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健康 思想 哲学の掲示板

失意の尊富士を救った兄弟子
尊富士にその時の様子を振り返ってもらった。

「何も考えられなかったですね。頭が真っ白と言いますか。相撲どころか歩くのもままならない状態でした」

治療を終えて宿舎に帰ってきたのは、夜の10時過ぎだった。

「最初は(明日は)出られないと思って落ち込んでいました。師匠には『この状態だと無理です』と伝えました」

偉業を目前にしながら、直前でまさかの大怪我。

尊富士は失意の底にいた。しかし、そんな彼に声をかけたのが、部屋の兄弟子の横綱・照ノ富士だった。

「親方に伝えた後に横綱から、『そんなのでいいのか、後悔するぞ』『今までやってきた14日間が何のためだったかわからなくなる』『記録じゃなくて記憶に残る力士になると自分で言ったんだから、出たら記憶に残るぞ』とアドバイスをいただいた。そこから一瞬でスイッチが変わって、急に歩けなかったのがちょっとずつ歩けるようになって。不思議なぐらい、怖かったです、自分が」

実は、先場所の優勝パレードで共にオープンカーに乗り込む旗手を尊富士に任せていた照ノ富士。通っていた時期は違うものの、同じ相撲の強豪校・鳥取城北高校出身であり、怪我に苦しんできたという共通の過去も持つ部屋の後輩。

稽古場では、上半身の筋トレを繰り返す尊富士に四股とすり足で強靭な下半身を作ることをアドバイスするなど、部屋の弟弟子の中でも特に目をかけていた。

そんな兄弟子からの叱咤激励が、諦めかけていた尊富士の心を再び奮い立たせ、彼を千秋楽の土俵に導いたのだ。

「気合ですね、相手がどうのこうのではなく、自分に勝つために土俵に上がりました。未来は変わるけど過去は変わらないので。土俵で崩れてもいい、恥をかいてもいいやと思って必死に出ました」

そんな思いで臨んだ千秋楽。

勝った瞬間の地鳴りのような歓声と拍手。

伊勢ケ濱部屋の千秋楽パーティー。

そこには、尊富士と抱き合い、肩を組み、満面の笑顔を浮かべる照ノ富士の姿があった。お客さんとの記念撮影では率先して場を仕切るなど、弟弟子の快挙が嬉しくてしょうがない様子。まるで本当の兄弟のようだった。

FNN プライムオンライン
山嵜哲矢