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企業、英離脱混迷に見切り 「合意なし」前提シフト
野村HD、口座移設を加速 独ボッシュ、部品在庫増やす

3月29日に迫る英国の欧州連合(EU)離脱で、各国企業が「合意なし」に軸足を置く備えを急ぎ始めた。金融機関は取引寸断を避けるためロンドンにある顧客口座の移設を進め、製造業は物流停滞を見越して部品などの在庫を過去最高水準に積み上げている。準備期間を設ける円滑な離脱を約束できない英政治の混迷を見限り、企業の対応は危機管理モードの新局面に入ってきた。

「もう合意なき離脱を前提に動くしかない」。野村ホールディングスの英拠点を率いる柏樹康生・欧州地域エグゼクティブ・チェアマンはこう語る。ロンドンに口座を持つEU域内の顧客に、EU側に口座を開いてもらう働きかけのピッチをあげている。本来は合意ありで設けられる2年間の「移行期間」に実行するつもりだったが、あてにできなくなった。

英国はEU離脱で共通の金融免許である「単一パスポート」の枠組みから外れる。EUの顧客へのサービス提供にはEUに口座が必要という状況へ3月末に突然切り替わると取引が寸断されかねない。「もう待てない」。英大手銀バークレイズは1月末、顧客約5000社分、約24兆円相当の資産をアイルランドに移すことを決めた。

合意ありか、なしか。これまで両様の構えだった企業は、1月15日に英下院でEU離脱案が大差で否決されたのを引き金に危機感を深めた。延期論も浮かぶが、2月に入っても行方はなお混沌としたまま。最終的に合意なしになれば、規制の断絶、関税や通関手続きの発生などで企業活動は大混乱に陥る。

「合意なき離脱のリスクが高まった」。欧州製薬大手ノバルティス(スイス)は英国内の備蓄を積み上げている。同社は年1億2000万箱の医薬品を欧州から英国に輸出。モノの流れが目詰まりを起こしても患者に薬が行き渡るように備える。欧州メディアによると、自動車部品世界最大手の独ボッシュや仏高級品LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンなども在庫を増やしている。

英国倉庫協会の調べでは回答企業の75%が倉庫はすでに「満杯」。企業は生産や販売を持続できるように部品や商材などを手厚く確保している。英国の購買品在庫の水準を示す指数は1月に1992年の調査開始以降で最も高くなった。