なら私も持っています。当分は近所のおばさんでいいので、三〜四人募集して頂けませんか?」
     「分かったけど、張り紙をするとか、折り込みチラシを作るとか、それもすべて雪乃さんにお任せするよ。そして採用面接も」
     「えっ、採用面接もですか? あの・・人事部の方ではそれはお願い出来ないのですか?」
     「あっ、そうか、そうだな、じゃあ、人事部にも言っておくから相談してやってくれるかな?」
     こうして、まず、近所の農家のおばさんを四〜五人募集する事になった。小さな部落なので折り込みチラシを撒くほどでもなく、手書きチラシを村の集会所に届けたのと、会社の周囲に貼り付けて置いただけで、すぐにとりあえず三人が決まり、あとは必要に応じて追加募集する事になった。

      つづく

  •  高校教師
     五
     「川田くん、これが昨日話したユキのママの雪乃さんだ」
     「村井雪乃です。よろしくお願いします」
     「いや、こちらこそ、お名前はよく伺っています。先生の行きつけのお店だと聞いていたので私は遠慮していましたが、こんな綺麗な人だったら行くんだったなぁ、・・・・・まあ、それはともかく、まず、食堂を見て頂きますか? ここをどのように利用するか、まだはっきりとは決まっていないので、もし来て貰えるとしたら雪乃さんのお考えもお聞きしたいので・・・・」
     と言って連れて行かれたのは一度に百人ぐらいがゆっくり間隔をとって食事ができそうな、広い、ピカピカの大食堂だった。厨房には大きな流し台や食器棚、冷蔵庫、冷凍庫、電子レンジ、食器洗い乾燥機などの最新機器がすべて揃っていた。
     「うわっ、これは広い、そしてピッカピカじゃ無いですか?」
     「本当に凄いね、新築だから食堂も新しいとは思っていたけど、こんな立派なところだとは・・・・さすが野球部の主将だった川田くんのする事は違うな」
     「いやいや、ただ、だだっ広いだけで、どうやって利用するかはまだ何も決まっていないので、雪乃さんに来て頂けるなら、まずその采配をお願いしたいと思っているんですよ」
     ・・・・・・・・・・・
     「どうだろう、雪乃ちゃん、川田社長も言ってくれているし、ここで働いて見ないかね? 今までとは違って朝は早く出勤しなければいけないし、慣れるまではちょっとしんどいかもしれないが、川田君はまだ若いが有能な経営者だから君の力を存分に引き出してくれて、いい仕事が出来るようになると私は思っているのだがね」
     「はい。私なんかに社長さんのご期待通りの仕事が出来るかどうか分かりませんが、雇っていただけましたら一生懸命頑張ります。そしてせっかくの立派な設備を無駄にしないように、一日も早く、社員のみなさんのお昼ご飯を提供できるようにしたいと思います」
     「そうですか、こんな田舎まで通勤も大変だと思いますが、来ていただけると助かります。スナックの後始末もあるでしょうから、すぐにとは言いませんが、社員達はいつからここで食事が出来るのかと楽しみにしていますから、出来るだけ早く来ていただけるように、よろしくお願いします」
     といって話は決まった。
     孝太郎は雪乃を川田鉄工に紹介出来たことにホッとしていた。今までとは全く違う仕事だが、スナックのママよりはむしろ彼女に向いていると思われた。川田社長とは歳も近く、きっとうまく行くのではないかと思った。だが一方、これからは、自分はもう雪乃から頼りにされる存在では無くなるであろうと思うと、一抹の寂しさを覚えるのであった。
     雪乃は今までとは全く違う仕事をする事に不安はあったが、こんなところで働けるならそれは素晴らしいと思われた。お茶やコーヒーの準備だけでなく、早く全社員のお昼ご飯を提供出来るようにしたいと思った。
     それはともかく、入社が決まった以上は一日も早く出社しなければいけないので、馴染み客にだけは連絡をして、あと十日間だけ営業を続けた後に、ユキを閉店することにした。その後のことは不動産屋に連絡して借りてくれる人を探せばいい。
     
      つづく

  •  高校教師
     四  
     孝太郎は胸の中で教え子の会社をいくつか思い浮かべてみた。人の出入りの多い会社で彼女の採用を頼みやすいところは幾つかあるが、中でも従業員も五十人以上と見られ、経営状態も安定していると思う川田鉄工がいいのでは無いかと思われた。二代目となる現社長は野球部の主将をしていた信頼できる生徒だった。川田鉄工というのは橋梁などを製造する会社だが、市街地から三十分ほど離れた村に大きな工場を建てて最近移転したところだ。少し遠いが周囲の環境も良く、健康的で清潔そうな会社だった。
     そこへ訪ねていくと、
     「これはこれは先生、わざわざ来ていただいてありがとうございます」
     「やあ、川田くん、なかなか立派な工場だね。君の代になってから、また一段と業績も上がったのでは無いかね」
     「おかげさんで、競争相手の少ない業種ですから順調に売り上げは増えて来ています。ただこんな場所なので人が集まらなくて苦労しています。誰かいい人はいないでしょうか」
     「そうかね、いや実は君の期待しているような人では無いが、私の行きつけのスナックのママさんを雇ってくれるところは無いかと、いま探しているところなんだよ」
     「というと、あのユキのママですか?」
     「あ、知っているのか?」
     「そりゃあ、誰でも知っていますよ。先生とはいい仲だという事も」
     「おいおい、そんな噂が立っているのか? 脅かすなよ。・・・・冗談はさておき、旦那に先立たれてもう三年になるのだが、一人にしておいて悪い男に騙されたりしないかとちょっと心配になってね・・・・そろそろスナックなんか辞めてどこか会社勤めをすれば、出会いの機会があるかも知れないと言ってみたら、じゃあどこか良いところがあったら紹介して下さいな、と言われたので、君のところでは彼女に出来るような仕事は無いかと思ってね・・・・・」
     「そうですか? 先生、こんなところまで来て貰えるのなら、なんかママさんに向いた仕事と言えば・・・・そうですね、事務職は合わないでしょうから・・・・・実は広い社員食堂があるのですが、お茶の用意とか、掃除をする人もいなくて・・・・ゆくゆくはお昼の食事なども提供出来るようにしたいと思っているのですが、そのママさんには、そんな給食係のような仕事は似合わないでしょうかね」
     「なるほど、ありがとう。今夜行ったら聞いてみるよ。まあ、小料理なんか作るのはお手のもんだから、もしかしたら喜んでくれるかも知れんな・・・・」
     と言って帰っていった。孝太郎としては川田鉄工のような所で、特に、具体的に雪乃に向いた仕事があると思っていたわけでは無い。川田は教え子のうちでも信頼できる生徒で、経営者としての川田なら、相談すればなにかヒントを得られるかと思って訪ねて行ったのだが、社員食堂の担当者なら雪乃にはうってつけの仕事ではないかと思われた。そこで早速その夜話してみた。
     「ママ、今日私の教え子がやっている鉄工所へ行ってみたんだが、・・・・・川田鉄工という、名前ぐらいは知っているね」
     「ああ、知っていますよ。沢井村の方に新しい工場を建てて移転した会社ですね」
     「うん、今日話してみたら、社員食堂があるのだが、そこの掃除とか、お茶の用意をする人もいなくて、そして将来的にはそこで社員の昼食を提供する事も考えているらしく、そういう仕事をする給食係のような人を探しているようなんだが、・・・一度社長に直接会って話だけでも聞いてみないかね?」
     「有難うございます。ぜひお願いします」
     と言われたので、早速その場で川田に電話をして、翌日連れて行くことにした。
     学校の方は、教頭になってからの受け持ち授業は多くは無い。その日も午後は空いていたので校長に断って雪乃を自宅まで迎えに行き、川田鉄工へ連れていった。

          つづく

  •  高校教師
     三  
     それから二〜三日は学校へ行っても誰かに見られていなかったか?誰か自分のウワサをしていないか? と、気になって仕方がなかった。だがどうやらそんな様子は無かったようなので安心して、また『ユキ』へ出掛けた。あの時は何事も起きなかったが、その気になれば雪乃を抱くことも出来た筈だ。だが、そんな素振りを見せる事は出来ず、今まで通り謹厳実直な教育者のふりをしていなければならない。
     「息子さんは何年生だったかしら?」
     「それが・・・今は三年生で、今度大学受験なんだよ。地元の大学へ行ってくれれば安上がりなのだがどうやら東京へ行きたいらしい。勉強というより、東京には遊びに行くところが沢山あるから、とにかく東京の学校ばかり、ここを受けようかあそこにしようか、などとほざいているから困ったもんだ」
     「まあまあ、先生の息子さんだから勉強は出来るんでしょう?しばらくはお金が掛かるかも知れないけど将来が楽しみね」
     「どうかな、いい学校へ行ったからと言って、お金をしっかり稼げるようになるとは限らないし、まあ、人に迷惑をかけず、みんなから頼りにされるような人になってくれればいいと思っているんだがね・・・・そんな事より、私は君のことが心配だよ。まだ若いのにいつまでも一人でいる訳には行かないだろう。私がもし家族のいない一人ものだったら、喜んであの大きな家に押しかけて行くんだがなあ」
     「有難うございます。実家からも話が無いわけでは無いんですが、みんな子供が一人か二人いる人ばかりで、今更そんな古い家の後妻に入るのはどうも気が進まないんです」
     「そうだろうな、いや、よく分かる。そういう家の子が君に懐いてくれるとも限らないし・・・・どうかな、この店を畳んで会社勤めをすれば、いい人と巡り会えるかも知れないと思うんだがね」
     「そうかしら、店を畳むのはちっとも構わないけど、こんなおばさん雇ってくれるところって、ありますかしら」
     「それはまあ、給料は欲張っては駄目だけど、人の出入りの多い堅い会社なら、いい出逢いの機会もあると思うのだが・・・・」
     「そうね、どこかいいところがあったら紹介してくださいね」
     「分かった。教え子がやっている会社がいくつかあるから聞いてみるよ。だけどそうすると、私の飲みに行くところが無くなるのは困ったなぁ」

      つづく

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