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金融崩壊の掲示板

世界対中国、自由と抑圧の最後の決戦の前線に日本は立っている

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米国の「ウイグル問題」ジェノサイド認定以来、G7までに自由世界は中国に対する一致団結を見た。そしてほぼ同じ時期、並行して、海洋の自由をめぐる、もう1つの対中国包囲網が深化していった。前編「人権侵害・習近平の中国はG7でとうとう自由世界の公敵に認定された」を読む
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変貌する日本の立ち位置

 以上は、去年10月6日から展開されてきている中国の人権侵害に対する自由世界の戦いの軌跡であるが、実は、同じ去年10月6日(東京時間)において、もう1つ重要な意味を持つ動きがあった。その日、日米豪印の4ヵ国の外相は東京に集まり、第2回目の4ヵ国外相会議を開いた。

 会議の中心テーマはや「自由で開かれたインド太平洋の実現」である。上述の4ヵ国外相は海洋進出を進める中国を念頭に、日本が提唱している「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進し、より多くの国々へ連携を広げていくことが重要だとの認識で一致した。

 後に「クワッド」だと呼ばれる4ヵ国連携はこれで形が出来上がっているが、連携の目的は当然、インド太平洋の自由と秩序を脅かしている中国の封じ込めであろう。

 この動きに対し、中国の王毅外相は10月13日、外遊先のマレーシアの記者会見で上述の「日米豪印外相会議」に触れて、「インド太平洋版の新たなNATO(北大西洋条約機構)の構築を企てている」と警戒心を露わにしているが、彼の言っていることは実に正しい。

 NATOの創設した当時の目的は旧ソ連の脅威から欧州の民主主義陣営を守ることにあるのと同様、日米豪印4ヵ国連携の戦略的意図はまさに対中国、「敵は北京にあり」なのである。

 その後、アメリカのバイデン政権が成立してからは、バイデン大統領の主導下でオンラインによる日米豪印4ヵ国の首脳会議も開催され、中国を標的にした4ヵ国連携はより強固なものとなった。

「日米同盟」の変化
 そして2021年3月、日米同盟の進化を意味する重要な動きが日米間にあった。3月16日、日米両政府は、外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)を東京都内で開いた。

 会談後に発表した共同文書は、中国を名指しして「既存の国際秩序と合致しない行動は日米同盟、国際社会に課題を提起している」と批判した。

 中国の覇権主義的行動を日米同盟の「課題」だと認定したことの意味は非常に大きい。日米同盟は当初、旧ソ連の脅威から日本と極東の安全を守るために形成された軍事同盟であったが、旧ソ連が崩壊した後、日米同盟は一体何のための同盟であるかについての位置づけは長い間に不明なままである。

 しかし、中国を名指して「課題」だと規定した前述の共同声明によって、日米同盟は大きな進化を成し遂げて新たな使命をえた。そう、中国の拡張から日本とアジアの平和を守ることこそは、新時代における日米同盟の存在意義であって任務となった。「対ソ連」の日米同盟はこれで、「対中国」の日米同盟に変身した。

 そしてその1ヵ月後の4月17日に開かれた日米首脳会談でも画期的な変化が起きた。会談後に発表された日米共同声明は約半世紀ぶりに台湾に言及し、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記した。

 つまり日米同盟は日本を守るための同盟からその守備範囲をさらに拡大して、日本周辺を含めた広範な地域において中国と対抗し、中国を封じ込めるための強力な軍事同盟となった。

英仏独の東アジア復帰
 さらに注目すべきなのは、2021年に入ってから、NATOの加盟国でもある主要先進国のフランスとイギリスとドイツは、日米による中国封じ込めに加わってきたことである。

 2021年5月、仏海軍の艦隊ジャンヌ・ダルクが佐世保港(長崎県)に寄港したのに伴って、日本の陸上自衛隊とフランス陸軍、米海兵隊との共同訓練が行われて、5月15日には訓練の様子の一部が公開された。

 共同訓練は宮崎県と鹿児島県にまたがる霧島演習場で行っている離島への着上陸と市街地戦闘などを想定したもので、日本国内で日米仏の陸上部隊が本格的な実動訓練をするのは初めてである。そして5月16日の産経新聞記事によると、今後、こうした共同訓練は定例化される方向となって、フランス艦が寄稿するたびに行われるという。

 日本の海で「離島防備」を想定した上述の軍事訓練はどう考えても、尖閣有事や台湾海峡有事に備えたものであろう。フランス軍がこのような軍事訓練に加わったことは、要するにいざとなるときに、日米同盟と肩を並べて某国の軍事侵攻に対抗して戦おうとすることの意志表明であるに他ならない。日米同盟はあたかも、日米仏同盟となっているかの様相である。

 そしてフランス海軍に続いて、イギリス海軍も動き出した。5月22日、英最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群が22日、極東に向けて南部ポーツマスの母港から出航した。

 打撃群はまず地中海からインド洋を航行し、シンガポールやインドなどにも寄港する。その後、南シナ海を通ってフィリピン海へと向かうが、航行期間は約7ヵ月となるという。途中では日本にも寄稿してきて、イギリス政府が「戦略的パートナー国」だと位置付ける日本との連携を示し、自衛隊との共同訓練を実施する予定である。

 イギリス海軍の空母打撃群がはるばる地球の反対側の海にやってきて、東シナ海と南シナ海を含めた「インド太平洋」を航海し軍事力を誇示する。その戦略的意図は誰から見ても、これらの海域を脅かしている中国への牽制であるに違いないが、かつては世界中の海を支配した海軍強国のイギリスは、海からの中国包囲網に加わることになったわけである。

 実は去年12月、ドイツ国防相も日本側に対し、2021年において独連邦軍のフリゲート艦1隻をインド太平洋に派遣してきて、日本の海上自衛隊との共同訓練を実施する方針を示したから、それが実現すれば、 海からの中国包囲網には西側先進国のもう1つの主要国が馳せ参じてくることとなろう。

 そして本論考の冒頭から記したように、今年6月になると、自由世界を代表する上述の国々とアメリカが構成する軍事同盟のNATOは、中国の行動を「体制上の挑戦」だと位置付けた上で、今後10年の対中国軍事戦略の策定に着手することとなっている。「西」の軍事同盟NATOはこうして「東」の日米軍事同盟と連携する形で、中国のあらゆる軍事的拡張と妄動を封じ込めることとなっているのである。

人類史上最後の戦い
 以上では、2020年10月から2021年6月までの9ヵ月間、中国問題を巡って西側主要国で展開されている一連の重要かつ活発な動きを追跡したが、われわれの住む地球では今、1つ大きな対立構図が出来上がっていることは明明白白である。

 人権侵害と平和的秩序の破壊の両面において自由世界の「公敵」となった中国に対し、自由世界を代表する西側主要国は一致団結して、まさに人権を守るためと平和を守るためという2つの戦線において中国との戦いを展開し始めている。そしてその意味するところはすなわち、自由世界vs中国の新冷戦の幕開けである。

 アメリカを中心とした西側陣営対ソ連を中心とした社会主義陣営の冷戦が、ベルリンの壁の崩壊とソ連の解体をもって終焉したのは今から三十数年前のことだが、この三十数年間、中国という「新興帝国」は経済と軍事の両面に力をつけて台頭してきて、自由世界の信奉する自由と人権などの普遍的価値観とに対して挑戦状を叩きつけてきて、そしてインド太平洋の平和的秩序を根底から脅かすこととなった。

 そういう意味では、自由世界vs中国の新冷戦の始まりは歴史の必然であると同時に、自由世界にとっての逃れない運命でもあろう。

 そして、今後におけるこの新冷戦の結果によっては、世界全体の未来が決定されることとなろう。未来の世界は、自由で開かれた世界となるのか、全体主義によって抑圧される世界になるのか、人類の歴史上の「最後の戦い」は今、始まろうとしているのである。

石 平(評論家)

  • >>83

    7月に世界最大の海軍の軍事演習がある。対中国包囲網はほぼ完成している。

  • >>83

    人権侵害・習近平の中国はG7でとうとう自由世界の公敵に認定された

    G7の「NO」

     6月13日に閉幕した先進7カ国首脳会議(G7サミット)と14日開催の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の両方において、中国という国は図らずとも不在の主役となった。

     まずはG7サミットにおいて、「中国問題」は議論の中心の1つとなり、いかにして「中国問題」に対処していくのかは各国首脳の共通した関心事となった。

     会議の中では、問題への対処法について各国の考え方には色々と温度差があったものの、共同の意思として採択された首脳宣言は、中国の脅威に晒されている台湾問題に触れ、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記した。それは当然、G7サミット史上初めてのことである。

     首脳宣言はまた、中国新疆ウイグル自治区でのウイグル人に対する人権侵害について中国に「人権や基本的自由」を尊重するよう求め、香港に関しては「自由と高度な自治」を尊重するよう求めた。また、東シナ海と南シナ海の情勢への懸念を表明し「緊張を高めるいかなる一方的な試みにも強く反対する」とした。

     こうしてG7は、中国のウイグル人や香港に対する人権侵害や自由の剥奪、そして中国の台湾と南シナ海・東シナ海に対する軍事的脅威と拡張など、中国が起している深刻な国際問題と国内問題を一々取り上げて、北京の横暴なやり方に対して「No」を突き付け、対決の姿勢を明確にしたのである。

    ヨーロッパのNATOまでが
     そして14日に開かれたNATO首脳会議でも、「中国問題」が大きな議題の1つとなった。発表された公式声明は「中国の野心と自己主張の強い行動は、ルールに基づく国際秩序と同盟の安全保障への体制上の挑戦だ」と明記した。もちろん、NATO首脳会議の公式声明が中国を名指して非難し、それを「体制上の挑戦」だと位置付けたのは初めてのことである。

     首脳会議はさらに、中国を「巨大な脅威」と位置づけた政策文書「NATO2030」を承認した。NATOはこれから、今後10年間の行動指針となる新たな「戦略概念」の改定に乗り出し、中国対策を初めて盛り込む見通しとなった。

     こうして世界トップクラスの民主主義先進国の集まりであるG7サミットと、同じ民主主義世界の中核国家からなる米欧軍事同盟のNATOは対中国で歩調を合わせた。両機構が中国という国を共同に対処すべき問題の中心にもっときて、中国による人権侵害と秩序の破壊に真正面から対抗していく姿勢を示したのは、まさに画期的な出来事である。

     その意味するところはすなわち、人権問題と世界の安全保障問題の2つの領域においては、中国こそが最大の問題児となって民主主義自由世界の「公敵」となったこと、そしてこの2つの領域における自由世界VS中国の戦いはすでに火蓋が落とされたこと。われわれの住む世界はすでに、この2つの領域における対立構図を基軸とした新冷戦の時代に突入した、ということである。

    戦いは2020年10月から始まった
     新冷戦への突入は当然、今になって始まったことではない。2020年10月以来の「中国」をめぐる世界各国の一連の動きを一度振り返ってみれば、自由世界VS中国の戦いは時代の趨勢であることがよく分かってくる。

     ここではまず、去年10月以来の「人権問題」を巡っての一連の対中国の動きを時間順で見てみよう。

     まずは2020年10月6日、ニューヨークで開かれた国連総会第3委員会(人権権)の会合では、ドイツのホイスゲン国連大使が日米英仏を含む39ヵ国を代表して中国の人権問題を批判する声明を発表した。

     声明は新疆における人権侵害の問題として、宗教に対する厳しい制限、広範な非人道的な監視システム、強制労働、非自発的な不妊手術を取り上げた。声明はまた、7月に中国共産党政権が香港で国家安全維持法を施行後、政治的抑圧が強まっていることについても非難した。

     この声明に賛同した国々は上述の日米英仏以外に、イタリアやカナダ、そしてオーストラリアやニュージーランドなどが名を連ねている。G7のメンバー国の全員、そしてEUの加盟国の大半がその中に入っている。つまり、少なくとも人権問題に関しては、世界の先進国全体は一致団結して中国に対する批判の立場をとり、そして中国と対立することになった。

     この年の11月18日、今度はイギリス、アメリカ、ニュージーランド、オーストラリア、カナダの5ヵ国外相は、中国が香港での批判的な声を封じ込めるために組織的活動を行い、国際的な義務に違反していると非難する共同声明を発表した。それに対し、中国外務省の趙立堅報道官は19日、「(5ヵ国は)気をつけないと、目玉を引き抜かれるだろう」と、外交儀礼上では普段あり得ないような暴言までを吐いて上述の5ヵ国を批判した。香港人の言論の自由を含めた広い意味での人権問題をめぐって、西側諸国と中国との対立はさらに深まった。

     年が改まって2021年になると、1月19日には世界注目の重大な動きがあった。退陣直前のトランプ政権のポンペオ米国務長官は声明を発表し、新疆自治区のウィグル人やその他の少数民族に対する中国政府の弾圧をジェノサイド(民族大量虐殺)と認定した。翌日に誕生したバイデン政権も、前政権のジェノサイド認定をそのまま受け継いだ。

     自由世界のリーダーである米国政府によるこのジェノサイド認定の意味は極めて大きい。ジェノサイドという行為が人権に対する最大級の犯罪であるのは自明のことであるが、アメリカ政府はこの認定を持って実質上、中国という国を「人権の敵」だと認定し、そして犯罪国家として認定したのに等しい。

    拡がるウイグル問題ジェノサイド認定
     米国政府によるジェノサイド認定はさらに、1つの国際的流れを作り出した。2月22日、カナダ下院は中国政府のウイグル人迫害をジェノサイド として認定し非難する動議を可決したのに続いて、2月26日にはオランダ議会、4月22日にはイギリス下院は同じような「ジェノサイド認定と非難」の動議を採択した。

     これで中国は、西側の4つの国の政府と議会から「ジェノサイドの犯罪国家」として認定されるに至ったのであるが、このような動きは今後、西側の自由世界においてさらに広がることも予想できよう。

     中国政府のウイグル人弾圧をジェノサイドだと認定した以上、西側諸国は当然、それを制止するための何らかの行動をとらなければならない。果たして3月22日、アメリカ、欧州連合(EU)、イギリス、カナダは一斉に対中国制裁を発動した。

     制裁発動の先陣を切ったのはEUである。中国の当局者ら4人と、ウイグル人たちの「収容施設」を管理する公安当局の組織を対象に、EU域内の資産凍結やEUへの渡航を禁じる措置を発動。EUが中国に制裁を加えたのは、その前身組織の時代を含めて約30年ぶりのことであるが、歴史や伝統も違えば、中国との関係性がそれぞれ異なっている27の加盟国が対中国制裁で足並みを揃えたことは大いに注目すべきであろう。時代の流れを大きく感じさせたEUの団結である。

     そしてEUの制裁発動と同じ日に、アメリカ、イギリス、カナダは、EUの制裁措置とはほぼ同じ内容の対中国制裁を発動した。3ヵ国は共同声明も発表し、「我々は結束して、ウイグル人など少数民族への抑圧をすぐに停止するよう中国政府に要求する」と表明した。

    修復不能
     このようにして、欧州と北米が事前に申し合わせたかのように、同じ日において対中国制裁に一斉に踏み切った。このような光景はまさに壮観であって、そして画期的であった。2020年10月に国連の第三委員会にてドイツ国連大使が39ヵ国を代表して中国の人権抑圧を批判したことから始まった一連の動きは徐々に1つの大きな流れとなって上述の対中国制裁の一斉発動につながった。

     そしてここで明確になった、1つたいへん重要なことはすなわち、普遍的な価値観を共有する自由世界の西側諸国は今や一致団結して、中国政府による人権侵害・民族弾圧に立ち向かってそれ「NO」を突きつけたことである。

     しかしその一方の中国は、西側諸国からの批判と制裁に猛反発して西側からの人権弾圧停止の要求を完全にはねつけただけでなく、西側諸国に対する報復の制裁措置も発動した。

     ここまできたら、「人権問題」を巡っての西側と中国との対立はもはや修復不可能な決定的なものとなった。基本的人権と自由を死守するという立場からすれば、西側諸国はこの問題で中国政府の蛮行を容認することは絶対できないし、中国と妥協する余地もない。

     その一方、全体主義国家の中国は一党独裁体制維持のためには国内での人権抑圧をやめることは100%ないし、この問題で西側に譲歩することもありえない。人権問題を巡っての自由世界の西側諸国と、全体主義の中国との対立と戦いは、まさに妥協する余地のない「価値観の戦い」として長期間において展開されていくのであろう。

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    中国との対立点は人権だけではない。日本の存立にとって最重要な「海洋の自由」をめぐる同盟深化が並行して進んでいる。 ☞ 後編「世界対中国、自由と抑圧の最後の決戦の前線に日本は立っている」を読む
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    石 平(評論家)

  • >>83

    「米国は病気」と罵りつつ、周庭さんは釈放…ついにG7を敵に回した習近平政権の行き詰まり

    ■G7首脳宣言が初めて「台湾問題」に言及

     6月13日午後(日本時間同日夜)、イギリス南西部の保養地コーンウォールで開かれていた先進7カ国首脳会議(G7サミット)が3日間の日程を終え、首脳宣言を採択して閉幕した。

     今回のG7の大きな目的は、国際社会が協力して覇権主義的かつ専制主義的な姿勢を強める一党独裁の中国・習近平(シー・チンピン)政権を抑え込むことにあった。首脳宣言は中国を意識し、民主主義と自由主義の考え方に基づき、「すべての人々のためのよりよい回復」が約束された。

     首脳宣言では、中国が台湾に軍事圧力を強めていることを批判し、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強く求め、両岸問題の平和的な解決を促す」と盛り込まれた。首脳宣言で台湾問題に言及したのは今回が初めてである。

     G7各国が一致団結して中国の脅威に立ち向かう姿勢を示す絶好のチャンスだ。民主主義の国々が習近平政権に圧力をかけ、世界の平和と安全を維持することが肝要である。

    ■習近平氏は国家主席から最高ポストの「党主席」に就きたい

     中国は軍事力を背景に、東シナ海や南シナ海のサンゴ礁の島々を埋め立て、軍事要塞化を進めている。日本古来の領土である沖縄県の尖閣諸島周辺の海域では、中国海警船が侵入を繰り返して、日本の漁船を追い回している。こうした中国の横暴についても首脳宣言では「深く懸念する」と憂慮の意を示した。

     軍事的な脅しを受け続ける台湾、ジェノサイド(集団殺害)が国際問題になっている新疆(しんきょう)ウイグル自治区、民主派が暴力と悪法で強制的に排除された香港。中国は台湾、ウイグル、香港を絶対に譲れない「核心的利益」、他国の口出しを認めない「内政問題」と強調するが、首脳宣言は基本的人権を踏みにじる行為として糾弾した。

     さらには中国の巨大経済圏構想の「一帯一路」に対抗するため、途上国向けのインフラ(社会基盤)の整備支援を先進7カ国で強化していくことも宣言された。

     それにしても習近平政権は世界の平和と安定をどう考えているのか。世界平和を犠牲にして中国共産党が繁栄することを願っているとしか思えない。習近平氏本人は国家主席から毛沢東以来の「党主席」へと上り詰めたいのである。そのためにこれまで中国内部の対立勢力を徹底的に潰し、習近平氏に逆らう者を排除した。だが、すべてが習近平氏の思惑通りにいくとは限らない。

    ■「アメリカは病気だ。その病気は軽くない」と中国報道官

     中国政府はG7の首脳宣言に強く反発している。中国外務省の趙立堅報道官は6月15日の記者会見で「中国を中傷し、内政に干渉するものだ。アメリカなど少数の国が対立と溝をつくり、隔たりと矛盾を拡大させようという下心を露呈させている。中国は強烈な不満と断固たる反対を表明する」と述べた。

     さらにアメリカに対しては「アメリカは病気だ。その病気は軽くない。G7はアメリカの脈を測り、処方箋を出すべきだ」と強く非難した。

     反発はこうした声明だけではない。台湾国防部によると、15日に中国軍の戦闘機や爆撃機など計28機が、台湾南西部に位置する防空識別圏に入った。進入が常態化した昨年来、1日に入った機数としては最も多い。台湾に対する脅しであり、首脳宣言が台湾に言及したことに対する軍事行動である。中国政府は国際社会を馬鹿にしている。

    ■なぜG7開催中に周庭さんを出所させたのか

     奇しくもG7開催中の6月12日、2019年6月の無許可の抗議デモの集会を扇動したなどの罪で服役していた香港の女性民主活動家の周庭氏(24)が出所した。

     昨年12月に禁錮10月の実刑判決を言い渡されて服役中だったが、今回、模範囚と認められて刑期が短縮されたという。

     その背景には中国政府の思惑があるのではないか。G7開催中に出所させることで、表立った批判をかわそうとしている。中国政府としては先進7カ国などの国際社会と決定的に対立するわけにはいかない。アメとムチを使い分けているのだ。中国としては貿易に支障が出れば、経済が成り立たなくなり、国自体を維持できなくなる。習近平政権を制御するには、このあたりをうまく突くべきだろう。

     ところで、テレビのニュースで出所する周氏を見た。集まった報道陣には何も答えず、終始無言だったが、強い視線は何かを訴えているようだった。白い大きなマスクを掛けていても分かるほど、ほほがやせこけ、それが服役の過酷さを物語っていた。民主活動をしないように厳しい洗脳教育を受け、精神と肉体が限界に来ていただろう。

     この日の夕方、周氏は自身のインスタグラムに真っ黒な画像を投稿し、「苦しみの半年と20日が終わりました。やせて体が弱くなってしまったので、十分に休みたいです」と書き込んだ。

     沙鴎一歩はこれまで周氏にエールを送る記事を度々書いてきた。今後は、できる限り早く、自由と民主主義が守られる国に亡命したほうがいいだろう。その国で世界の民主活動家らとともに香港の自由と民主主義を取り戻す運動を続けてほしい、と思う。

    ■専制主義の中国やロシアへの対抗軸となることを鮮明に

     6月15日付の産経新聞の社説(主張)は大きな1本社説の扱いで、「G7サミット 中国抑止へ行動の時だ 民主主義陣営の結束示した」との見出しを掲げ、こう書き出している。

     「自由や民主主義、法の支配といった普遍的価値観を共有するG7が、専制主義の中国やロシアへの対抗軸となることを鮮明にした」
    「日本や世界の自由と民主主義、平和、繁栄を守ることにつながる。高く評価したい」

     見出しも書き出しも、概ね理解できる。

     産経社説は台湾問題などを取り上げた後、「(G7は)新型コロナウイルス対策では中国の『ワクチン外交』を意識し、ワクチンの10億回分供与相当の途上国支援を決めた。ウイルスの起源についての調査を中国などで改めて実施することも世界保健機関(WHO)に求めた。どちらも極めて重要である」と指摘し、次のように主張する。

    ■中国の腹の底にある「債務のわな」という思惑

     「自らに都合の悪い事実を隠蔽するのは、中国政府の常套手段である。ウイグル人の強制収容所の実態も明かされない。世界の人々の生命と健康、人権を守るため、これらの徹底解明が必要だ」

     隠蔽体質は中国の根本的問題である。日本と欧米各国はその体質の弊害を中国に理解させるべきだ。

     さらに産経社説は「中国の在英大使館は『少数の国が操るべきではない』とし、G7サミットに反発した。だが『債務のわな』で、途上国をがんじがらめにして影響下に置こうとしているのは中国である」とも指摘する。

     「債務のわな」。途上国にワクチンなどの支援をする裏で政治的経済的に支配下に置き、その国から富をかすめ取ろうと企む。なるほど、これも中国の腹の底にある大きな思惑である。

    ■メルケル独首相は米中「新冷戦」を懸念

     「G7の対中国政策 世界の分断招かぬように」との見出しを立てるのは、6月15日付の毎日新聞の社説だ。

     その毎日社説は中盤で「しかし、長時間の議論では、G7内の温度差も鮮明になった」「中国を強い表現で非難するよう主張した米国に英国とカナダが同調し、ドイツ、フランス、イタリアが慎重な姿勢で足並みをそろえた。日本は『深い懸念』を表明し、G7の連携を促した」と指摘したうえで、こう解説する。

     「耳を傾けたいのは、メルケル独首相の主張だ。国際ルールの重要性を指摘する一方、協調にも配慮したアプローチが必要だと訴えたという」
    「メルケル氏の念頭にあるのは米中『新冷戦』への懸念だろう。『世界を再び二つの陣営に分けるべきではない』というのが持論だ」
    「冷戦時代にドイツは米ソ対立の最前線に置かれた。緊張にさらされ続けた国のリーダーならではの調和を求める世界観だ」

     ドイツがその過酷な経験から米中の「新冷戦」を避けたい気持ちはよく分かる。しかし、それだからと言って中国の覇権主義と専制主義をそのままにしておくわけにはいかない、と沙鴎一歩は考える。

    ■菅政権の外交力が東京五輪で試される

     毎日社説はさらに指摘する。

     「G7が団結して中国排除に動けば世界の分断を招く。結束が緩めば中国の影響力の増大を許す。問われるのは、安定につながるバランスをどうとるかだ」

     国際社会ではこのバランス感覚が欠かせない。いま世界は「欧米」対「中国・ロシア」、「民主主義」対「専制主義」に分かれ、「分断」はすでに起きている。対中国ではアメとムチをうまく使い分け、なるべく分断を少なく抑え込む必要がある。

     最後に毎日社説はこう主張する。

     「日本も人ごとではない。『新冷戦』になれば米中対立の最前線に立たされる。それを回避する外交努力こそが、菅義偉政権に求められるのではないか」

     菅政権の外交力が試される。直近の舞台は東京五輪になるだろう。問題の中国をどのように対処するのか、沙鴎一歩はしっかり見届けたい。

    ジャーナリスト 沙鴎 一歩