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古生態学があぶりだすアマゾン森林火災の深層
 アマゾンはいまも燃え続け、煙が立ちのぼり、炭の微粒子が地面に降り積もっている。最新の集計では、ブラジルのアマゾン火災は9万3000件を超え、昨年の同時期より60%以上も増加した。これは、2010年以降で最多の件数だ。NASAによると、今年の火災は過去数年と比べても激しいという。

ギャラリー:アマゾン森林火災、放火の現場から無残な焼け跡まで 写真10点

 しかし、ブラジル国立宇宙研究所(INPE)の火災の記録は、1998年からしかない。木は数百年を生き、人が森に火をつけてきた歴史は何千年にも及ぶ。そうした森にとって、20年は長くはない。

 その一方で、古代の環境を研究する古生態学というものがある。アマゾンの先住民がどのように火を使ってきたかや、その火が長年にわたり森の生態系にどのような影響を及ぼしたのか、そして、現在の火災を防ぐかもしれない教訓について、他では得られない洞察を私たちに与えてくれる研究分野だ。

 たとえば、熱帯雨林の地下に埋まる炭の層を調べた研究により、アマゾンの古代の住民たちが何千年もの間、農業のために火を使って林床を焼き払っていたことが判明している。さらに、その影響がずっと残り、こうした地域は今日燃えやすい森になっていることもわかっている。しかしながら、森を完全に焼いてしまう現在とは異なり、先住民は生きた木が残るように火を使っていた。
自然火災の痕跡はまったくない
 アマゾンの湖底や土壌からサンプルを採取し、木が燃えた後に堆積する炭の小さな欠片を調べた古生態学の研究がある。フィールドワークは大変だ。研究チームはボートと重い機器を背負い、森を抜けて人里離れた湖まで移動しなければならない。そうやって湖底の堆積層のコア試料(柱状採取した試料)を掘削し、放射性炭素を分析して木が燃えた年代を測定した。

 この数千年の記録からまずわかるのは、アマゾンには実質的に自然火災がないことだと、米フロリダ工科大学の古生態学教授のマーク・ブッシュ氏は言う。

「アマゾンの西部から採取したコアには、火災の痕跡がまったく見られない層が4000年分も続いていたのです。炭も一切ありませんでした。そして、アマゾン西部は、アマゾンで最も湿潤な地域というわけでもないのです」とブッシュ氏は話す。

 ほとんどの熱帯雨林の木は、樹皮が薄く、土壌の表層にしか根を張らず、火に耐えられない。そこに生息する動物は言うに及ばずだ。

「火は、生態系にとって完全に異質で、状況を一変させる要因です」とブッシュ氏。「生態系の上から下まですべてに影響を及ぼし、焼けた場所が再び熱帯雨林とわかるまでに回復するのに、相当な年月がかかるでしょう」

 ヨーロッパ人が到来する以前に、熱帯雨林への人間の影響がどの程度だったのかについては、論争が続いている。だが、火災が起きるのは、人が火をつけた場合だけだということには誰もが同意している、と同氏は言う。

「火の痕跡は、アマゾンでは人間の痕跡に他なりません。トウモロコシやキャッサバの栽培です。何が起きていたかはよくわかります。同じ人間のやることですから」
 オランダ、アムステルダム大学のマリー・キュリー・フェローでナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもあるヨシ・マエズミ氏は、ブラジルからボリビアにかけてのアマゾンのさまざまな地域の変遷を調べている。

 ある研究では、タパジョス川とアマゾン川の合流地点の近くにあるブラジル、パラ州のカラナン湖から8500年分の堆積物コアを採取した。

 人類は約4500年前にこの地域に定住し、農地開拓のために森を燃やし始めた、と同氏は言う。だが、それは大規模な森林破壊ではなかった。彼らは木々の間にさまざまな作物を植え、ブラジルナッツやアサイーなどの食用種を普及させていった。また、堆肥や廃棄物、炭を組み合わせて本来痩せていた土を改良し、非常に肥沃な土壌を作り上げた。これは今日の農民にも重宝されている。

「住民の数は正確にはわかりませんが、とても広大な地域を本当に厳しく管理していたのです」とマエズミ氏は話す。火は彼らの土地利用の要だった。

 炭の記録と花粉などの植物の残留物からは、彼らが下草や低木をよく焼き払っていたことが示された。この弱い野焼きによって、燃えやすい植物が増えるのを抑え、大きな森林火災を当時は防いでいたのかもしれない、と同氏は言う。

 だが、こうした森の管理は厄介な事態も引き起こした。森により火がつきやすく、燃えやすいように変わってしまったからだ。

 アマゾンのさまざまな地域の樹冠の含水量を測定したアムステルダム大学のクリスタル・マクマイケル氏は「その結果は、実はまったく予想していなかったものでした」と言う。

「テラ・プレタ(ポルトガル語で黒い土の意)」や「アマゾン・ダークアース(英語でアマゾンの黒い土の意)」と呼ばれる、コロンブス以前の先住民が何世代にもわたり改良して作り上げた豊かな土壌にある森は、周りの地域よりも青々とみずみずしいと考えられていた。

 だがむしろ、そうした森の木々は、特に干ばつの年には樹冠の緑が少なく、含水量も低かったのだ。また、樹高がわずかに低く、木陰が少なかった。

 考えてみれば当たり前だ、とマエズミ氏は言う。「鬱蒼として暗くジメジメした熱帯雨林を想像してみてください。日光は、低木の上には届きません。でも人がやってきて開拓を始めれば、森の中に日光が差すようになり、乾燥して気温が上昇します」
この知見は、現代の火災管理に役立つかもしれない。つまり、古生態学のこの見識を活用すれば、アマゾンにおいて、どのように、いつ、そしてどこならば燃やしてもいいのかがわかる可能性がある。

 ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領が今年、森林火災を奨励したとして非難されているものの、長い目で見れば政府は火の使用を全般的に規制してきた。この規制が実は、人の手が入り乾燥した森の問題を悪化させた可能性がある、とマエズミ氏は言う。

 ヨーロッパ人がアマゾンを植民地化した後、疫病が蔓延して先住民の95%もが命を落とした。この時から、弱い野焼きが行われなくなり、燃えやすい下草や低木が再び生い茂ることになった。

 こうした燃えやすい森が火災の触媒として働き、隣接する老齢林にまで火を広げているかもしれない、とマエズミ氏は述べる。燃えやすい森はおそらくアマゾンの3%ほどだという。

「私たちが直面しつつある、より気温が高く、より乾燥して、より干ばつが起こりやすい世界、そして、人が火をつける世界で、私たちに何ができるでしょうか? コロンブス以前の先住民がしっかり森を管理していたように、最も火災が起こりやすい地域を特定し、高危険区域に指定することはできたはずです」

 重要なのは、古代の焼畑を、現代の火災を正当化するために使わないことだと、マクマイケル氏は言う。

 人類は何千年もの間、アマゾンの一部を燃やしてきたかもしれない。だが、これまでの火災の記録を分析した結果、21世紀の森林破壊は、おそらく前例のない規模だと示された。

 マエズミ氏がカラナン湖から採取した堆積物コアから、過去数十年で湖底に炭が堆積する速さは、先コロンブス期のピーク時の4倍にもなることがわかった。

 つまり、炭の記録からは、次に何が起きるのかは一切わからない、とマクマイケル氏は言う。

「古代の記録に見られる火災は、時間的には頻度が少なく、空間的には比較的狭い範囲だったと考えられます。いたる所で発生していたわけではありません。このため、アマゾンの他の地域のあちこちに火を放つと、何が起きるか本当にわからないのです」