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4563-アンジェス記事ストック
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国産ワクチン実現の課題は? 厚労省前医務技監に聞く

(後半)

――日本のワクチン審査は時間がかかり過ぎだ、との指摘もあります。

「日本でも米国のような緊急使用許可(EUA)の制度を作るべきだと考えている。EUAは『流行が終わるまで』という期限つきで使用を認める制度だ。日本では流行時に一時的な使用を認める制度はない」

「(米ファイザーの承認申請時には)日本でも『特例承認』という仕組みが使われたが、海外で承認されたことが前提になっている。(海外で承認されていない)国産ワクチンは当てはまらない。国はリスクとベネフィットを比較し、ワクチン接種で死を防げる人が何十万人いるのであれば承認するといった判断も必要になるのではないか」

――日本政府は海外3社とワクチンの供給契約を結びました。それでも国産ワクチンの開発を促す意義は何でしょうか。

「コロナウイルスは変異しやすいので、(ワクチンは)毎年接種する必要があるだろう。ただ、全てを海外製で賄うと安全保障上のリスクを抱えることになる。世界は1997年の高病原性鳥インフルエンザ以降、約20年間で5つのパンデミックを経験した。今後も4~5年に1回はパンデミックが起きる可能性がある。国内に研究開発と生産の体制を整備する意義は大きい」

▼米国の緊急使用許可(EUA) パンデミックなどの緊急事態下で、未承認の医療品や、未承認の使用法を一時的に認める制度。有効性や安全性データに基づき、米食品医薬品局(FDA)が審査を行う。

聞き手から
国産コロナワクチンを巡ってはアンジェスが2020年6月に治験を始めていた。米ファイザーが同年4月下旬に治験を始めたことを考えると、大きく出遅れていたわけではない。ただ、その後、厚生労働省が追加の治験を求めたことで、当初21年春としていた実用化時期はずれ込んでいる。
安全性を重視するのは国として当然の姿勢だ。それでも開発が進まなければ、必要なときに必要な量を提供できない事態になりかねない。その意味で鈴木氏が指摘する海外での大規模治験の支援と、アジアでの開発・承認体制の構築は今後の課題となりそうだ。塩野義製薬や第一三共などを含め、国産ワクチンの実用化を目指す企業は少なくない。国はしっかりと体制整備する時機にきている。(満武里奈)

  • >>1893

    国産ワクチン実現の課題は? 厚労省前医務技監に聞く

    (前半)

    国産ワクチン実現の課題は? 厚労省前医務技監に聞く
    新型コロナ
    2021年3月23日 2:00 [有料会員限定]



    すずき・やすひろ 1984年慶応大医卒、厚生省(現厚生労働省)入省。技術総括審議官、保険局長などを経て2017年7月医務技監。20年8月同省退職。21年3月から国際医療福祉大学副学長。61歳
    新型コロナウイルスの国産ワクチン開発が欧米勢に比べて遅れている。どこに問題があり、開発をどう後押しすべきなのか。厚生労働省の前医務技監で現在は国際医療福祉大学副学長を務める鈴木康裕氏に聞いた。

    ――国産ワクチン開発促進に向けて、どんな公的支援が必要ですか。

    「国が企業に出すワクチン開発の補助金は大別すると『研究開発』と『生産体制』が対象となっている。研究開発中の製品の生産体制を構築するのはリスクもあるが、スピードを重視するため、研究開発と生産体制整備を並走させている」

    「加えて重要な要素は『治験(臨床試験)』だ。発症予防効果を確認するため数万人規模で実施することが必要と考えられている。だが数万人規模の治験を感染者が少ない日本だけで行うのは難しい」

    ――アンジェスや塩野義製薬は海外で治験を行うことを検討しています。

    「海外で治験を行うにはノウハウが必要な上に費用もかかる。患者が多く、しっかりとした審査体制を持つ国で治験を行えるように(日本政府は)支援する必要がある。今後は東南アジア諸国連合(ASEAN)という単位で研究開発して承認するような枠組みの検討も欠かせないだろう」

    「多くのパンデミック(世界的大流行)はアジアから生じているが、発生国の同意がないとウイルスを他国に持ち込めないなどの制約があり研究開発しづらかった。アジアの国同士で連携し、共同で研究開発や承認する枠組みを作ることで、開発スピードも上げられ、コストも減らすことが期待できる。共同の承認については既に欧州連合では同様の取り組みが行われている」