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チンパンジーの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使ってヒトの病気の治療法などを探る研究を、京都大霊長類研究所(愛知県犬山市)のグループが二〇一七年に本格化させる。ヒトとの遺伝子の差が約1%しかないのに、チンパンジーはがんやアルツハイマー病をほとんど患わない。iPS細胞を使うことで、ヒトとチンパンジーの細胞や組織を詳細に比較し、この秘密に迫る計画だ。

 iPS細胞は〇六年にマウス、〇七年にヒトで作製されて再生医療研究が進んでおり、一三年にはチンパンジーでもiPS細胞作製が報告された。世界的に始まったばかりのサルなどの霊長類のiPS細胞研究に、霊長研の今村公紀助教(35)は初期から携わる。今村助教と大学院生の北島龍之介さん(25)は霊長研などで飼育する四頭のチンパンジーからiPS細胞を作って研究環境を整え、今年は世界で初めてニホンザルのiPS細胞の作製にも成功した。

 グループでは特に脳に注目する。これまでマウスなどの実験動物以外では、生きた動物の脳細胞を得ることは難しかったが、iPS細胞からは脳の神経細胞や組織を培養し、発生過程も詳しく観察できる。

 アルツハイマー病では、脳にタンパク質のごみが蓄積して神経細胞が死に、認知症になるが、チンパンジーではこの蓄積がほぼ見られない。今村助教は「神経細胞の研究が可能になったことで、なぜチンパンジーで病気が起こらないのかわかるかもしれない」と話す。京大iPS細胞研究所でアルツハイマー病の再生医療を研究するグループとも連携して研究計画が進む。チンパンジーではがんも極めて少ないことから、今村助教らは脳腫瘍でも同様の研究を進めたい考えだ。

 ヒトの進化の鍵になった遺伝子の特定を目指す、スケールの大きな研究もある。ヒトとチンパンジーは遺伝子が約99%一致するが、ヒトの脳がチンパンジーより約三倍大きい点で異なる。これが高度な言語や文明の形成につながったと考えられる。今村助教は「ヒトとチンパンジーの脳が発生する過程を遺伝子レベルで分析し、脳を大きくする指示を出すような遺伝子を見つけられるかもしれない」と話す。

 富山県高岡市出身の今村助教は金沢大を卒業後、京大大学院などでノーベル医学生理学賞受賞者の山中伸弥教授の研究室に所属し、iPS細胞の発見を間近に見た。「山中先生から独自の研究分野をつくることの大切さを学んだ。霊長類のiPS細胞研究という自分の分野を確立したい」と話している。

 (森耕一)