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プレシジョン・システム・サイエンス(株)【7707】の掲示板 2020/12/19〜2020/12/22

このような調子で、今や日本人ならば誰もが知る言葉となった「医療崩壊」ですが、言葉の響きから恐ろしいイメージばかりが先行してしまって、具体的に、何がどうなったら、医療というものが崩壊するのかという「定義」がはっきりとしていません。
欧米諸国の衝撃的な映像

コロナ以前の世界で「医療崩壊」というと一般的には、医療を求める人々に対して、安定的かつ継続的な医療サービスの提供ができなくなってしまった状態を指します。例えば、大規模な自然災害やパンデミックが起きて患者が急増したのに、手術や治療ができる医療従事者や医療物資が圧倒的に足りなくなってしまう、というような状態がわかりやすいでしょう。

では、それを踏まえて今回のコロナ危機において、日本は何が足りなくなって「医療崩壊」の危機が叫ばれたのでしょうか。マスコミ報道を検証してみると、「病床」、つまりは入院患者を収容するベッドが足りないということが、「医療崩壊」につながるという考えが当時は主流だったことがわかります。

つまり、今年に入ってから日本で叫ばれてきた「医療崩壊の危機」というのは、感染者が急増することによって病床が足りなくなり、引き起こされるものだと考えられているのです。実際、NHKでは、「新型コロナ特設サイト」内の「入院者数 重症者数 対応ベッド数 全都道府県データ」というページをつくっており、現在も厚生労働省(厚労省)の発表に基づいて、新型コロナ患者に対応できるベッドの数を定期的にまとめて公表しています。

そのような話を聞くと、「当たり前じゃないか」と思う方もたくさんいらっしゃることでしょう。「ベッドが不足したら医療崩壊が起きる」ということが「一般常識」として刷り込まれるような、非常にインパクトの強い海外ニュース映像があったからです。 新型コロナウイルスが欧米諸国で猛威を振るっていた今年4月ごろ、日本のニュース番組は盛んに、イタリア、スペイン、アメリカなどで「医療崩壊」が起きていると報じ、それらの国の過酷な医療現場が紹介されました。

医療用マスクや防護服が足りないということで、何度も使いまわしたようなマスクをつけて、ビニール袋をガムテープで巻きつけたような防護服を着ている医師。「圧倒的に人が足りなくてもう1週間も帰宅していない」など涙ながらに訴える看護師。しかし、その中でも日本の視聴者たちを驚かせた衝撃的な映像が、病室のベッドが埋まってしまい、しかたなく廊下で救急搬送用のストレッチャーに寝かされている重症患者たちの姿でした。

これによって、「医療崩壊というのは、あのような病床不足の状況を指すのだ」と多くの日本人の脳裏に焼き付けられたことは否めません。そのような意味では、日本でも新型コロナの感染が拡大していく中でマスコミが「病床が足りなくなったら医療崩壊が起きる」と危機を叫ぶことも、それを正しいことだと信じている日本人が多くいるということも、現象としてはよく理解できます。
700病院の医療ビッグデータを徹底調査

現象として理解はできるものの賛同は難しいのです。客観的なデータに基づいて分析をすると、「病床が足りなくなったら医療崩壊が起きる」というのは、実は現在の日本の感染状況においては事実ではないからです。感情的な声に流されることなく、客観的なデータに基づいて、新型コロナが医療機関にどのような影響を与えたのか、ということをしっかりと検証していく事が重要と考えます。

本書において、全国で最大700を超える医療機関のデータで新型コロナ患者の増加が医療提供体制にどのような影響を与えたのかを徹底的に調査してみたところ、医療現場の逼迫は日本全体の「病床数」そのものではなく、下記が影響していると見えてきました。

◆コロナ患者受け入れ病院における「専門医、ICU、治療機器」など医療資源配分の問題
 ◆コロナ患者受け入れ病床確保の難しさと、コロナ患者受け入れ潜在能力のある病院の存在
 ◆「コロナ患者重症度別治療と病床機能」のミスマッチ

「医療崩壊の危機」が叫ばれていた時期でも、実は多くの病院は集中治療室(ICU)等や一般病床の稼働率が極めて低い状態にありました。病床稼働率の低さ、つまり入院患者数減は▼予定手術や検査の延期▼新型コロナ以外の感染症患者の減少▼不要不急の受診控え──などが要因ですが、日本ではこの時期、イタリアやアメリカなどとは違う現象が起きていたのです。

それはつまり、マスコミや世間の人々がイメージ先行で考えている病床逼迫による「医療崩壊」ということと、現実の医療現場で進行している「問題」というものの間にかなり大きなギャップが存在しているということです。「医療崩壊」といわれた真実を明らかにして、本当に起きている「問題」の深淵を見極めることで、日本の医療が瀕する危機が見えてきました。そう、新型コロナが日本の医療制度の課題を浮き彫りにしたのです。