ここから本文です
Yahoo!ファイナンス
投稿一覧に戻る

ガンホー・オンライン・エンターテイメント(株)【3765】の掲示板 2018/04/07〜2018/04/24

願宝堂別館 怪談小話 第78話
「もってけ森」

与作は森の夜道に迷い込んでいた
この辺りは夜な夜な妖怪が出るという話を聞いていたので
とにかく先を急ぐことにしたのだが、一向に森から出られない
途中で灯りの油も切れてついには真っ暗闇の道を歩くことになった
と、遠くにポツンと明かりが見えた
ありがたい、今夜はあの家に泊めてもらおう
近づくと人が住んでいるとは思えない廃屋寸前の家だった
「すみません。森に迷ってしまって。今晩一晩泊めていただけませんか」

中から出てきたのは与作よりも二回りは体の大きな婆で
与作はもしやこれが山に住むという噂の山姥ではないかとも思ったが
婆は柔和な笑みを浮かべながら
「さぞお困りでしょう。こんなあばら家でよかったら泊まって行きなされ」
と言うので与作も少しばかり安心して厄介になることにした
心ばかりの食事をごちそうになると婆の小さな部屋を借りて眠ることにした

どれほど時間がたっただろうか
ふと目を覚ますと居間にいる婆が何やらぶつぶつと言うのが聞こえてきた
戸の隙間からそっと覗くと婆が大きなカメの中に何か詰めているのが見える
何を入れているのかよく確かめるために戸の隙間をもう少し広げようとしたその時
突然婆がこちらを振り返り、恐ろしい形相で言った
「みーたーなー」
与作は婆の脇を転がるようにすり抜けると戸を思い切り蹴破り外へ飛び出した
そして山道をもと来た方角へ一目散に逃げだした
ところが頭のすぐ後ろから婆の声が迫ってくる
「もーってけー」
逃げるのに精いっぱいで振り返る余裕もない
するといきなり背中にどんと重い響きと衝撃を受けたかと思うと婆につまみ上げられ
大きなカメの中に押し込められた
与作を蓋代わりにした大カメはぐるぐると勢いよく回転しながら山道を転げ落ちて行った

さて夜が明けた「波図銅鑼の森」では森の妖怪たちが大騒ぎしていた
巨大な酒樽の四百の目盛りまで詰まっていたはずの雁砲株が三百五十の目盛りまで減っていたのだ
誰かが盗んだに違いないとお互いがお互いを疑心暗鬼の目で見つめるなか
一人山姥だけがほくそ笑んでいた

まったく、貯めるばかりが能じゃないわい
雁砲株も値段が高いうちに街の市場で換金して次に向かうのが得策じゃ
次はそうじゃな、いい塩梅になってきた「暁の森」にでも行ってみるとするか・・・