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石綿被害歯止めどこまで 全建材で飛散対策義務化へ

政治 環境エネ・素材 科学&新技術
2020/4/9 2:00日本経済新聞 電子版

建物の断熱材などに広く使われてきたアスベスト(石綿)の対策が課題となっている。古い建物を解体したり改修したりするときに対策を怠ると石綿が飛散し、吸い込むと肺のがんなどを引き起こす恐れがあるからだ。特にこれまで飛散しにくいとされてきた建材の一部からも、わずかな量飛散することが分かってきた。政府は石綿を少しでも使ったすべての建材に対策を義務付ける方針だ。


石綿は鉱物から作った天然の繊維で、繊維1本の太さは髪の毛の約5000分の1と花粉より小さく、肉眼では見えない。石の綿と書くように軽くて加工しやすく、鉱物のもつ耐火性や断熱性、摩耗しにくいといった特徴を併せ持つことから、一時は「奇跡の鉱物」として自動車や電気製品などにも幅広く使われていた。

ただ吸引すると深刻な病気を起こす恐れがあることが60年代から少しずつ明らかになってきた。肺を包む胸膜などの表面を覆う中皮に、がんができる中皮腫もその1つ。吸い込んでから発症するまで数十年の潜伏期間があるため、「静かな時限爆弾」とも呼ばれている。

政府はこれまで石綿について建物などに利用する際の規制などを段階的に強化し、2004年には建材への使用は原則禁止となった。しかし禁止する前に建てられたビルなどに石綿が残っているケースが少なくない。石綿の輸入量は1950年代から急増し、2005年までに約1000万トンが輸入された。そのうち約800万トンが建設資材向けだ。

新たな規制では石綿を少しでも使ったすべての建材に対策を義務付ける。これまでの規制は壁の表面に石綿が吹き付けられていたりボイラーや配管などの周りに断熱材として貼り付けられていたりする場合に限っていた。

新たな規制ではセメントやゴムなどほかの材質と混ぜた建材が対象となる。こうした建材はこれまで飛散は起きにくいとされていたが、解体時にそのまま取り外さずに重機で破砕したり折ったりすると飛散することが分かってきたからだ。こうした建材の出荷量は4300万トンに上る。具体的には石綿をセメントなどに混ぜ合わせて波状に加工した「スレート波材」などが対象となる。

環境省の調査ではこうした建材を除去した38カ所の作業現場のうち、15カ所において作業場の近くでの飛散が確認された。石綿は非常に軽いため、作業従事者だけでなく近隣住民も吸い込む恐れがあるとしている。また娘が通っていた保育園などの解体作業で意図せず石綿を吸引したと不安を訴える母親もいるという。

政府は3月、建物の解体時に石綿を使ったすべての建材に飛散防止を義務付けるよう大気汚染防止法の改正案を閣議決定した。今国会で可決・成立すれば、21年4月ごろに施行する見通しだ。

同省によると、規制が始まれば、解体工事などで対策が必要な建物の数は現在の年間約2万件から、最大で20倍の約40万件まで増える見通しだという。強化策では石綿が入った建材をあらかじめ調査して確認することで、やみくもな解体を防ぐ。作業の手順を決めて飛散しないように水を散布したり、破砕せずそのまま取り外したりすることなども求める。改善命令に従わない場合は、6カ月以下の懲役か50万円以下の罰金を科す。

ただ石綿対策に詳しく国の審議会の委員でもある東京労働安全衛生センターの外山尚紀さんは「今回の法改正は最低限の網をかけただけで対策としては不十分」と強調する。

課題の一つが石綿の除去作業にあたる作業員の安全性の確保だ。石綿対策が進んでいる欧州の国々では、作業現場で濃度を定量的に測ることを義務付け、危険な現場で働くことを避けて誤った吸引を防いでいる。一方、日本では作業の煩雑さから濃度測定の義務化は見送られた。外山さんは「作業のライセンス制度も含めて、今後どこまで厳しくできるかが課題だ」と話す。

もう一つの課題が、石綿の建材を解体工事前に調べる人材の育成だ。国は専門的な人材を3年間で30万~40万人を育成するとしている。しかし人材育成が実際、作業の進捗に間に合うかは不透明だ。

中皮腫による死亡者数は増え続けている。これ以上、健康被害を不安に思う人を増やさないためにも、対策のさらなる徹底が欠かせない。(安倍大資)

貼っていくスレ 石綿被害歯止めどこまで 全建材で飛散対策義務化へ   政治 環境エネ・素材 科学&新技術 2020/4/9 2:00日本経済新聞 電子版   建物の断熱材などに広く使われてきたアスベスト(石綿)の対策が課題となっている。古い建物を解体したり改修したりするときに対策を怠ると石綿が飛散し、吸い込むと肺のがんなどを引き起こす恐れがあるからだ。特にこれまで飛散しにくいとされてきた建材の一部からも、わずかな量飛散することが分かってきた。政府は石綿を少しでも使ったすべての建材に対策を義務付ける方針だ。   石綿は鉱物から作った天然の繊維で、繊維1本の太さは髪の毛の約5000分の1と花粉より小さく、肉眼では見えない。石の綿と書くように軽くて加工しやすく、鉱物のもつ耐火性や断熱性、摩耗しにくいといった特徴を併せ持つことから、一時は「奇跡の鉱物」として自動車や電気製品などにも幅広く使われていた。  ただ吸引すると深刻な病気を起こす恐れがあることが60年代から少しずつ明らかになってきた。肺を包む胸膜などの表面を覆う中皮に、がんができる中皮腫もその1つ。吸い込んでから発症するまで数十年の潜伏期間があるため、「静かな時限爆弾」とも呼ばれている。  政府はこれまで石綿について建物などに利用する際の規制などを段階的に強化し、2004年には建材への使用は原則禁止となった。しかし禁止する前に建てられたビルなどに石綿が残っているケースが少なくない。石綿の輸入量は1950年代から急増し、2005年までに約1000万トンが輸入された。そのうち約800万トンが建設資材向けだ。  新たな規制では石綿を少しでも使ったすべての建材に対策を義務付ける。これまでの規制は壁の表面に石綿が吹き付けられていたりボイラーや配管などの周りに断熱材として貼り付けられていたりする場合に限っていた。  新たな規制ではセメントやゴムなどほかの材質と混ぜた建材が対象となる。こうした建材はこれまで飛散は起きにくいとされていたが、解体時にそのまま取り外さずに重機で破砕したり折ったりすると飛散することが分かってきたからだ。こうした建材の出荷量は4300万トンに上る。具体的には石綿をセメントなどに混ぜ合わせて波状に加工した「スレート波材」などが対象となる。  環境省の調査ではこうした建材を除去した38カ所の作業現場のうち、15カ所において作業場の近くでの飛散が確認された。石綿は非常に軽いため、作業従事者だけでなく近隣住民も吸い込む恐れがあるとしている。また娘が通っていた保育園などの解体作業で意図せず石綿を吸引したと不安を訴える母親もいるという。  政府は3月、建物の解体時に石綿を使ったすべての建材に飛散防止を義務付けるよう大気汚染防止法の改正案を閣議決定した。今国会で可決・成立すれば、21年4月ごろに施行する見通しだ。  同省によると、規制が始まれば、解体工事などで対策が必要な建物の数は現在の年間約2万件から、最大で20倍の約40万件まで増える見通しだという。強化策では石綿が入った建材をあらかじめ調査して確認することで、やみくもな解体を防ぐ。作業の手順を決めて飛散しないように水を散布したり、破砕せずそのまま取り外したりすることなども求める。改善命令に従わない場合は、6カ月以下の懲役か50万円以下の罰金を科す。  ただ石綿対策に詳しく国の審議会の委員でもある東京労働安全衛生センターの外山尚紀さんは「今回の法改正は最低限の網をかけただけで対策としては不十分」と強調する。  課題の一つが石綿の除去作業にあたる作業員の安全性の確保だ。石綿対策が進んでいる欧州の国々では、作業現場で濃度を定量的に測ることを義務付け、危険な現場で働くことを避けて誤った吸引を防いでいる。一方、日本では作業の煩雑さから濃度測定の義務化は見送られた。外山さんは「作業のライセンス制度も含めて、今後どこまで厳しくできるかが課題だ」と話す。  もう一つの課題が、石綿の建材を解体工事前に調べる人材の育成だ。国は専門的な人材を3年間で30万~40万人を育成するとしている。しかし人材育成が実際、作業の進捗に間に合うかは不透明だ。  中皮腫による死亡者数は増え続けている。これ以上、健康被害を不安に思う人を増やさないためにも、対策のさらなる徹底が欠かせない。(安倍大資)