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☆loneliness…
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ビットコインのしくみをビザンチン将軍問題でやさしく理解する

・もっと効率的に資産を増やせないか?
・会社の財務をもっとうまく管理できないか?
・画期的で新しいアイデアやテクノロジーを生み出して儲けられないか?

不安定さを増す世界で、私たちは好むと好まざるとにかかわらず、日々そんなことを考えざるを得なくなっています。お金で愛や幸せは買えないとはよく言ったものだけれど、お金がなければその先に貧困や満たされない人生が待ち受けているのもまた事実だからです。
16歳でケンブリッジ大学に進んだという逸話を持つアマチュア天才数学者、ヒュー・バーカーは、新著『億万長者だけが知っている教養としての数学』の中で、そんな世知辛い世の中で一際役に立つものこそが「数学」だといいます。「数学を使って儲ける」ためのあらゆる知恵を網羅した同書から、とっておきのトピックを紹介しましょう。

● ビザンチン将軍問題とビットコイン

 いろんな種類のデジタル通貨が21世紀の世界経済に欠かせない一部となりつつある。ゲームやソーシャル・ネットワークのユーザーなど、特定のオンライン・コミュニティの内部だけで使える仮想通貨から、暗号を使って取引を安全なものにする暗号通貨まで、その範囲は広い。ライバルがどんどん増えているとはいえ、2009年に史上初となる安全な分散型暗号通貨を生み出したのがビットコインだ。ビットコインの開発者たちは、楕円曲線暗号を用いただけでなく、ビザンチン将軍問題というかなり厄介な数学的難問について考察することでそれを成し遂げた。

 ビザンチン将軍問題とはこうだ。数人の司令官を率いる将軍がいる。包囲中の城への攻撃を成功させるためには、将軍は使者を通じて攻撃か撤退の命令を出さなくてはならない。ところが、司令官と使者のなかには、まちがった命令を出す裏切り者が何人か潜んでいる。まちがった命令を受け取ると、部隊は連携が乱れて敗北してしまう恐れがある。

 この問題を解決するひとつの方法は、全司令官が自分以外の司令官に使者を送り、全司令官が自分以外の司令官からまったく同じメッセージを受け取るまで、誰も行動しないようにするというものだ。そうすれば、裏切り者が偽の命令を中継することはありえない(図28を参照)。

 ビットコインはこれと同じような問題に対処する必要があった。自律的な分散型ネットワークがうまく機能し、第三者の仲裁がなくてもみんながビットコイン通貨を信頼できるようにするためには、正しい“命令”(この場合、ビットコインのすべての取引・所有記録に相当)についての合意が存在しなければならない。

 この問題の解決法こそが、ビットコイン・ブロックチェーンの根底にある。ブロックチェーンとは、ビットコインの誕生以来の全取引記録のことだ。基本的には、複数のサイトにまたがって複製、共有、同期されたデータに対する合意を形成するためのデータベースである。

 あなたがビットコインで支払いを行うとき、あなたが意図している取引は、ビットコイン・ユーザー、具体的にいうとビットコイン・マイナー(採掘者)で構成されるネットワークの全ノードへと一斉送信される。マイナーとは、計算量という点で複雑な数学の問題の解を求めるための専用マシンを用意している人々のことだ(その労役の見返りとして、新規発行されたビットコインが支払われる)。すると、ネットワーク上の全ノードが協力してその取引の正当性をチェックする。いわば、あなたにその取引を行う資格があるかどうかを確かめるわけだ。この時点で、あなたの取引はほかの検証済みの取引のキューへと加わり、それらがブロックチェーン内の次の潜在的なブロックを形成する。

 いずれかのノードが計算問題を解くと、「プルーフ・オブ・ワーク」(仕事の証明)という形であなたの取引と組み合わされ、検証のために残りのネットワークへと送信される。解が検証されると、新しいブロックが無事ブロックチェーンへと追加される。こうして、新しいブロックは、プルーフ・オブ・ワークとともにあなたの取引記録を含んだものとなり、ブロックチェーン内の過去のブロックと数学的に紐付けがなされる。

 新しいブロックが増えるたび、あたかも暗号のようにハッシュ化されたデータがブロックチェーンに追加され、しかもそれぞれのブロックがひとつ前のブロックに基づいているので、ブロックチェーン内のデータを改竄(かいざん)するのは不可能である。なぜならプルーフ・オブ・ワークの偽造はものすごく難しいからだ。

 十分な数のノードをだまして不正な取引を承認させるような新しいブロックチェーンを作成しようと思ったら、ブロックチェーン内の1本1本の鎖を最初の最初までリバースエンジニアリングせざるをえないだろう。当然、それは信じられないくらい複雑な作業なので、このプロセスによって正真正銘の正当な取引記録が生成されると信じても安心なのだ(理論上は、既存の計算能力の51%以上を有する人が残りを不正操作することはありうるし、まだネットワークがかなり小さかったころはそれも問題になりえたが、ネットワークが一定の規模に達した今となってはまずありえなさそうだ。実際に誰がそんなに巨大な計算能力を手に入れられるのかという疑問について考えるだけでもわかる)。

暗号通貨にはほかにも問題がある。ブロックチェーンはハッキング不可能に見えるけれど、個人のウォレット(財布)は実際に何度もハッキングされている。史上最大のハッキング事件として有名なのは、東京に拠点を置くビットコイン取引所、マウントゴックスで起こったものだ。暗号通貨の価値が人々の信頼度に基づいていることを考えると、こうした事件は重大な懸念材料だし、価値の暴落を引き起こすこともある。

 また、ビットコインは初期の参入者だけが儲かって、その後の参入者は結局損をするだけのポンジ・スキームやピラミッド商法の一種なんじゃないかと憶測する人々もごまんといる。将来的に、世界の政府や企業が暗号通貨やそれに関連する数学とどう向き合うのかについて考えるのも面白い。大手銀行は少しずつ独自のブロックチェーンを開発しているが、政府はみずからの監督の行き届かないところでビットコイン取引が行われることを憂慮している。ビットコイン取引が不正な目的で使われている事実を取り締まりの言い訳に用いる可能性もありそうだ。

 しかし、暗号通貨の未来がどうあれ、ビットコインなどの事業の誕生に貢献した数学のすばらしさは否定しようがないだろう。

ヒュー・バーカー/千葉敏生