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ネット小説大賞 ヤフー株板編
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ネット小説大賞 ヤフー株板編の掲示板

 けものたち

 六
 それから1年が過ぎた。山田康介と加奈子は初めて沖縄の半田夫婦の住む石垣島にやってきた。
 半田夫婦が福井を離れてからも、康介の店で売るため洋一の絵を送ったり、一度は旅行先のヨーロッパの町で待ち合わせて逢うなどしたこともあったが、山田夫婦が2人そろって沖縄に来るのは初めてだった。
 康介は、以前はアンティークの仕入れのために、一人で旅行をしていたのだが、洋一たちがいなくなってからは、加奈子は一人で留守番をすることを我慢できなくなり、店番と犬の散歩を近くに住む妹に頼み、いつも二人で旅をするようになっていた。

 半田夫婦もまた、沖縄に来てからは大きな生活の変化があった。
 洋一の描く絵は福井にいた頃は風景画ばかりだったが、沖縄に来てからは浜の女たちを描いたり子供たちを描いたりすることが多くなっていた。またこちらに来てから見違えるように日に焼けた妻の昭子をモデルにして描くこともあった。
 昭子は、以前は家の中でお茶やお花を楽しむことが多かったのだが、あるとき洋一と共にシュノーケリングに出かけてからは、すっかりそれに魅せられてしまって、近くのダイビングスポットに、一人ででも出かけたり、近所の友達の船で誘い合って小浜島辺りまで出かけたりして、すっかりマリンスポーツの魅力に取りつかれてしまっていたのである。
 それにつれて、昭子の性格も、今まで隠れていた部分が表に出てきたのか、家に引きこもってお茶やお花を楽しむことはほとんど無くなり、海へ遊びに行く時以外も、暇があれば浜のサーフィン仲間と海沿いのカフェでおしゃべりする事が多くなっていた。
 すっかり変わって、まるで生まれながらの南国の女のような風貌になっていた昭子を見て、訪れた康介と加奈子を驚かせたのだった。

 洋一たちの住まいは島の北側に位置して、漁師の家や民宿やレストランやカフェなどが点在する、南北に伸びる小さな部落にあった。
 洋一たちはそこでの生活に満足していたのだが、初めて訪れた康介たち、とくに加奈子は、ひと晩過ごしただけで、退屈でどうにもならなくなり、なんでこんな、何も無い寂しいところがいいのかと不思議に思ったものである。
 昭子は、そうね、きっと加奈子さんはそう言うと思っていた、でもここには豊かな自然があって、浜の人達はみんな親切だし、漁師さんは取れたての美味しい魚を持ってきてくれるし、洋一の画題にも事欠かないし、私にも海に潜って遊ぶ楽しみが出来たし、・・・・・