ここから本文です
投稿一覧に戻る

呼吸困難の掲示板

「金融界の革命児」の死…ソーシャルレンディング大手・元社長に“何が”あったのか

 東京・霞が関の日比谷公園内多目的トイレで、6月8日、maneoマーケット元社長の瀧本憲治氏(49)が、遺体となって発見されたニュースは、金融界に衝撃をもたらした。

 「瀧本さんといえば、ソーシャルレンディング(SL)というビジネスモデルを、金融界に確立した人。先が見えてアクティブでポジティブ。自殺するとは思えないのに、いったい何があったのか…」(SL業者)

 トイレは内側からカギがかけられ、早朝、清掃員が発見。通報を受けてかけつけた警察は、現場の状況から自殺と判断した。死の4日前に話をしたという知人は、「普段と変わりはなく、取り組んでいる事業について語ってくれた」というのだが、事業がカベにぶつかっていたのは確かである。

“露わ”になった「SL」の限界

 まず、SLが限界に達していた。ネット上に開示された情報をもとに、投資家が企業に事業資金を貸し付け、配当を得るのがSL。金融機関が二の足を踏むリスクの高い案件が多く、その分、配当は10%前後と高い。

 maneoマーケットがSLのプラットフォームを提供、子会社のmaneoが貸金業登録をして貸付先を管理。その他maneoマーケットはプラットフォームを他社にも提供、それはLCレンディング、ガイアファンディング、クラウドリースなど10社に及んで「maneoファミリー」と呼ばれ、募集実績は1600億円にも達していた。

 だが、「短期小口高配当」が受けてブームとなり、新規参入が相次ぐうち、SLの限界が露わになる。容易に資金が集まるので、募集案件とは別用途に使ったり、関連会社の事業に振り向けたりする業者が続出、17年3月、みんなのクレジットが業務停止命令を受けたのをきっかけに、ブームは下火となり業界は冷え込んだ。

 その影響は、業界最大手だったmaneoに及び、maneoファミリーで太陽光など再生エネルギーを手がけるグリーンインフラレンディング(GIL)が、虚偽表示や資金管理の不備を指摘され、GILにプラットフォームを提供していたmaneoは、18年7月、行政処分(業務改善命令)を受けた。

 以降、業績は悪化、改善の兆しが見えないまま、瀧本氏はmaneoマーケットの売却を決意、19年9月、Jトラストという金融グループを率いる藤澤信義氏に持ち株を売却した。13年9月、maneoマーケットを買収、SLで「金融の世界に変革を」と訴えた瀧本氏は、ビジネスモデルを確立、ブームを演出するものの、わずか6年で退場した。

「コロナ治療薬開発」のウラで…
 そのうえ、maneo後に始めた金融コンサルタント業が、うまくいっていなかった。前出の知人がいう。

 「maneo売却後、経営の一線からは引き下がりました。でも、金融界で名を成した人だけに、『瀧本さんなら』と、運用を委せる資産家、投資家はいました。本人だって、maneo売却で約2億円を手にしているし、それなりに資産はあります。そこで数億円単位の投資をしていたんですが、幾つか、問題案件に引っ掛かってしまった」

 そのうちのひとつが、コロナ治療薬の開発で株価が急騰した医薬品ベンチャーのテラ(ジャスダック)、及びその支援会社セネジェニックスジャパンへの投資である。

 テラとセネ社の開発が、いかに欺瞞に満ちたものであるかを、筆者は本サイトで<コロナ治療薬開発のウラで起きていた『ヤバい経済事件』の深層>(21年3月11日配信)と題して記事化。その際、出資者として証言してくれたのは瀧本氏である。

 氏は、昨年10月、セネ社取締役の竹森郁氏と出会い、資金協力を要請されて、知人と合わせ5億円を協調融資している。だが、顧問となってセネ社に出入りするうちに驚いたのは、「事業よりも(テラの)株価を気にする経営実態」だといい、こう断言した。

 「インサイダー取引、株価操縦、偽計取引など金融商品取引法違反の他、詐欺、印鑑偽造などの刑事的な法律違反を疑うことができました」

 瀧本氏は、「竹森氏に裏切りがあった」として、12月末には決裂、「テラ・セネ劇場」というブログを立ち上げて告発。検察庁、警視庁、証券取引等監視委員会、東京証券取引所など捜査・監督当局に情報提供を行なった。

 その一方、GILなどmaneoファミリーからもたらされる相談に応じ、物件の引き取り、追加融資などの形で関与することもあった。だが、それが失敗を招く。ファミリーのSL元幹部が証言する。

 「事業中断のプロジェクトのなかには、『あと少しの資金で立ち直る』というものもある。目利きの瀧本さんには自信があり、JCサービス(GILの親会社)の中久保正己社長と親しいことから、JCサービスを支援すると同時に、その絡みで親しくなった再生エネルギー会社のテクノシステムに融資。それが、一部、焦げ付いている」

「SL」のたどる運命…
 SLは、瀧本氏のmaneo売却時より厳しい状況に置かれている。GILは今年3月、maneoによって破産を申し立てられ、既に新規募集を停止している他のファミリーも、同種の運命を辿るだろう。また、maneoの退場によって、親会社・SBIホールディングスの信用で業界ナンバー1となったSBISLは、今年5月末、廃業を明らかにした。

 その原因となったのは、プラットフォームを提供していたテクノシステムが経営破たんし、刑事事件化したこと。その経緯を筆者は、<地検特捜に狙われたテクノシステム事件の「全貌」>と題して、先週、詳述した。

 また、瀧本氏が金融コンサルとして不良債権処理に乗り出したJCサービスも、過去に地検特捜の捜査を受けた経緯がある。

 JCサービスは、関連会社が細野豪志元環境相に5000万円を提供するなど『政治銘柄』だった。また、政界フィクサーの大樹総研・矢島義也氏も関与していた。そこで一昨年、特捜部が捜査に乗り出したが詰め切れずに頓挫。そのJCサービスの案件を拾う形で登場したのがテクノシステム。やはり政界ルートを持ち、不透明なカネの流れもあるということで、特捜部は家宅捜索のうえ、今年5月末、同社の生田尚之社長を逮捕した。

 瀧本氏の痕跡は、テクノ案件に残っている。昨年6月、テクノ社が青森県に持つ太陽光発電施設を担保に、瀧本氏の関係会社が10億円の根抵当権を設定している。また、JCサービスから大樹グループを経てテクノ社に所有権移転する予定の香川県の太陽光発電施設案件には、瀧本氏がコンサルタントとして関与した。

 セネ社への融資は昨年10月なので、テクノ社が断末魔に陥り、再建の見込みが立たなくなってからだ。前出のmaneoファミリー元幹部が推測する。

 「テラ・セネの怪しい案件に飛びついたのは、テクノ関連融資の挽回を図るつもりもあったのでは? 瀧本さんは、『うまく行けば、(テラの)企業価値が300億、500億円と上がっていく。そうなれば(担保に取った)株もあるので、50億や100億のカネになり、次の事業に取りかかれる』と、言っていた。それだけにコロナ治療薬の開発が、竹森氏らの詐欺話だとわかって、猛烈にハラを立てたのだろう」

 告発は実り、証券監視委と警視庁が、3月初旬、テラ・セネに家宅捜索を行なったが、カネが返ってくるわけではない。テラ・セネとテクノ社絡みに投じたカネは20億円近いという。回収分はあるにせよ、自分を信頼して預けてくれた投資家に対しては、申し訳なさがつのったハズだ。

 自殺の原因は、余人の知るところではないし、人柄や性格などから「自殺なんてありえない」と、他殺を示唆する知人もいる。ただ、瀧本氏が証券監視委と警視庁が捜査するテラ・セネ事件、特捜案件となったテクノ事件に、ともに関与したことで、「融資したという意味では被害者ではあるが、事件に関与したという意味では被疑者にもなる」という微妙な立場に置かれたし、事実、捜査当局の事情聴取は受けていた。

 金融界の革命児が、自ら打ち立てたビジネスモデルの終焉とともに迎えた死――。さまざまな憶測が生まれるのも仕方がないことなのかも知れない。

伊藤 博敏(ジャーナリスト)