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日銀は「利上げ」を完全否定するも、決して“鵜呑みにできない”3つの理由
1/23(日) 7:02配信
現代ビジネス

議論は「全くしていない」

 日銀は22年1月17・18日に開かれた金融政策決定会合で、大規模な金融緩和政策を維持することを決めた。それでも、市場には利上げ観測が燻っている。日銀が利上げに舵を切る可能性はあるのか。

 市場関係者の多くは、今回の金融政策決定会合に大きな関心を持っていた。背景には、1月14日にロイター通信が関係者の話として、「日銀が利上げに関する議論を行っている」と報じたことがある。

 この観測報道で、市場では「日銀が金融政策の変更に踏み出すのではないか」との思惑が高まった。

 しかし、会合後の記者会見で、黒田東彦総裁は将来の利上げに向けた議論について、「全くしていない」と金融政策変更の可能性を強く否定した。

 それでも、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融政策を利上げに向け舵を切るなど、欧米の中央銀行が金融引き締め政策への変更を検討していることや、資源価格の上昇などにより国内の物価上昇圧力が強まっていることで、市場には利上げ観測が燻っている。

 この点についても、黒田総裁は「一時的な資源価格の上昇に対応して金融引き締めを行うことは全く考えていない」と述べている。

 果たして、本当にそうだろうか。筆者はいくつかのケースで、日銀が現在の金融緩和政策を変更すると考えている。

日銀の本位ではないが…

 第1は、国内物価の上昇だ。

 金融政策決定会合と同時に発表された「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、「コスト上昇の販売価格への転嫁が想定以上に加速し、物価が上振れる可能性がある」として、22年度の物価上昇率見通しを従来の0.9%から1.1%へと引き上げた。

 筆者は、21年10月22日の『日本国民に大ダメージを与える「不景気中の物価上昇」が現実味を帯びてきたワケ』で、原油価格・資源価格の上昇により、急激な物価上昇が起きる可能性を指摘した。結果、昨年末には多くの商品が値上げされた。

 日銀が公表している国内物価指数の前年比を見ると、21年3月から上昇が始まり、11月には前年比9.2%の大幅上昇となった。12月も8.5%上昇と高止まりが続いている。

 一方、総務省統計局が発表する消費者物価指数(除く生鮮食品)は、21年4月に携帯電話の通信料金値下げを主因に大きく低下したが、その後はジリジリと上昇している。(表1)

 原材料価格上昇が製品価格に反映されるまでには一定の時間がかかる。このため、企業物価と消費者物価にはタイムラグがあり、日銀が22年度の物価上昇率見通しを従来の0.9%から1.1%へと引き上げたように、今後も物価は上昇傾向をたどる可能性が高い。

 だが、それは日銀の見通し1.1%を上回り、日銀が政策目標としている2%に達する可能性がある。

 13年3月に総裁に就任以降、2%の消費者物価指数を政策目標に打ち出し、大規模な金融緩和政策を継続したものの、その成果は一向に上がらない状況が続いた。そんな中で、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、国内物価が上昇していることは、黒田総裁にとっては“神風が吹いた”ようなもの。

 だた、日銀関係者は、「現在の物価上昇は、日銀の本位ではない」という。黒田総裁も、「景気回復の結果の賃金上昇などを伴う持続的な物価上昇ではなく、(金融政策の)正常化や(金融緩和政策の出口の)議論ができるような状況ではない」との見解を示している。

 だが、実際に2%の物価目標を達成した時、それが日銀にとって“不本意“なものだったとしても、金融政策の変更に踏み込まずにいられるものだろうか。筆者は、日銀は必ず金融政策変更の検討に入ると見ている。

さらに円安が進めば輸入物価にも影響が
 第2は、欧米の金融政策と金利、為替状況だ。

 FRBを始め、欧米の中央銀行が金融政策の正常化(金融緩和政策の終了)に向けて検討していることは前述した。特に米国は、量的緩和政策の縮小に進み始めており、長期金利(10年国債利回り)は上昇傾向にある。

 低金利政策からの脱却が見えない日本と利上げに進む米国との金利差が、金利の高いドルを買って、金利の低い円を売る要因となって、円安が進行しているとの指摘がある。

 21年1月には1ドル=104円付近だった為替水準は、22年年明けには1ドル=116円台前半まで上昇した。1年で10円以上も円安が進んだことになる。

 ただ、16年には1ドル=120円台の円安水準にあったことを考えれば、現在の円安水準が“危険水域”とは言えない。日銀関係者も、「円安が輸入物価に与えている影響はそれほど大きくない」という。

 1月21日時点で、1ドル=116円を超えた円安進行となっておらず、114円台での円下げ渋りが続いているが、新型コロナ禍からの景気回復を背景に利上げに向かう欧米と、回復が遅れ、低金利政策から抜け出せない日本という構図を考えれば、今後も円安傾向が継続する可能性は高い。

 日銀が、現状は軽微だとする円安による輸入物価上昇が、今後、一段の円安が続き、輸入物価に本格的な影響が出てきても、日銀は金融政策の変更を考えないのだろうか。筆者は日銀が金融政策変更の検討を行うと予想している。

日銀は“嘘をつくことが認められている”?

 最後は、黒田総裁の要因だ。

 前述のように、13年3月に総裁に就任以降、一度も2%物価目標を達成できずにいる中で、2%の物価目標に懐疑的な見方をする学識経験者・エコノミスト、市場関係者は多い。

 そこで、黒田総裁が“白旗”を上げ、物価目標をあきらめるケースだが、これに関して筆者は可能性がほぼないと見ている。

 ただ、2%の物価目標は黒田総裁の公約だが、2%の物価目標を達成するまで、金融緩和政策を継続するとは、“どこにも書いていないし、言っていない”のだ。従って、2%目標達成の道半ばであっても、金融政策変更の検討を行う可能性があると、筆者は予想している。

 そして、第1の物価上昇シナリオとともに、もっとも可能性が高いと筆者が予想しているのが、23年4月に迎える黒田総裁の任期切れだ。

 黒田総裁が退任し、新総裁が就任すれば、黒田総裁による2%物価目標達成のための金融緩和策の継続という“呪縛”は解けることになる。日銀の金融政策変更は、この黒田総裁退任というシナリオがもっとも可能性が高いのではないかと筆者は予想している。

 かつて、筆者が日銀記者クラブ詰めの記者だった頃、「日銀は金融政策については、“嘘をつくことが認められている”」と言われた。

 今でも、この慣例が生きているのか定かではないが、日銀は金融政策の変更に関して、事前取材では決して正直に話すことはないというのが、筆者の経験でもある。

鷲尾 香一(ジャーナリスト)