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Achilles Last Standの掲示板

>>103

見たことがある人はほとんどいないだろう。

特徴は、ハイスペック製品というよりアイデア製品だ。例えば、複数の機械を制御するプログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC)。キーエンスは2019年、PLCに世界で初めて「ドライブレコーダー」を搭載した。クルマの事故状況を把握するように、PLC搭載装置のトラブルを記録するのが目的だ。これが、中小製造業の心を捉えて大ヒット。今では三菱電機などの競合もPLCにドライブレコーダー機能を加えられるようにしている。
原理はさほど難しくないが、キーエンスが真っ先に商品アイデアを思いついた。こうした例は珍しくない。同社は1万種類以上とされる製品を手掛けるが、新製品の約7割が「世界初」あるいは「業界初」だと豪語する。他にない機能を持つ製品が、高く売れるのは当然だ。同社製品の粗利は約8割とされる。原価2000円の製品を1万円で売っている計算だ。

原動力になっているのが、代名詞でもある「直接営業」だ。競合が代理店を使った間接営業を主軸とするのとは対照的に、キーエンスは社員が営業担当として直接顧客企業を訪ね歩く。前出のエーワンの幹部は「あまりの訪問頻度の多さに『こちらが連絡するまで来ないでほしい』と言ったことがある」と苦笑いする。

直接営業を貫く理由は2つある。まずは競合を出し抜く「スピード」だ。

19年秋、キーエンス製品を導入したクボタは商談の展開スピードに驚いた。同社は農機や建機のエンジン製造に用いる3Dロボットビジョンシステムの導入を検討し、数社に見積もりを依頼した。代理店を挟むメーカーでは1週間かかるところもあったが、キーエンスは即日返答。翌日には大阪市内のラボでの試用まで提案してきた。クボタ生産技術統括部の竹野陽山・第一課長は「圧倒的な速さだった」と舌を巻く。

  • >>104

    兵庫県宝塚市で電子機器を生産するニッシンの役員は「ウェブサイトから製品カタログをダウンロードした1時間後に、突然電話がかかってきた」と打ち明ける。キーエンスに「待ち」の姿勢はない。顧客の興味の兆しが見えた途端にアプローチし、自らのペースに巻き込んでいく。

    もう1つは「潜在ニーズ」の掘り起こし。営業担当者が現場を直接見ることが、顧客自身も気付かなかった欲求を浮き彫りにしていく。

    「こんなに簡単なんですか? 初見で使えますね!」

    「ガーナ」などのチョコレートを製造するロッテ浦和工場(さいたま市)。生産技術の担当者は18年、キーエンス製の画像センサー導入を決めた。工場内に持ち込まれたデモ機を見るだけで、設定のシンプルさが分かったからだ。
    ロッテの担当者が悩んでいたのは歩留まりの悪さ。チョコレートの「割れ」や「欠け」を判別する装置を用いていたが、精度が足りずに良品まではじいてしまっていた。そこで声をかけたのは、毎月のように来訪するキーエンスの営業担当者だった。頻繁に顔を出し、「相談を持ちかけると喜んで応じてくれ、早いと翌週には具体的な提案に仕上げてくる」(ロッテ)姿勢に好感を持っていたからだ。

    回答はロッテの想像を超えていた。問題解決に特化するなら、判別精度の高い機械に置き換えるのが近道だ。歩留まりは改善し、当面の不満は解消される。しかしキーエンスが持ち込んだのは、高精度でも使いやすさに特化した製品だった。

    多くの製造現場では高価だが複雑な装置を作業員が使いこなせず、宝の持ち腐れになっている。調整が難しい機械は、次第に敬遠されるようになる。

    一握りの専門家ではなく、生産ラインに関わる多くの人の知恵を結集して歩留まりを高めたい――。ロッテのニーズを先回りして具体化し、目の前に示したからこそ、キーエンスは新製品の導入に成功したわけだ。