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大同特殊鋼(株)【5471】の掲示板 2019/05/16〜2023/07/30

大同特殊鋼がまいてきた将来への種が開花し始めた。2023年3月期予想の連結営業利益が前期比22%増の450億円になると10月末に発表した。従来予想比で110億円の上方修正で、15年ぶり最高益を見込む。原動力はほぼ全てをオーダーメードで作る鍛造品の事業だ。原材料高が続く中、それぞれの品目は汎用性のない「特注仕様」のため、顧客から得られる利幅も大きく、利益の増加に結びついている。
特殊鋼は産業の屋台骨として欠かせない存在だ。鉄にニッケル、モリブデンといった多様な元素を組み合わせて加工し、耐熱性や硬さ、さびにくさなどを追求する。大同特殊鋼は日本の鉄鋼生産の2割にあたる特殊鋼(8割は普通鋼)で、国内の同業では売上高で日立金属に次ぐ2位に位置する。特殊鋼だけで2000種以上の製品をそろえ、顧客の要望に応じて原材料を配合できる。
一度に大量の製品を作る高炉に比べて小型な電炉を使い、多品種を少量で生産する。主要な製造拠点は愛知県東海市で、製品はエンジン部品やハイブリッド車のモーターに使う部品といった自動車向けが多い。主な顧客は日産自動車、ホンダ、デンソーなど。トヨタ自動車向けはトヨタ系列の愛知製鋼が主に供給する。
直近の事業環境には逆風が吹く。主力の自動車は生産が不安定で、原材料や電力代の高騰が続く。大同特殊鋼も当初は通期予想を営業減益としていた。10月の上方修正により、今期は特殊鋼の国内大手5社で唯一の営業最高益の見込みとなった。純利益予想も2期連続最高を予想し、修正発表の当日の株価は一時前日比11%上昇した。
最高益の要因について、石黒武社長は特殊鋼の原材料高の影響を顧客に価格転嫁できつつある点に加え、「売り上げ構成の中身が変わった」と話す。「自由鍛造品」と呼ぶ、ほぼ全てをオーダーメードで作る鍛造品の伸びが大きいという。この分野は今期の売上高見通しが401億円と前期比で72%も増えるうえ、好採算な点も利益を押し上げる。
自由鍛造品の顧客は主に航空機、船舶、発電、資源、半導体の5業界にまたがる。航空機向けは新型コロナウイルス禍で減っていた需要が戻ってきた点が大きい。船舶もコロナ禍からの回復による海運市況の好転や、環境規制の高まりが受注増に結びつく。
発電や資源では世界情勢の不安定化に伴うエネルギー危機を背景に引き合いが強まった。加えて製造業の世界的な人手不足が深刻化し、生産に支障を来した競合他社から大同特殊鋼が受注を取り込むことができた形だ。
自由鍛造品は航空機向けなら主力製品のエンジンシャフトが米ボーイングの中型機「787」の全機に搭載されている。ガスタービン部品なら三菱重工業からの受注が多い。各分野の世界的な大手企業との関係の深さが技術力の高さを裏付ける。
大同特殊鋼の丹羽哲也執行役員はこの分野について「顧客企業とは研究開発の段階から携わる提案営業を強化してきた」と話す。
事業別営業利益の見通しをみると、前期はステンレス鋼をはじめとした「機能・磁性材料」が業績のけん引役だった。ステンレス鋼は半導体製造装置向けに販売が伸びた。ただし、半導体需要の一服感もあり、今期の機能・磁性材料の利益は240億円と前期比で1割減る。
これを補うのが自由鍛造品を含む「自動車・産業機械部品」で、90億円と8割増える。特殊鋼も利ざやの改善で80億円と2.1倍となる。08年3月期(384億円)の過去最高益は好調な自動車産業が追い風になった。今回は自動車業界にとどまらず、顧客をより広げて収益源を多角化したことが実を結んでいる。
中長期では脱炭素への対応も課題だ。大同特殊鋼は電炉のみを使うため、鋼材製造時の二酸化炭素(CO2)の排出量が高炉の場合の4分の1に抑えられるうえ、主力の知多工場では30年までに電力の全てを再生可能エネルギーで発電する点をアピールする。ただし、今後も関連した投資負担は避けられない。
電気自動車の普及による車のエンジン部品の販売減も今後の業績にリスクとなる。UBS証券の五老晴信氏は脱炭素に向けた費用を補うためにも「業界として、顧客にいっそう価値を認めてもらえる製品作りや説明をしなければならない」と話す。
株価は最高益見通しの発表当日こそ急騰したものの、21年5月の直近高値(6330円)に比べれば3割も安い。PER(株価収益率)はわずか5倍台で、同社の過去1年の平均(6.5倍)や日立金属(30倍ほど)すら下回る。PBR(株価純資産倍率)も0.5倍台だ。PBRの1倍割れは保有資産を全て現金にして株主に配るよりも、株の価値が低いとみなされている形だ。
この理由について、UBS証券の五老氏は「鉄鋼関連はどの銘柄も『景気敏感株』とみられやすい。投資家の間で米国の景気後退や自動車の需要減が意識される現在では、利益の継続性に不安が生まれている」と指摘する。利益成長は続くとの期待感や事業の優位性を訴えることも、いっそうの株価上昇には欠かせない。