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仮想通貨「急上昇」のウラ、米テスラが「ビットコインを爆買い」した本当のワケ
ビットコイン急上昇の「深層」

 ビットコインをはじめ仮想通貨は、いま新たなステージを迎えています。

 昨年の晩秋以来、高騰を続けるビットコインですが、2017年12月につけた2万ドル/1BTC(約200万円)を大幅に上回り、今はその2倍から3倍の5.5万ドル(約600万円)近辺で推移しています。

 ビットコイン高騰の背景には、仮想通貨市場の重要な変化がありました。その一つは、数多くのアメリカの企業がビットコイン経済圏争奪戦のスタートラインに立とうとしていることです。

 中でも注目を集めているのが、世界的なEV(電気自動車)メーカーに成長したテスラでした。

 加えてビットコイン市場には、昨年から米国の機関投資家が続々と参戦しています。これまで個人投資家が多かった市場に、運用を託されている機関投資家が参入してきたことは、仮想通貨が「資産」として信認を受けようとしている動きでもあるのです。

 いったいビットコインに何が起こっているのでしょうか。

 それは過去10数年間のビットコインの歴史を俯瞰することで見えてきます。人々の仮想通貨への認識の変化をたどりながら、ビットコイン高騰の背景に迫ってみたいと思います。

世界最大級取引所が分析する「仮想通貨の近未来」
クラーケン共同創業者兼CEO ジェシー・パウエル氏 Photo/Kraken Japan

 筆者は、06年に日本証券取引所に入社し、証券市場の動向を観察してきました。18年7月より暗号資産取引所のKraken(クラーケン)を運営する米国のPayward,Incに入社し、いまはクラーケン・ジャパンの代表を務めています。

 クラーケンは、11年に現在、CEOを務める共同創業者ジェシー・パウエルらによって設立されました。現在ではユーロ建て取引高で世界最大、また約500万人のユーザーを抱える米国最大の暗号資産取引所の一つです。アメリカのワイオミング州では銀行ライセンスを取得しており、新興の暗号資産取引所でありながら、既存金融分野にも進出しています。

 そもそもクラーケンが誕生した背景には、日本で大きな話題となった11年の「Mt.GOX」(マウントゴックス)事件がありました。

 当時セキュリティをはじめとする多くの問題に悩まされていた同社に対して、ジェシーは問題発覚当初より技術サポートをしており、このことをきっかけに強固なセキュリティをもつプロフェッショナルな取引所の設立を決意しました。

 こうして誕生したクラーケンは、マウントゴックスの抱えていた問題の解決策を礎として誕生したともいえるでしょう。

 いわば株式と仮想通貨の取引所に身を置いてきた私は、双方の利点また問題点についても理解しているつもりです。こうした観点から仮想通貨の今後を占ってみたいと思います。

ビットコイン・サイクル
エヴェリット・ロジャースの“イノベーター理論”とジェフリー・ムーアの“キャズム“/出典:heartofagile.com

 さてビットコインは、08年にサトシナカモトによって発明された仮想通貨です。

 中央銀行などの管理者を持たずに、暗号技術であるブロックチェーンという新しいテクノロジーによって管理されていることから、支配者などの利権を持つ存在がいない通貨として注目を集めました。その後、リーマンショックをうけて各国の中央銀行によって、通貨の価値を意図的に下げる大規模な量的緩和政策が実行される中、一部の管理者によって恣意的に価値が棄損されることのないビットコインは、世界中に認識されることとなりました。

 新しい価値観とそれを実現する新しいテクノロジーによって生み出されたのがビットコインなのですが、これらが普及するまでにはいくつかの段階を経る必要があります。

 アメリカの著名な社会学者のエヴェリット・ロジャースが提唱した「イノベーター理論」から、ビットコインのテクノロジーの普及サイクルを考えてみましょう。ビットコインが今まさに世界的普及の目前に立っており、いまなぜ価格が上昇しているかが理解できると思います。

 まず、ひとつの有用な技術が登場し、それが普及するとき、次の順番で人々に浸透していくとされています。

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1.「イノベーター」(=革新者。最初に採用するグループ。全体の2.5%)
2.「アーリーアダプター」(=初期採用者・オピニオンリーダー。全体の13.5%)
3.「アーリーマジョリティ」(=前期追随者。全体の34%)
4.「レイトマジョリティ」(=後期追随者。全体の34%)
5.「ラガード」(=遅滞者。全体の16%)
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 この段階的に普及していく際に、「キャズム」と呼ばれるいくつかの障壁が存在しますが、アーリーアダプターとアーリーマジョリティへの移行が最も難しいとされています。

 歴史的に見れば、ITの普及がこの理論と符合していました。

 たとえば、インターネット革命は、00年代のITバブルの崩壊によってIT銘柄の株価が大暴落したあと、見事に復活して爆発的に普及していきました。ITバブルの暴落が一種のキャズムと考えれば、それはアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に起きたことと定義することができます。

 そして我々はいま、仮想通貨がまさにアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に存在したキャズムを乗り越えようとしている段階だと考えています。

いざ「爆発的普及フェーズ」へ
ビットコイン相場(米ドル・全期間)/出典:クラーケン

 ビットコインの歴史を俯瞰すれば、08年に誕生し、最初に大きく注目されたのは欧州ソブリン危機でした。ギリシャをはじめ欧州の各国の国債が暴落しましたが、とりわけ13年のキプロス危機では富裕層マネーがビットコインに流入しました。証券市場では「有事の金」と言われ、市場にリスクオフの機運が高まると金が上昇するのが常でしたが、キプロス危機で資金が流入したビットコインは、「デジタルゴールドの片鱗」を見せたのです。

 さらに2014年にはマウントゴックスが破産を発表し、取引所のセキュリティ問題が注目され、「初めての失望」を迎え、3年あまりの低迷期に入ります。

 2017年5月から始まった上昇機運は、2017年末には2万ドルに迫り、未曽有のビットコインバブルを巻き起こしました。同時に日本では改正資金決済法が施行され、日本は法整備において世界をリードした。同時にそれまで業界をリードしていた中国で仮想通貨取引所が禁止され、仮想通貨の熱狂は日本が中心となったのです。ところが18年2月、コインチェック事件が発生し、またもや取引所のセキュリティ問題が足かせとなって、冬の時代を迎えることとなりました。

 今ふりかえれば、私たちはこの冬の時代を仮想通貨のキャズムであっただろうと捉えています。

 その後もZaifのハッキング事件(2018年9月)や規制強化の時代を受けて低迷していたビットコインは19年4月ごろから再び上昇基調を描くようになっていきます。この時期に起きていたのが、米中貿易戦争という有事と、Facebookの仮想通貨Libra(リブラ)の発表でした。

 そして現在、ビットコインは5.5万ドルを超え、「デジタルゴールドの飛躍」の時代を迎えました。

 前述した「テクノロジーの普及サイクル」に照らしてみれば、今、仮想通貨は3.「アーリーアダプター」期の末期に位置し、キャズムを乗り越えて、4.「アーリーマジョリティ」期に移行するかどうかの瀬戸際に来ていると、私は考えています。

テスラがビットコインを買ったワケ
著名投資家のポール・チューダー・ジョーンズ。機関投資家や企業が仮想通貨に注目し始めた。

 ではアーリーアダプターの末期のいま、何が起きているのか。

 すでに報道などで様々の情報が提供されていますが、最近のビットコイン上昇の要因の一つには、アメリカをはじめとする機関投資家や大手企業のビットコイン購入があるとされています。

 2020年の5月に有名投資家のポールチューダージョーンズがビットコインを資産に組み入れるとIT系企業のマイクロストラテジー、決済大手のスクウェアやペイパル、生命保険のマスミューチュアルのビットコインの購入がディスクロージャーから明らかとなりました。

 中でも話題となっているのが米EVメーカーのテスラのビットコイン購入です。テスラは、トヨタの8分の1程度の売上にもかかわらず、時価総額が2.5倍もある期待の高い新興自動車メーカーです。そんな製造業のテスラがビットコインを購入した背景には、様々な意味があるでしょう。テスラは表向きには、ビットコインを資産の一部として保有するとしており、ドルなどの既存通貨と並んでビットコインを保有することで、金融緩和が続き既存通貨の価値が下がる傾向にある中で、インフレのリスクに備えているという意味があるでしょう。

 一方でテスラは、クルマをビットコインで購入できるようにすると発表し、2021年3月25日には、ビットコインでの支払いを開始しました。実体のある通貨として現物が取引できるようになることは、ビットコインの信認に大きく寄与するだけでなく、企業側にもうまみが大きいと考えられるのです。

  • >>479

    ビットコイン100兆円経済圏の争奪戦が始まる

     というのは、すでに仮想通貨の市場はビットコインだけでも100兆円にせまる経済規模を持っています。この経済圏にはビットコインを愛好する人々のコミュニティが存在しており、実際にビットコインでテスラのクルマを買えるようになることは、彼らとのコミュニケーションを深め、100兆円の経済圏に顧客を増やしていく狙いがあるでしょう。

     こうした背景を考えれば、今後、あらゆる製造業や決済企業、サービス系のIT企業が続々とビットコインやイーサリアムをはじめとした仮想通貨経済圏に足を踏み入れてくると予想することができるのです。

     まさにビットコインは冬の時代(キャズム)を経て、急速にアーリーマジョリティを取り込むフェーズに突入してきた。

     我々、クラーケンは、この時代により確かで安全な取引所を作りたいと考えているのですが、そのためには既存金融と如何に伍していくのかもまた、大きなイシューとなってきます。