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金融崩壊の掲示板

>>83

人権侵害・習近平の中国はG7でとうとう自由世界の公敵に認定された

G7の「NO」

 6月13日に閉幕した先進7カ国首脳会議(G7サミット)と14日開催の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の両方において、中国という国は図らずとも不在の主役となった。

 まずはG7サミットにおいて、「中国問題」は議論の中心の1つとなり、いかにして「中国問題」に対処していくのかは各国首脳の共通した関心事となった。

 会議の中では、問題への対処法について各国の考え方には色々と温度差があったものの、共同の意思として採択された首脳宣言は、中国の脅威に晒されている台湾問題に触れ、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記した。それは当然、G7サミット史上初めてのことである。

 首脳宣言はまた、中国新疆ウイグル自治区でのウイグル人に対する人権侵害について中国に「人権や基本的自由」を尊重するよう求め、香港に関しては「自由と高度な自治」を尊重するよう求めた。また、東シナ海と南シナ海の情勢への懸念を表明し「緊張を高めるいかなる一方的な試みにも強く反対する」とした。

 こうしてG7は、中国のウイグル人や香港に対する人権侵害や自由の剥奪、そして中国の台湾と南シナ海・東シナ海に対する軍事的脅威と拡張など、中国が起している深刻な国際問題と国内問題を一々取り上げて、北京の横暴なやり方に対して「No」を突き付け、対決の姿勢を明確にしたのである。

ヨーロッパのNATOまでが
 そして14日に開かれたNATO首脳会議でも、「中国問題」が大きな議題の1つとなった。発表された公式声明は「中国の野心と自己主張の強い行動は、ルールに基づく国際秩序と同盟の安全保障への体制上の挑戦だ」と明記した。もちろん、NATO首脳会議の公式声明が中国を名指して非難し、それを「体制上の挑戦」だと位置付けたのは初めてのことである。

 首脳会議はさらに、中国を「巨大な脅威」と位置づけた政策文書「NATO2030」を承認した。NATOはこれから、今後10年間の行動指針となる新たな「戦略概念」の改定に乗り出し、中国対策を初めて盛り込む見通しとなった。

 こうして世界トップクラスの民主主義先進国の集まりであるG7サミットと、同じ民主主義世界の中核国家からなる米欧軍事同盟のNATOは対中国で歩調を合わせた。両機構が中国という国を共同に対処すべき問題の中心にもっときて、中国による人権侵害と秩序の破壊に真正面から対抗していく姿勢を示したのは、まさに画期的な出来事である。

 その意味するところはすなわち、人権問題と世界の安全保障問題の2つの領域においては、中国こそが最大の問題児となって民主主義自由世界の「公敵」となったこと、そしてこの2つの領域における自由世界VS中国の戦いはすでに火蓋が落とされたこと。われわれの住む世界はすでに、この2つの領域における対立構図を基軸とした新冷戦の時代に突入した、ということである。

戦いは2020年10月から始まった
 新冷戦への突入は当然、今になって始まったことではない。2020年10月以来の「中国」をめぐる世界各国の一連の動きを一度振り返ってみれば、自由世界VS中国の戦いは時代の趨勢であることがよく分かってくる。

 ここではまず、去年10月以来の「人権問題」を巡っての一連の対中国の動きを時間順で見てみよう。

 まずは2020年10月6日、ニューヨークで開かれた国連総会第3委員会(人権権)の会合では、ドイツのホイスゲン国連大使が日米英仏を含む39ヵ国を代表して中国の人権問題を批判する声明を発表した。

 声明は新疆における人権侵害の問題として、宗教に対する厳しい制限、広範な非人道的な監視システム、強制労働、非自発的な不妊手術を取り上げた。声明はまた、7月に中国共産党政権が香港で国家安全維持法を施行後、政治的抑圧が強まっていることについても非難した。

 この声明に賛同した国々は上述の日米英仏以外に、イタリアやカナダ、そしてオーストラリアやニュージーランドなどが名を連ねている。G7のメンバー国の全員、そしてEUの加盟国の大半がその中に入っている。つまり、少なくとも人権問題に関しては、世界の先進国全体は一致団結して中国に対する批判の立場をとり、そして中国と対立することになった。

 この年の11月18日、今度はイギリス、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、カナダの5ヵ国外相は、中国が香港での批判的な声を封じ込めるために組織的活動を行い、国際的な義務に違反していると非難する共同声明を発表した。それに対し、中国外務省の趙立堅報道官は19日、「(5ヵ国は)気をつけないと、目玉を引き抜かれるだろう」と、外交儀礼上では普段あり得ないような暴言までを吐いて上述の5ヵ国を批判した。香港人の言論の自由を含めた広い意味での人権問題をめぐって、西側諸国と中国との対立はさらに深まった。

 年が改まって2021年になると、1月19日には世界注目の重大な動きがあった。退陣直前のトランプ政権のポンペオ米国務長官は声明を発表し、新疆自治区のウィグル人やその他の少数民族に対する中国政府の弾圧をジェノサイド(民族大量虐殺)と認定した。翌日に誕生したバイデン政権も、前政権のジェノサイド認定をそのまま受け継いだ。

 自由世界のリーダーである米国政府によるこのジェノサイド認定の意味は極めて大きい。ジェノサイドという行為が人権に対する最大級の犯罪であるのは自明のことであるが、アメリカ政府はこの認定を持って実質上、中国という国を「人権の敵」だと認定し、そして犯罪国家として認定したのに等しい。

拡がるウイグル問題ジェノサイド認定
 米国政府によるジェノサイド認定はさらに、1つの国際的流れを作り出した。2月22日、カナダ下院は中国政府のウイグル人迫害をジェノサイド として認定し非難する動議を可決したのに続いて、2月26日にはオランダ議会、4月22日にはイギリス下院は同じような「ジェノサイド認定と非難」の動議を採択した。

 これで中国は、西側の4つの国の政府と議会から「ジェノサイドの犯罪国家」として認定されるに至ったのであるが、このような動きは今後、西側の自由世界においてさらに広がることも予想できよう。

 中国政府のウイグル人弾圧をジェノサイドだと認定した以上、西側諸国は当然、それを制止するための何らかの行動をとらなければならない。果たして3月22日、アメリカ、欧州連合(EU)、イギリス、カナダは一斉に対中国制裁を発動した。

 制裁発動の先陣を切ったのはEUである。中国の当局者ら4人と、ウイグル人たちの「収容施設」を管理する公安当局の組織を対象に、EU域内の資産凍結やEUへの渡航を禁じる措置を発動。EUが中国に制裁を加えたのは、その前身組織の時代を含めて約30年ぶりのことであるが、歴史や伝統も違えば、中国との関係性がそれぞれ異なっている27の加盟国が対中国制裁で足並みを揃えたことは大いに注目すべきであろう。時代の流れを大きく感じさせたEUの団結である。

 そしてEUの制裁発動と同じ日に、アメリカ、イギリス、カナダは、EUの制裁措置とはほぼ同じ内容の対中国制裁を発動した。3ヵ国は共同声明も発表し、「我々は結束して、ウイグル人など少数民族への抑圧をすぐに停止するよう中国政府に要求する」と表明した。

修復不能
 このようにして、欧州と北米が事前に申し合わせたかのように、同じ日において対中国制裁に一斉に踏み切った。このような光景はまさに壮観であって、そして画期的であった。2020年10月に国連の第三委員会にてドイツ国連大使が39ヵ国を代表して中国の人権抑圧を批判したことから始まった一連の動きは徐々に1つの大きな流れとなって上述の対中国制裁の一斉発動につながった。

 そしてここで明確になった、1つたいへん重要なことはすなわち、普遍的な価値観を共有する自由世界の西側諸国は今や一致団結して、中国政府による人権侵害・民族弾圧に立ち向かってそれ「NO」を突きつけたことである。

 しかしその一方の中国は、西側諸国からの批判と制裁に猛反発して西側からの人権弾圧停止の要求を完全にはねつけただけでなく、西側諸国に対する報復の制裁措置も発動した。

 ここまできたら、「人権問題」を巡っての西側と中国との対立はもはや修復不可能な決定的なものとなった。基本的人権と自由を死守するという立場からすれば、西側諸国はこの問題で中国政府の蛮行を容認することは絶対できないし、中国と妥協する余地もない。

 その一方、全体主義国家の中国は一党独裁体制維持のためには国内での人権抑圧をやめることは100%ないし、この問題で西側に譲歩することもありえない。人権問題を巡っての自由世界の西側諸国と、全体主義の中国との対立と戦いは、まさに妥協する余地のない「価値観の戦い」として長期間において展開されていくのであろう。

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中国との対立点は人権だけではない。日本の存立にとって最重要な「海洋の自由」をめぐる同盟深化が並行して進んでいる。 ☞ 後編「世界対中国、自由と抑圧の最後の決戦の前線に日本は立っている」を読む
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石 平(評論家)