ここから本文です
投稿一覧に戻る

ちょっとハリハリ。の掲示板

世界経済の「新たな要」となった台湾の半導体大手TSMCが独り勝ちできる理由

供給不足と熾烈な開発競争が続く半導体業界で独り勝ちしている企業がある──TSMC(台湾積体電路製造)だ。英紙「フィナンシャル・タイムズ」は、台湾にある同企業を徹底分析した長編記事を掲載した。

「魔法の半導体」で不動産価格も高騰
リー・ターセンは少年時代、見上げるようなサトウキビ畑を歩いて学校に通っていた。それから約40年。大人になった彼は不動産ブームに湧く故郷の善化で、その畑を売って生活している。

善化は台湾南部の町だ。さびれた田舎町だったが、世界最先端の半導体工場の建設が決まって以来、建設ラッシュが続く。

この町に、3nm(ナノメートル)プロセスの半導体チップ製造工場を建設しているのは、半導体受託生産の世界最大手、TSMC(台湾積体電路製造)だ。現在の最先端チップよりも動作速度が最大70%速く、消費電力も少ないとされる3nmチップは、スマートフォンからスーパーコンピュータまで、あらゆる用途への利用が期待されている。

「昨年は工場に隣接する農地の価格が3倍にはね上がった。当社は創立10年だが、昨年の取引高は過去最高だった」とリーは言う。不動産会社センチュリー21の現地支店を率いるリーは、新築のアパートやタウンハウスが次々とTSMCのエンジニアに売れていく様を目の当たりにしてきた。

しかしTSMCの新しい半導体製造工場、いわゆる「ファブ」は、台湾南部にとどまらず、世界全体に影響を及ぼす。半導体の世界では、ファブこそが宇宙の中心だ。

この新工場は、今のところTSMCと韓国のサムスン電子だけが使いこなせる3nmプロセス技術を使って、来年から量産を開始する。現在の最先端プロセスは5nmだ。チップに集積されるトランジスタが小さければ小さいほど消費電力は少なく、処理速度は速くなるため、新しい3nmチップは顧客に大きな優位性をもたらす。

リーによれば、新築のアパートやタウンハウスが次々とTSMCのエンジニアに売れるため、TSMCの善化工場の周辺では農地の価格がこの1年で3倍に跳ね上がったという。

  • >>29

    米中の技術競争にも巻き込まれる
    新工場の敷地面積は16万平方メートル、サッカー場22個分に相当する。そしてこの工場を運営するTSMCもまた、世界の半導体製造市場を支配する巨大企業だ。

    これまでは知名度も低く、話題に上ることは少なかったが、最先端技術への巨額の投資と市場での影響力の増大が、この台湾企業を世界の表舞台へ引きずり出そうとしている。

    世界規模で起きている半導体の不足は、日本や欧米諸国の自動車生産にブレーキをかけ、一部の企業を生産停止に追いやった。多くの国では、政治家が半導体製造の国内回帰を声高に主張し始めている。こうした状況の中で、にわかに関心を集めているのが世界の半導体製造市場を制する台湾のTSMCだ。

    中国が長年、台湾侵攻をちらつかせていることからもわかるとおり、台湾は東アジア地域における米中の軍事対立の中心にあった。最近はこの2つの大国の技術競争にも巻き込まれている。

    中国企業はTSMCと同等の製造能力を手に入れたがっているが、今のところ成功していない。米国企業も苦戦している。インテルは、同社のドル箱であるプロセッサの製造の一部を台湾企業であるTSMCに委託する予定だ。米国の国防総省は、兵器製造を外国企業に依存するリスクを回避するため、最先端チップの国産強化に投資するよう米国政府に静かに圧力をかけている。

    こうしてTSMCは世間的な知名度の低さにもかかわらず、おそらくは世界で最も重要な企業となった。