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英、EUと再交渉方針 国境問題、議会が承認
離脱延期案は否決

英議会下院は29日夜(日本時間30日朝)、欧州連合(EU)からの離脱に関する与野党議員の複数の修正案を採決し、メイ首相の考えに近い保守党議員の案を賛成多数で可決した。アイルランドの国境問題への対応でEUに修正を求めるというメイ首相の方針が、事実上承認された。

保守党の修正案は、英・EUで11月に合意した離脱協定の変更を求めており、メイ首相が21日に公表した代替案より一歩踏み込んでいる。メイ首相は近くEUと具体的な対策を協議する方針だ。ただ、EU側は離脱協定の修正に応じない構えで、メイ首相や英議会の意向が実現する見通しは立っていない。

英・EUの離脱案が大差で否決されたのを受け、メイ首相は21日にアイルランドの国境問題への対応の修正を検討する代替案を発表した。29日にはこのメイ首相の方針のほか議員提案の修正案7本を審議し、うち2本が賛成多数で可決された。

保守党のブレイディ議員らの案は「離脱協定で定めたアイルランドの国境問題の対応を他の案に置き換え、離脱案に賛成する」という内容。メイ首相の代替案に近く、首相も同党議員に賛同するよう呼びかけていた。与野党の超党派の議員が提出した「合意なき離脱を拒否する」との案も僅差で可決された。

この結果を受け、メイ首相の代替案に可決した2つの修正案を加えた案を議長が口頭で確認し、下院の了承を得た。

ただ英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドに物理的な国境をつくらないという対策を巡り、英国内から「離脱後もEUに縛られ続ける」との批判が出る状況は、昨秋の英・EUの離脱案の合意以来続いたまま。EUが離脱案の修正を認めないなかでは、事態が好転する見通しは立たない。

否決された5本の修正案の中には労働党議員ら超党派による「2月26日までに議会で離脱案の承認がない場合に、離脱時期の延期を求める」という案もあった。国内外の調整が難航するなかで、経済に混乱を及ぼす「合意なき離脱」を防ぐ狙いだ。英・EUの交渉が不調に終わった時の「保険」になるとの見方もあったが、23票差で否決された。

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    英欧の金融決済、1年は現状維持 「合意なき離脱」でも

    英イングランド銀行(中央銀行)は4日、英国が合意なしで欧州連合(EU)から離脱しても、英国の中央清算機関(CCP)を在EUの参加者が当面使えることをEU側と確認したと発表した。「合意なき離脱」でも1年間は現状を保つ。ロンドンに集まる金融決済機能の混乱を避ける措置が正式に固まった。

    EUの金融規制当局である欧州証券市場監督機構(ESMA)と覚書を結んだ。2018年12月には欧州委員会が、離脱から1年間は英清算機関が在EUの金融機関にサービスを提供することを認める方針を打ち出していた。金融当局レベルでその実効性を確認した。

    英中銀とESMAは、監督に必要な情報交換を続けることで合意した。清算機関に対する規制が英国とEUで同等性を持つことを認め、英国のEU離脱から1年間は現状を保つとした。

    欧州では英ロンドン証券取引所グループ傘下のLCHが、金利デリバティブ(金融派生商品)などの清算で圧倒的シェアを持つ。英中銀によると英清算機関が扱うEU顧客向けのデリバティブ残高のうち、3月末以降に満期が来る分は45兆ポンド(約6400兆円)ある。継続利用が認められないと、合意のない離脱に至った際に金融システムが混乱しかねなかった。

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    企業、英離脱混迷に見切り 「合意なし」前提シフト
    野村HD、口座移設を加速 独ボッシュ、部品在庫増やす

    3月29日に迫る英国の欧州連合(EU)離脱で、各国企業が「合意なし」に軸足を置く備えを急ぎ始めた。金融機関は取引寸断を避けるためロンドンにある顧客口座の移設を進め、製造業は物流停滞を見越して部品などの在庫を過去最高水準に積み上げている。準備期間を設ける円滑な離脱を約束できない英政治の混迷を見限り、企業の対応は危機管理モードの新局面に入ってきた。

    「もう合意なき離脱を前提に動くしかない」。野村ホールディングスの英拠点を率いる柏樹康生・欧州地域エグゼクティブ・チェアマンはこう語る。ロンドンに口座を持つEU域内の顧客に、EU側に口座を開いてもらう働きかけのピッチをあげている。本来は合意ありで設けられる2年間の「移行期間」に実行するつもりだったが、あてにできなくなった。

    英国はEU離脱で共通の金融免許である「単一パスポート」の枠組みから外れる。EUの顧客へのサービス提供にはEUに口座が必要という状況へ3月末に突然切り替わると取引が寸断されかねない。「もう待てない」。英大手銀バークレイズは1月末、顧客約5000社分、約24兆円相当の資産をアイルランドに移すことを決めた。

    合意ありか、なしか。これまで両様の構えだった企業は、1月15日に英下院でEU離脱案が大差で否決されたのを引き金に危機感を深めた。延期論も浮かぶが、2月に入っても行方はなお混沌としたまま。最終的に合意なしになれば、規制の断絶、関税や通関手続きの発生などで企業活動は大混乱に陥る。

    「合意なき離脱のリスクが高まった」。欧州製薬大手ノバルティス(スイス)は英国内の備蓄を積み上げている。同社は年1億2000万箱の医薬品を欧州から英国に輸出。モノの流れが目詰まりを起こしても患者に薬が行き渡るように備える。欧州メディアによると、自動車部品世界最大手の独ボッシュや仏高級品LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンなども在庫を増やしている。

    英国倉庫協会の調べでは回答企業の75%が倉庫はすでに「満杯」。企業は生産や販売を持続できるように部品や商材などを手厚く確保している。英国の購買品在庫の水準を示す指数は1月に1992年の調査開始以降で最も高くなった。

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    「脱・英国」は幅広い業種で加速している。英フェリー運営大手のP&Oは英仏海峡を運航する全フェリーの船籍を英国からEU加盟国のキプロスに変える。EUの税の恩恵などを引き続き得られるようにするためだ。

    ソニーは今春、英国に置くエレクトロニクス事業の欧州統括会社の登記を新会社を設けたオランダに移す。テレビやカメラなどアジアの主要生産拠点から供給する商品の輸入業務をEU加盟国のオランダ法人に替え、通関手続き優遇を継続して受けられるようにする。

    企業が最も困るのは投資環境の先行きを見通しにくいことだ。「今の状況は将来の事業計画を策定するにあたり一助とはならない」。多目的スポーツ車(SUV)の次期モデルを英北部で生産する計画を撤回した日産自動車は3日、政治にくぎを刺した。英政界と良好な関係を築き、同国での生産を推進してきたカルロス・ゴーン被告の会長解任も影を落とす。

    化学品を扱うある在英日系企業は近くドイツ支社を法人に格上げし、欧州の拠点機能をロンドンから移す計画だ。仮に合意なしが回避されても移転は変えないという。

    ムダな投資を避けたい企業にとって合意なしに備え見直した体制を元に戻すのは難しい。EU離脱はただでさえ企業にコストを強いるのに、将来像を示せない迷走が英国のヒト・モノ・カネの空洞化に拍車をかける。英経営者協会は「安定した事業環境の評判が損なわれつつある」と懸念する。

    「大規模な拠点があるから動かないだろうという離脱支持者の主張を聞き入れないでほしい」。欧州エアバスのトム・エンダース最高経営責任者(CEO)は1月末、関連先を含め約11万人が携わる英事業縮小の可能性を警告した。巨大企業が決められない政治に突きつけた最後通告だ。

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    ジャガー、英の全工場を一時休止 合意なき離脱に備え

    英ジャガー・ランドローバー(JLR)は24日、4月に英国の工場で1週間生産を休止することを明らかにした。英国の欧州連合(EU)離脱が「合意なき離脱」になった場合の物流の混乱に備える。4月の生産休止は独BMWやホンダに続く動きで、合意なき離脱に向けた緊急対策が活発になってきた。

    英中部ヘイルウッドなどすべての完成車工場とエンジン工場が対象。すでに決定済みの休止日に加えて、4月8~12日の生産を止める。合意なき離脱になった場合の物流の混乱や国境での税関手続きの遅れに備える。

    JLRは10日に販売不振の影響で4500人の人員削減を発表。あわせて合意なき離脱は雇用に悪影響をもたらすと警告してきた。

    英国で自動車を生産する大手ではBMWが「ミニ」を生産するオックスフォード工場で4月に1カ月間の生産休止を18年9月に決めた。今月10日にはホンダが「シビック」シリーズを生産する英南部スウィンドン工場で4月後半に6日間の生産休止日を設定することを公表した。

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    ホンダ、英で4月に一時生産休止 EU離脱の混乱に備え

    ホンダは10日、英国の欧州連合(EU)離脱に備え、英国の工場で4月に生産休止日を設けると明らかにした。4月後半に6日間を設定する。「合意なき離脱」になった場合の物流の混乱や国境での税関手続きの遅れに備える。

    4月の生産休止を決めたのは独BMWに続く動き。3月29日の離脱日が迫るなか、「合意なし」を見すえた動きが広がってきた。

    ホンダは1月10日、「シビック」シリーズを生産する英南部スウィンドン工場の従業員に休止日設定を通知した。4月後半に工場を止めるイースター(復活祭)休暇の前後に設定するが、従業員は原則として出社し、研修などに充てる。

    生産の混乱を避けるため、部品の備蓄も計画する。離脱で物流が一時的に止まっても生産を続けるために、先行して部品を多めに納入するよう部品メーカーに要請した。シビックの部品のうちEU産の比率は2018年4~9月で12%だった。

    備蓄にあたっては外部の倉庫などの確保はせず、現状の設備で対応する。6日間の生産休止日は先行納入した部品を使っても生産が滞る事態を想定したものだ。

    英国に完成車工場を構える大手ではBMWが「ミニ」を生産するオックスフォード工場で4月に1カ月間の生産休止をすでに決めている。夏場の設備補修のための生産休止期間を前倒しする。

    英国で「カローラ(旧オーリス)」を生産するトヨタ自動車は、生産休止を決めていない。ただ、18年10月に「合意なき離脱」になった場合、英国での生産停止は避けられないと明言している。

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    英、「拘束力ある修正」をEUに要求へ アイルランド問題打開図る
    離脱協定の書き換えも

    メイ英首相は7日、ブリュッセルの欧州連合(EU)本部でユンケル欧州委員長と会談し、EU離脱問題の打開策を協議する。会談でメイ首相は離脱協定に盛り込まれたアイルランドの国境問題への対応策について、協定そのものの書き換えを含めた「法的拘束力のある変更」を求める方針だ。

    英・EUは過去の紛争の再発を避けるために、離脱後も英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの間に、物理的な国境を置かない方針で合意済みだ。ただ離脱協定にはその具体策が見つかるまで、英国全土を関税同盟に残すなどの「安全策」が盛り込まれている。これに対し「EUルールに縛られ続ける」との反発が強く、英議会は1月29日に協定の修正を求める動議を賛成多数で可決した。

    これを受けメイ首相は議員の不安を和らげるために、ユンケル委員長に「英国がずっと安全策に陥るわけではないという保証が欠かせない」と主張する見通し。そのうえで「それを法的拘束力のある形で明確にし、離脱協定を書き換える必要がある」と訴える方針だ。

    メイ政権はその具体策として安全策の発動に期限を設けたり、英国から一方的に安全策を打ち切れるようにしたりする修正を念頭に置いているもようだ。ただいずれの案もすでにEU側に打診し断られた経緯がある。

    EUは2018年12月の首脳会議で「安全策は一時的である」という首脳文書をまとめたが、これに条約や協定のような法的拘束力はない。英国はさらに実効性のある約束や具体策をEUから引き出したい考えだが、EUは簡単には応じない構え。英の要求には新味があるとはいえず、局面打開につながる見通しは立っていない。

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    英EU首脳会談、離脱巡り平行線

    メイ英首相は7日、欧州連合(EU)離脱問題の打開へユンケル欧州委員長らと会談した。離脱協定案に盛り込んだアイルランドの国境問題への対応策を巡って、メイ首相が「法的拘束力のある変更」を求めたのに対し、ユンケル氏は協定案の「再交渉」を拒否し、議論は平行線に終わった。メイ首相は13日までに英議会に新たな離脱案を示す意向だったが、来週中の新提案の提示は難しい情勢となってきた。

    会談終了後、メイ氏とユンケル氏は共同声明を公表。英議会の幅広い支持を得られる打開策を見つけるため協議を続けることで一致したが、具体的な道筋は示せなかった。11日に首席交渉官レベル会合を開くなど協議は続ける方針で、声明では「2月末まで」にメイ氏とユンケル氏が再会談すると記した。

    メイ英首相による英議会への来週中の新提案提示が厳しくなったことで、離脱協定案を巡る英議会の採決も遅れる公算が大きい。英紙デーリー・テレグラフは6日、メイ首相が採決を25日の週に延期する準備に入ったと報じた。3月29日までに議会承認を終えて協定案を発効できなければ、英国は「合意なき離脱」に向かう。