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ネット小説大賞 ヤフー株板編
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ネット小説大賞 ヤフー株板編の掲示板

けものたち

 五
 さらに数ヶ月が過ぎた。
 この問題は、初めは誰も、後々のことを考えていたわけではなかった。夫婦が互いに相手を取り替えて一夜を共にする、などというのは現実にはあり得ない話だが、凄くワクワクする話のようにも思えた。しかし一度それをすれば、二度、三度となるのは必然的だったし、そうすれば、やがては近所の人にも知られることになったであろう、そして半田夫婦には東京で全寮制の宿舎に入っている高校生の息子がいたし、山田家には子供はいなかったが近所には弟や妹の家族も住んでいた。
 そんな人たちに知られることにでもなったら、それはもう、取り返しの出来ない事態になり、まともに暮らして行けるわけがなかった。ようやく時間をおいてそういうことが実感として分かってきた時、なんて恐ろしいことを考えていたのだという事に、四人ともが気付き始めていた。
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 洋一たちが福井に引っ越してきてから二年近くになっていた。
 ある夜、四人で食後のお茶を楽しんでいる時、洋一は言った。
 「なあ昭子、そろそろまた引っ越ししようか? ここも悪くはないが、今度はもっと暖かいところに住んでみるのもいいかなと思うのだが・・・どうだろう」
 昭子はいつも夫のいうことには従順だった。実際、彼女が思っている事をちゃんとわかっていて、昭子が何も言わなくても洋一の方から提案することが常であった。
 「そうね、私も大賛成だわ。沖縄なんかどうかしら? 加奈子さんたちと別れるのは寂しいけど、いつでも遊びに来てね。私たちもまた訪ねてきてもいいし・・・・・」
 康介「ああ勿論だよ、俺たちも沖縄に行く口実ができるのは嬉しいさ。なあ加奈子」
 「そうね、とびっきりスケスケのビキニを着て泳ぎに行くから、洋一さん期待して待っててね」
 康介「おいおい、大丈夫か、お前幾つになったんだ?」
 昭子「大丈夫よ。加奈子さんは、まだ体の線は崩れてないわよ」

 二週間後、沖縄の石垣島での住む場所も決まり、衣類や家庭用品の大部分と、家具のうち愛着のあるものは新居に発送して、残りは山田家に譲るか、処分を委託して、スーツケース二つだけを持って小松空港から飛び立つことになった。
 小松空港まで山田夫婦に送ってもらう事になったのだが、車内では四人ともが同じ思いにふけっていた。それは勿論、あの日の加奈子の爆弾発言とその後の気持ちの葛藤についてだった。
 表面的にはなんの事件も起きなかったのだが、彼らにとって、その心の内は、一生、決して忘れることのない二年間の、めくるめく夢のような享楽の日々であった。