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(株)スターフライヤー【9206】の掲示板 2016/01/30〜2016/04/14

松石は入社初日、ちゃめっ気たっぷりに、あいさつして回った。だが、社員の表情は暗く、松石の軽口への反応も薄かった。
 「就航から8年しかたたないのに、どうも、覇気がない…」
松石は、スターフライヤー社員に、“新興”航空会社ならではの熱気を期待していた。だが、社員はよく言えば従順、悪く言えばイエスマンばかりのような雰囲気で、「当事者」としての積極性がなかった。その表情に、松石は見覚えがあった。スカイネットアジア航空(現ソラシドエア)の社員と同じだった。スカイネットは、宮崎市に本拠を置く航空会社として、14年に宮崎-羽田線を開設した。

 だが、知名度の低さから乗客数は伸び悩んだ。使用した中古の機体は故障が相次ぎ、欠航も多かった。
 16年6月、産業再生機構の支援の下、全日空と業務提携して再建を目指すことになった。松石は17年6月、運航管理部門の担当常務に就任した。
スカイネットは同年8月1日、長崎-羽田線の就航を予定していた。そのための機体は、契約しているルーマニアの工場で整備中だった。

 だが、就航まで1カ月半を切っても、肝心の納入時期について、報告が上がってこない。

 「一体、どうなっているんだ?」
 しびれを切らして、部下に聞いても、「大丈夫です。やっていますから心配しないでください」と気楽な返事が返ってきた。

 どこか他人任せな言葉に、嫌な予感が膨らんだ。調べさせると、案の定だった。南国・宮崎らしく「ヤシの木」を使ったロゴマークの塗装さえ、手つかずな状態だった。
8月1日に就航するには、最低でも7月29日までに日本に持ち込み、国土交通省などの認定を受けなければならない。

 派遣会社に手配していた機体を日本まで運ぶパイロットも、いつの間にか連絡が取れなくなった。

 スカイネットの社員は、楽天的な発言から打って変わって、早々にあきらめを口にし始めた。

 松石は声を張り上げた。
「手があるはずだ。ほかからパイロットを見つけられるはずだ。8月1日には必ず就航するんだ。最後までやるぞ!」

 松石は渋る部下を現地に向かわせ、機体整備やパイロット手配などに当たらせた。
締め切りギリギリの7月29日夕。長崎で就航記念パーティーが開かれた。松石は胸中の不安を押し殺しながら、出席した。
そこに、機体が、到着したとの連絡が入った。心底ホッとした。8月1日、第1便が予定通り飛び立った。

 この一件をきっかけに、社員の目つきが変わった。前向きな姿勢を示し始めた。すると業績も回復基調に向かう。松石が副社長時代の20年3月期に黒字を達成した。

 「企業は、やはり社員だ。社員が生き生きと働いて、やりがいを感じる環境こそ大事なんだ。スターフライヤーでも、社員が働きやすい環境を整えよう。まずは明るく行こう」
松石はこう考えた。人前でしゃべるのは苦手でシャイな性格だが、靴磨きのイベントでも、あえて人前に出て、明るい社長像を演じた。


 そんな松石を、全日空からの出向組で取締役執行役員の柴田隆(59)が支えた。

 2人は誰よりも早く出社し、人気のないオフィスで、スターフライヤーの将来について話し込んだ。

 「次の新機体導入は当面先です。今は会社の体を丸める時期です。その間、人材育成に力を入れて、社員が元気よく働ける企業にしましょう」

 全日空で財務畑が長かった柴田は、経営企画本部長として、平成32(2020)年度までの経営戦略の構築を担った。27、28年度は「地盤づくり」と位置づけた。飛び立つ「飛翔期間」は29年度以降だ。

 「会社に長期計画はあるが、社員にとって、自分の働きがどう貢献するのか分かりにくいな」

 柴田は数人規模のミーティングを繰り返し、個々人の役割を徹底させた。

 人材育成の必要性は、松石も痛感していた。

 業績悪化によってスターフライヤーは事実上、全日空の傘下に入った。

 だが、松石はスターフライヤー社員に、自立心を植え付けようと考えた。特に企画力の育成を重視した。

 26年秋、松石は翌年1月1日の「初日の出フライト」を、これまでの代理店ではなく、社員が直接企画するよう命じた。指示した条件はただ一つ。利用者を「無料招待」することだけだった。

 命じられた22人のチームでは、反発するメンバーも多かった。

 「お金を払ってもらえれば、よりきめ細かなサービスをして喜んでもらえるのに…」「事業費150万円作るのに、どれだけ苦労するか」

 メンバーは週に1度、ミーティングを開き、イベントの中身や、経費の捻出のアイデアを出し合った。

 「自分たちスターフライヤーの社員が思っている感謝を、乗客に形にして伝えよう」

 ミーティングを重ねるごとに、そんな思いが募り始めた。