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ソフトバンクグループ(株)【9984】の掲示板 2018/09/28〜2018/09/30

SBGホルダーの投稿より


英アーム買収 孫正義を駆り立てたものとは
嶋 聡(前ソフトバンク社長室長)
16/7/25

 ソフトバンクグループが3.3兆円で買収すると発表したイギリスの半導体設計大手アームホールディングス。スマートフォンや自動車向けのCPU(中央処理装置)における中核技術を持つ。本社は、経済学の巨人、ケインズが教鞭きょうべんを執ったケンブリッジにある。

 ケインズは、今回の孫正義社長の決断を見て拍手しているに違いない。ケインズは時代を拓ひらくのは企業家の「アニマル・スピリット」であると唱えていた。「企業家の投資行動の動機となる、将来への期待」を意味するアニマル・スピリットを、孫氏が体現していると考えるはずだからである。

 孫氏は買収を発表した18日の記者会見で、こう発言した。

 「アームはIoT(モノのインターネット)分野のリーダーだ。これから来るパラダイムシフト(枠組みの転換)の初期段階で投資できることに興奮している。大きなチャンスがある」

 将来のはるか先を見た企業活動は、時代を進め、ビジネスチャンスを生み、社会全体に利益をもたらすものだ。

 「経営するとき、財務やCFO(最高財務責任者)の話だけを聞いていたら、飛躍的に成長させることはできない」と孫氏は言う。巨額の投資である。失敗すれば、今までの実績がすべて水泡に帰すかもしれない。このアニマル・スピリットが合理的計算を凌駕した。「60代で引退する」と宣言している58歳の孫正義にとって、おそらく最後の勝負である。

孫正義を動かす「私的帝国への意志」

ケインズと並び称される経済学者、シュンペーター。孫正義は、まぎれもなくシュンペーターの言うイノベーションを起こす「企業家」である。

 シュンペーターは、企業家を動かす第1のものは、「私的帝国を建設しようとする夢想と意志だ」という。孫氏の夢は「300年続く企業を創つくる」であり、ローマ帝国、モンゴル帝国などの研究をよくしていた。

 「ロックフェラーがなぜ、自動車時代の世界を制覇したか分かるか? 世界の油田を押さえたからだ」

 孫氏がよく言っていた言葉である。スマホの通信用半導体で9割超のシェアを持つアームを買収したのは、ロックフェラーが自動車時代の源流、油田を押さえたのに似ている。

 孫氏には、来るべきIoT時代が、まるでタイムマシンに乗って見てきたように、はっきり見えている。

 「すべての街灯がインターネットに相互接続されるだろう。車が通っていないときに節電できるから。自動車はすべてインターネットにつながり、自動運転がずっと安全になる。すべてのモノがつながっていく。その最大公約数が何かと言えば、アームだ」

 アームは自社設備を持たず、CPUの設計図を提供する企業である。「パソコンのCPUのほとんどはインテルだが、その外に出ると、ほとんどがアームだ。IoT革命において、独自技術があり、市場のポテンシャルも非常に大きい」と孫氏は言う。長年、ソフトバンク社長室長を務めてきた私から見ると、孫氏の長期的なビジョンとも完全に合致する投資だと思う。

 英国での記者会見で孫氏は「創業以来、最もエキサイティングな日だ」と、少年のように目を輝かせた。無理もない。孫氏が最もやりたかった「IT産業の最上流」を押さえ、「300年続く帝国」への道筋が見えた記念すべき日だったからである。

非上場とする覚悟

 企業家を動かす第2は、「世界を変える」創造の喜びである。アーム買収は孫氏にとって、「世界を変える」挑戦への武器を手に入れたことを意味する。

 アームを「非上場にする」ことに、私は注目している。そこに孫氏の覚悟を見るからである。「ソフトバンク傘下で非上場になることで、長期的視点で戦略的投資ができる」と語る。市場の評価を気にすることなく、「世界を変える」ことに挑戦するに違いない。

 「スティーブ・ジョブズのすごいところは3回もライフスタイルを変えたことだ」と、孫氏は言う。アップルコンピュータでコンピューターの概念を変え、iPodで音楽の楽しみ方を変え、iPhoneでスマホ革命を起こした。

 ボーダフォンを買収し、見事にターンアラウンド(戦略的な収益改善)を成功させ、全体の売上高でNTTドコモを抜いた。ただ、その成功が、スティーブ・ジョブズと直接交渉し、日本でのiPhone独占販売権を得たことに最大要因があることは、孫氏本人が一番よく知っている。

 だが、ロボット革命をめざし、Pepperを販売したが、孫氏の描いたところまではなかなか進まない。ライフワークと呼ぶ、アジア全体を送電線で結ぶアジアスーパーグリッド構想も、日本の政治の壁に阻まれている。「世界を変える」ことは、まだやっていないのだ。

つづく