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"After Corona" の株式市場はどうなる?
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アマゾン新CEO、ベゾス氏が築いた帝国守れるか

 アマゾンのクラウドコンピューティング事業「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」でアンディ・ジャシー氏がどのようなリーダーだったかは「the wheel(車輪)」と呼ばれる会議ツールに表れている。

 現・元社員によると、週に一度のスタッフ会議では、ジャシー氏ら幹部がこの「車輪」を使って無作為に社員を選び、事業についてプレゼンテーションをさせた。ジャシー氏らは熱心に耳を傾け――おそらく話を止めて間違いを正したりしただろう――、スタッフに次々と細かい質問をぶつけたという。

 ジャシー氏は5日、創業者のジェフ・ベゾス氏の後任としてアマゾンの最高経営責任者(CEO)に就任する。ジャシー氏の細部を重視する経営スタイルがアマゾン全体の経営に持ち込まれることになる。

 53歳のジャシー氏はアマゾンの生え抜きで、ベゾス氏のそばで仕事を学んだ。ベゾス氏と似たところもがあるが、ベゾス氏とは異なるタイプのリーダーだ。ジャシー氏と組んで仕事をしたことがある人々によると、ジャシー氏はベゾス氏と違って、穏やかな話し方をする、親しみやすい人だという。スポーツと音楽が好きで、ジーンズ姿で出社することを好み、シアトルの本社キャンパス周辺のレストランでときどき目撃されている。

 一部の元社員によれば、ベゾス氏――幹部が準備不足と思われるときは会議中に激怒することで知られている――と比べると、ジャシー氏の社員に対する態度は穏やかだが、集中力や競争心の面ではベゾス氏に劣らないという。一方で、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が今年2月に報じたように、ベゾス氏はここ数年、細かいことには口を出さない経営スタイルを取ってきたが、複数の元社員によると、ジャシー氏はAWSの事業の細部まで徹底的に掘り下げることで知られており、部下が困惑することもあった。ジャシー氏は見込み客への売り込みから技術的な変更の方向付け、会社のイベントで流す音楽の選定、報道機関向けの発表文の編集など何でもやった。アマゾンの元幹部によると、ベゾス氏直属の幹部の中でジャシー氏ほど予定を押さえるのが難しい人はいなかった。

 「彼は驚くほど細部を重視している」と話すのは、アマゾンの副社長でジャシー氏と12年以上働いているジェームズ・ハミルトン氏だ。「あの細部への徹底したこだわりは比類がない」

 そうしたこだわりのおかげもあって、ジャシー氏はAWSをクラウドコンピューティング革命の先駆者に、さらには一大事業へと育て上げた。AWSは数万人の社員を擁し、昨年の売上高は450億ドル(約4兆9900億円)を超えた。独立した企業なら「フォーチュン500」ランキングでベストバイを僅差で下回る69位だ。昨年の営業利益は135億ドルで、アマゾン全体の6割近くを占めた。

 しかし親会社のアマゾンはそれよりはるかに大きい。社員数は130万人近くに上り、昨年の売上高は3860億ドルだった。

 ジャシー氏は今後、アマゾンなどを反トラスト法(独占禁止法)で取り締まろうとする議員や当局者との戦いも指揮しなければならない。連邦議会下院の司法委員会は先月、大手テクノロジー企業を標的にした複数の法案を可決。実質的にアマゾンを狙ったある法案は大手企業のオンラインプラットフォームとプラットフォーム上で販売する社内ブランドの切り離しを求めている。こうした動きに先立って、ジョー・バイデン大統領は主にアマゾンの競争戦術への批判で名を上げた弁護士のリナ・カーン氏を米連邦取引委員会(FTC)委員長に任命した。FTCは現在、アマゾンの商慣行について調査を進めている。

 AWSは反トラスト法をめぐる議論に巻き込まれていないため、ジャシー氏はこの問題にこれまでほとんど関わっていない。しかしアマゾン批判派は既にジャシー氏に照準を定めている。2月初旬、ジャシー氏がアマゾンCEOに就任すると発表された数時間後に、下院反トラスト小委員会で共和党トップを務めるコロラド州選出のケン・バック議員がツイッターに「ジャシー氏にいくつか聞きたいことがある」と投稿した。

 アマゾンはジャシー氏に対するコメント要請に応じなかった。同社はこれまでに、事業は顧客の利益になるように公正に運営している、提案されている法案は同社のプラットフォーム上で販売する企業だけでなく、買い物をする何億人という消費者にも損害を与える、との見解を示している。

「一番アマゾンらしい」

 ジャシー氏は著名な企業弁護士の息子で、ニューヨーク州スカーズデールで育った。学校ではサッカーとテニスの選手だった。ハーバード大学を卒業し、経営学修士号(MBA)も同大で取得した。アマゾンに入社したのは1997年。ベゾス氏が自宅のガレージでオンライン書店としてアマゾンを立ち上げてから数年しかたっていなかった。ジャシー氏はテクニカルアドバイザーなど複数の役割を担った。

 2000年から2003年にかけてジャシー氏と社内のチームはのちにAWSとなる事業について計画を立て始めた。アマゾンは既に自社の小売事業に必要な低コストの巨大なコンピューターインフラを管理する高い技術を獲得しており、AWSはその専門技術を外部に販売するルートになった。2006年、アマゾンはジャシー氏をトップに据えてAWSを立ち上げた。

 アマゾンに15年以上勤務し、エンターテインメント事業のトップを務めたビル・カー氏はジャシー氏について、昔からベゾス氏と気が合っていたという。カー氏によると、社内には「Amazonian(アマゾンらしい)」という表現があり、「アンディはジェフの直属の部下の中で一番アマゾンらしかった」。カー氏は2014年に退社した。

 元同僚によれば、ジャシー氏は自分が重要だと思えば細部のさらに細かいところに莫大な時間をかけた。2019年に始めた音楽フェスティバルに参加するアーティストを時間をかけて選び、2012年に新たなデータ分析製品を発表した際には4週間かけて名称を検討し、発表前日に「レッドシフト」に落ち着いた。

 前出のハミルトン氏によると、バージニア州にあるAWSのデータセンターで大規模障害が発生したときは、ジャシー氏が自ら問題の把握に乗り出した。技術者が発電機を確認しているときにドアが偶然、スイッチにぶつかって発電機が止まったことが分かり、ジャシー氏は詳細に調査して、担当チームに発電機の設計を変更するよう求めた。

 ジャシー氏の昨年の報酬は17万5000ドルの基本給と株式付与を含めると3580万ドルだった。アマゾンの個人株主としてはベソス氏と同氏の元妻マッケンジー・スコット氏に次ぐ3位に名を連ねている。アマゾンの2日の発表によると、ジャシー氏には5日に6万1000株が付与される。権利は10年で確定する。2日の終値で計算すると、付与される株の価値は約2億1400万ドルに上る。新たに付与される株と5月時点で保有していた約8万8000株を合わせると、ジャシー氏の持ち分は全体の約0.03%だ。

 これだけの資産があるにもかかわらず、ジャシー氏は一部で倹約家として知られている。元同僚の一人によると、ジャシー氏はプライベートジェットを使うように提案されるとためらったという。知人の一人はジャシー氏がおんぼろの古いジープ・チェロキーに乗り込むのを見て驚いたと話した。

返信メールに「Nice!」

 ジャシー氏はベゾス氏より控えめで、現・元社員によると、会議では自分以外の人が発言するのを待って質問をする。多くの幹部はベゾス氏が気に入らないプレゼンに下す厳しい評価を恐れているが、ジャシー氏は不満を表すときも慎重だという。「(ジャシー氏が)穏やかなではない話し方をするのを見たことがない」とカー氏は言う。

 アマゾンの幹部はベゾス氏から送られてくるクエスチョンマーク付きのメールにおびえているが、ジャシー氏はメールに「いいね(Nice!)」と返信することが多い。この返事があまりにも有名になり、AWSでは「Nice!」という吹き出し付きでジャシー氏の顔のステッカーを作った社員もいる。

 「私たちは働くために生まれたわけではない」。AWSのある幹部によれば、全員参加の会議でジャシー氏はこう言ったという。

 しかし仕事に対する要求は厳しい。「車輪」を使った週に一度の会議では、ジャシー氏ら幹部がマネージャーやチームのメンバーに鋭い、突っ込んだ質問を投げかけた(当初はボードゲームやゲーム番組で使われているような手作りの円盤が使われていたが、参加する部門が増えたため、のちにコンピューターアルゴリズムを使うようになった)。社員の中には会議を「銃殺隊」や「死の車輪」と呼ぶ人もいた。アマゾンの広報担当者はこの会議が一般的にそのように呼ばれているわけではないと述べた。

 社員の一人によると、ジャシー氏は社員に不満があるときには非常に辛辣な意見を述べることがあるが、メールでフォローすることが多いという。ジャシー氏は会議で大声を上げることはないものの、問題を真剣に受け止めていない人間がいると感じたときは特に、非常に辛辣(しんらつ)な批評をすることがある。ある元幹部は「(ジャシー氏には)これまでに見たことのない緊迫感がある」と話した。

  • >>22

     ジャシー氏をよく知る人々によると、「車輪」を使った会議には人の善意に頼ってはいけないというジャシー氏の考え方が良く表れているという。社員が会社の期待に応えるようにするには強制力が必要だとジャシー氏は考えている。「車輪」がなければ、準備をしてこない人が出てくる。AWSのある幹部は「彼は、会議室にいる全員が会社のサービスの細部に没頭できる状態でいることを望んでいた」と話す。

     事情に詳しい複数の関係者によると、ジャシー氏は幹部の退職に怒ったことがある。アマゾンはジャシー氏と非常に親しかった元幹部社員に対して競業禁止を巡って裁判を起こしたことがあるという。グーグルに転職した元社員を訴えた裁判について、ある元幹部は「(ジャシー氏が)莫大な労力と多くの人を使って大して重要ではないことを優先しようとするいい例だ」と話した。アマゾンの広報担当者は社員の退職にジャシー氏が腹を立てたことはないと述べた。

    By Aaron Tilley, Dana Mattioli and Kirsten Grind