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株の掲示板

「外国人の日本株への興味が高まっている」
<株価展望> 強気派・ゴールドマンの見方

日本の株式市場はアメリカの長期金利上昇などの影響を受けて高値から一服商状にある。今後の株式相場の見通しや外国人投資家の動向、アメリカの金利情勢を含めたリスク要因などについて、ゴールドマン・サックス証券の日本株ストラテジストを務める建部和礼氏に聞いた。
利益成長が牽引する相場へシフト
――現在の日本株に対する基本スタンスは。

日本を含めたグローバルな株式に対して強気の見方をしている。2月に日経平均株価が3万円を超えたのは、企業決算が好調で、当初われわれが春先以降に見込んでいた成長加速の織り込みが前倒しされたものだった。

3万円超えは1990年以来であり、日本株を長年見てきたわれわれにとっても感慨深いことだが、当時とは状況が異なっており、指数の水準自体を比べるのはあまり意味がない。

(PER=株価収益率などの)バリュエーションで見て昨年後半から割高感が強まっているのは事実だが、ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)で十分正当化しうる水準だ。何より株式相場のサイクルで考えると、この先も株価上昇が続いていく可能性が高い。

というのは、ベアマーケット(弱気相場)やリセッション(景気後退)で株価が急落した後、反発に転じてからの推移を歴史的に振り返ると、実体経済の悪化が続く中で株価は経済回復を見越して先んじて反発し、バリュエーションが拡大する形で上昇していくというのが典型的なパターンだからだ。

その次に来るのが「グロースフェーズ」(成長段階)とわれわれが呼ぶもので、実際に利益成長力が回復し始めるフェーズだ。ここでは、バリュエーションの拡大が引っ張っていた株価上昇から、EPS(1株当たり利益)の成長が牽引していく株価上昇へとシフトする。バリュエーションは少し縮小するが、牽引役が利益成長にシフトしながら株価上昇が続く。

期待先行で織り込んでいた成長が本当に実現するかで相場のボラティリティ(変動性)が高まるのも典型的。今まさにわれわれはグロースフェーズの相場へと移行する中で、高いボラティリティが見られている状況にある。大きな景気サイクルという意味でもまだ初期であり、今後は2020年ほど急激ではないが、景気と業績の拡大を反映する形で緩やかな株価上昇が続いていくと考えている。

――日本の株式市場では昨年秋以来、外国人投資家が買い越しに転じていますが、彼らの日本株に対する見方はどうですか。

間違いなく日本株に対する興味は高まっている。グローバルな景気回復局面のとくに初期段階においては、シクリカル系バリュー株(景気敏感系の割安株)が多い日本市場はアウトパフォーム(相対的に上昇)しやすく、昨年11月から外国人投資家が入ってきたのはそうした背景がある。

また、外国人投資家からは、「シクリカル性を超えて日本株がグローバルでアウトパフォームしうる何かがあるか」という質問も受けている。それに対して私は2つの点を挙げている。

外国人はなお大幅なアンダーウエート
1つは、2013年以降続くコーポレート・ガバナンス(企業統治)改革が勢いを増していること。単純なガバナンス改革だけでなく、敵対的買収を含めたM&Aの増大など日本市場は確実に変わってきている。

もう1つが菅義偉政権による改革、いわゆるスガノミクスだ。アベノミクスの3本目の矢である成長戦略は失望を招いて2015年以降の外国人売りにつながったが、スガノミクスによる生産性向上が進めば、期待値があまり高くない分、ポジティブサプライズになりうると話している。

――外国人の買い越し基調は今後も続きそうですか。

昨年11月から外国人は(現物・先物を合わせて)約4兆円買い越したが、長いスパンで見ると、2015年以来の売り越しは累計30兆円近くに及んでいる。依然として日本株に対して大幅なアンダーウエート(低い組み入れ比率)であり、見直し余地は大きい。

――アメリカの長期金利の急上昇を受けて日経平均が一時約1200円安を記録するなど、ここに来て不安定な状況となっています。

株式市場の観点でいえば、経済成長の織り込みとしてインフレや金利が上がっていくのであれば、景気がよくなっているという話であり、株式市場にはポジティブに働くことが多い。

ただし、上昇速度が穏やかであるならば、という条件付きだ。金利上昇のスピードが速すぎると株式市場はそれを消化できず急落する。最近起きたのは、そうした「スピードオーバー」だった。上昇が緩やかであれば、株式市場はそれを消化し、利益成長や景気拡大の恩恵を受けることができる。

景気回復と低インフレの併存続く
――実際のインフレ率の先行きはどう見ていますか。

当面、インフレ率が2%台に乗ることがあっても、FRBのパウエル議長が述べているように、コロナ禍の影響で昨年に低下した反動によるところが大きい。その一時的要因を除くと、アメリカの労働市場は失業率が高いなど依然たるみがあり、基調的なインフレはそれほど上がっていかないだろう。今年の年末時点でも1.8~1.9%程度と見られる。

FRBは平均インフレ目標を導入しており、2%を超えたからといってすぐに利上げはしない。利上げ開始は今のところ2024年前半だと予想している。一方、2021年のアメリカの実質GDP(国内総生産)は1.9兆ドルの追加経済対策の効果もあって前年比7%近い伸びが見込まれる。

――好調な景気回復と落ち着いたインフレが続く中で、ゴールドマンとしては今後の株価上昇余地をどう見ていますか。

アメリカのS&P500株価指数(3月8日終値は3821)で言えば、今年末に4300、来年2022年末に4600を予想している。

――予想PER(今後1年のEPSベース)ではどれくらいですか。

来年にかけ21~22倍が続くとみる。EPS成長と金利上昇による影響の引っ張り合いでほぼ同水準が続くと見ている。

――日経平均の今後の見通しは。

日経平均の水準に関しては現在見直し中なので言えないが、グローバル株と歩調を合わせる形で上昇基調が続くと見ている。経済回復の恩恵が大きいシクリカルセクターを全般に推奨している。

――今後の主なリスク要因は何ですか。

やはりアメリカの金利上昇がオーバーシュートすれば、とくにアメリカの場合、PERの高いグロース系(成長株)の比率が高いので影響が大きい。また、新型コロナの変異株が拡大したり、ワクチンの再開発が必要になったりすると、経済回復が遅れて株価にも影響が出るだろう。

日本株特有のリスクとしては、内閣支持率の状況次第で政治の不安定性が高まること。菅首相は改革のモチベーションが高いだけに、彼がいなくなった場合に改革の機運が下がることが懸念される。また、日本人のワクチンに対する信頼度は世界の中でも突出して低いと見られ、経済の回復速度が遅くなるリスクにも気をつけるべきだろう。

――FRBによるテーパリング(量的金融緩和の縮小)の影響は。

今のところテーパリング開始は今年末から来年前半にかけてと見ているが、2013年5月のテーパー・タントラム(当時FRB議長だったバーナンキ氏のテーパリング示唆による市場混乱)の反省もあり、FRBとしても市場とコミュニケーションをとりながら慎重に対応していくと見られる。