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悲観的な日本の先を妄想するの掲示板

日本経済は「貯蓄があるから大丈夫」...勘違いする人が見落としている「現実」
1/26(水) 12:06配信
ニューズウィーク日本版

<日本の家計や企業が保有する貯蓄の額はたしかに膨大だが、その金を「有効活用」して経済を立て直せば大丈夫などと簡単に考えない方がよい>

家計が保有する金融資産が2000兆円に迫る勢いとなっている。このうち現金・預金は1072兆円と全体の半分を占めており、これは各国と比較すると突出して高い水準である。一部からは、現預金として退蔵されているマネーを有効活用すべきとの声も聞かれるが、現実にマネーが好きに使える状態で余っているわけではない。

日本銀行の資金循環統計によると、2021年9月末時点における家計の金融資産は過去最高の1999兆8000億円だった。株価上昇による有価証券の価値増加に加え、政府が配った給付金の影響から現預金も大幅に増えた。

日本は金融資産に占める預貯金の割合が高いことで知られ、現金に偏っている金融資産が成長にマイナスの影響を与えているとの指摘がある。近年ではコロナ給付金の是非をめぐる議論が盛り上がったこともあり、増加した現預金を成長の原資として活用すべきとの声も大きくなっている。

確かに預貯金の比率が高いと、株式など直接金融に資金が回りにくいといった弊害が生じるが、預貯金をそのまま成長投資に充当するのは物理的に不可能である。なぜなら帳簿には預貯金として計上されていても、実際には銀行の金庫にお金は存在してないからである。

■最終的に資金を吸収しているのは国債

銀行は資金を貸し出して利ざやを得るのが仕事であり、預かった預金をそのまま遊ばせておくことはしない。本来、預金は企業の融資に回されるはずだが、景気低迷が続く日本では企業の資金需要は低い。最終的に余剰となった資金を吸収しているのは国債であり、結局のところ政府が借り入れによって資金を吸い上げ、政府支出という形で国内にお金をバラまいている。

日本は家計に加えて企業も貯蓄過剰となっており、企業と家計が政府部門の資金不足をカバーしている図式だ。

日銀が国債購入に支払ったお金も、資金需要がないため、金融機関が日銀に預ける日銀当座預金に積み上げられている。もし資金需要が存在するのならとっくに日銀当座預金は取り崩されているだろう。

何よりも「景気をよくする」のが先
つまり、日本経済が成長軌道に乗れば、必然的に資金需要が増えるので、お金は自動的に企業の設備投資に回っていく。ニワトリとタマゴの議論に近いが、預金を投資に回せば経済が良くなるというよりも、景気が良くなることで必然的に家計の貯蓄が企業に回ると考えたほうが自然だ。重視すべきなのは預金の活用方法ではなく、経済成長の道筋を確立することである。

経済学の基礎理論の1つである貯蓄投資バランス論では、国内貯蓄は、設備投資と財政収支、経常収支に案分される。今のところ家計と企業の貯蓄超過が政府の資金不足をファイナンスしているが、もし景気が拡大して企業の設備投資意欲が高まれば、政府と企業の両方が資金を必要とするので、国内貯蓄だけでは資金不足になる可能性がある。これは、高齢化と低賃金の進行で貯蓄率が低下し、貯蓄が減った場合にも当てはまるだろう。

日本の財政収支が改善する見込みは薄く、貯蓄投資バランスの式において財政収支は定数として機能している。財政収支が改善しない場合、式をバランスさせるためには、海外からの資金流入を増やす必要が出てくる。良質な資金が獲得できるよう国内金融市場を整備しておくことは重要な課題となってくるかもしれない。

加谷珪一(経済評論家)