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ネット小説大賞 ヤフー株板編
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ネット小説大賞 ヤフー株板編の掲示板

 けものたち

 七
 康介と加奈子は五日間を洋一たちと共に過ごした。洋一たちは康介と加奈子を退屈させないように竹富島や小浜島、そして西表島などを案内し、シュノーケリングに連れて行った。また、バーベキューで石垣牛や新鮮な魚介類を味わってもらった。村の人たちも遠来の客のために魚介類や地場野菜などを提供してくれたほか、沖縄三味線を持ってきてバーベキューの炉のそばで歌う人もいた。洋一はここへ来てからの昭子の変貌ぶりに驚いていた。どちらかというと家から出ることは少なく、いつも家で花を生けたりお茶を点てたりする、控えめな、嫋やかな女だと思っていたのに、今はまるで生まれつきそうであったように、真っ黒に日焼けした体を気にもかけずに毎日飛び回っているのであった。
 そしてそのことに一番驚いているのは昭子自身であった。あの、お茶やお花を楽しんでいた自分と、マリンスポーツに興じるいまの自分と、いったい、どっちが本物の自分なのだろうか分からなくなるのであった。
 洋一の絵に現れた変化も大きかった。雄大な自然を描くことが洋一の信条だった筈なのに、今は浜の女たちの逞しい生き様を描くことに、生きがいを感じるようになっていた。康介の店に送った人物の絵はいずれも好評で、一人で続けて何点も購入しようとする人も出てきて、個展を開かないかという話もあったが、洋一にはそんな話には興味はなく、煩わしいばかりなので何度言われても断っていた。
 康介と加奈子も、初めて訪れた石垣島での半田夫婦の変わりように戸惑いを隠せなかった。康介にとって、憧れの存在だった昭子にはもう以前のような淑やかさは全く見られず、別人のような女に変貌していた。そして加奈子も、自分と同類だと思っていた洋一が、声をかけるのもためらう様な、近寄りがたい孤高の芸術家になってしまったと感じていた。
 五日間の滞在を終えた山田夫婦と、彼らを迎え入れた半田夫婦は、それぞれの想いを秘めて石垣空港で別れたのであった。

     了