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株の掲示板

「実感なき日経平均3万円」 なぜ個人投資家の利益につながらないのか

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 日経平均株価は2月に3万円の大台を突破したが、急速な相場の回復ぶりに対する市場参加者の高値警戒感や、米長期金利の動向などに左右され、2万9000円を割る場面もあるなど乱高下が続いている。だが、依然として高値圏であることに変わりはない。

 この株高は、景気回復期待はもとより、コロナ対策として各国中央銀行が金融緩和で市場に投入した資金のほか、日銀などがETF(上場投資信託)を購入して買い支える「官製相場」によるところが大きい。それゆえ、株を買えない人々はもちろん、機関投資家のように大量の資金を投じられない個人投資家のなかからは「日経平均がいくら上がっても、自分が持っている株は全然上がらない」といった声が聞こえてくる。一部の富裕層を除いた「実感なき日経平均3万円」の様相を呈している。

 なぜ「実感」できないのか。簡単に言えば、高い時に買っているからだろう。人間の心理として、株価が安い時には株を買いたくなくなり、高くなると買いたくなる。本来、株は安く買って高く売ることで儲かるものだが、どうしてもそれとは正反対の投資行動に出てしまいがちとなるため、「高値掴み、安値売り」に陥ってしまうケースが後を絶たない。身も蓋もない話をしてしまえば、人間は本来、投資行動に向いていない生き物なのである。

 ここ1年ほどの相場で言えば、昨年3月、日経平均が1万6000円台まで下がっていたところで買っていれば大きく儲かっていたに違いない。しかし、現実にはそこではなかなか手を出せず、昨年11月以降に2万4000円を超え、いよいよ3万円台に近づきそうになってきたところで買った人は少なくないはずだ。そうなると、大きな波で見れば、結局は「高値掴み」に陥るだけで、大きな儲けにはつながらなくなってしまう。

「近視眼的損失回避行動」と「双曲割引モデル」
 こうした投資行動は、行動経済学でいう「近視眼的損失回避行動」、あるいは「双曲割引モデル」というものが引き起こしていると言える。

 人間は、なかなか長期的には物事を捉えられず、目先の利益を優先してしまう。例えば子どもに「今日ならマシュマロが5個もらえるけど、明日まで待てば10個に増えるよ」と言っても、明日まで待てずに今日の5個をとってしまう。それが「近視眼的損失回避行動」だ。

「双曲割引モデル」もこれに似ていて、例えば「今1万円もらうのと、1年後に1万1000円もらうのでは、どちらがいい?」と聞かれても、ほとんどの人が今の1万円を選んでしまう。将来のお金の価値を現在の価値に換算するレート(率)を「割引率」と言うが、期間が長くなると「割引率が低くなる」と考えてしまい、そこまで待てない心理に陥るのだ。

 こうした行動は株式投資だけでなく、こんなシーンでも見られる。例えば、今は10兆円の景気対策を打つけど、その代わり将来的には12兆円の増税も避けられないと言われた場合などだ。冷静に長い目で見れば、あとで差し引き2兆円の負担増になるのに「いまだけ景気を良くしてくれればいい」と考えて政策を鵜呑みにしてしまう。ついつい目の前の誘惑に勝てない人間の“性”と言ってもいいだろう。

 本気で投資で勝とうと思ったら、そうした人間心理があると認識して、自ら“つっかえ棒”を作って踏みとどまることが大切だ。目先の動向に左右されることなく、冷静な判断をして安く買って高く売ることを心がけたい。