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(株)スターフライヤー【9206】の掲示板 2016/04/15〜2019/09/16


 「ここには熟練の経験者もいる。今さらレストランの人に、サービスのイロハを教わることはないだろう」

 視線の先にいる女性店長は、黒の長ズボン姿だった。格好は洗練されていたが、店員や常連客から「おかみさん」と呼ばれ、家庭的な雰囲気に包まれていた。

 これこそ、松井がスターフライヤー社員に、植え付けたいものだった。

 「見た目はクールだが、人のサービスは温かい。デザインとおもてなしの融合を、スターフライヤーの特徴にしたい」

 松井の意思は、徐々に浸透した。客室乗務員は、サービス内容を決めようと、会議を繰り返した。

 先頭に立った一人が、客室サービスグループ長の渕けい子=現・CS推進部担当部長=だった。

 渕は全日空の客室乗務員として、昭和61年の成田-米ワシントン便の初便に搭乗した経験を持つ。ベテラン中のベテランだ。全日空退社後は、客室乗務員を目指す専門学校の非常勤講師を務めていた。

 そんな渕に、堀は「ほかの航空会社と違うからスターフライヤーが存在する意味がある。それを体現するサービスを創ってほしい」と語った。松井も「どんなサービスも、一手間をかけましょう」と依頼した。

 渕は2人の言葉を軸に、機内で提供するサービスを考えた。

 東京-北九州の飛行時間は1時間40分となる。この時間内に、100人以上の乗客の性格や、その日の調子を把握し、それに見合ったサービスを提供したい。

 渕らは出発時のイヤホンの手渡しサービスを思い付いた。搭乗するお客、一人一人に手渡しすれば、客の雰囲気や性格も、ある程度わかるだろう。

 提供する飲み物にもこだわった。大手コーヒーチェーン「タリーズコーヒー」と契約を結び、チョコレートも1個添えるようにした。

 松井や渕が植えたサービスの種は、スターフライヤーの評価を高め、花を咲かせた。

                 × × ×

 とはいえ、航空業界は社員の入れ替わりが激しい。創業時を知る客室乗務員も少なくなった。松井氏のデザイン会社との契約は切れ、堀は退社した。

 渕は、スターフライヤーならではのサービスが続くか懸念した。経営が厳しくなる中で、コーヒーをのぞく一部のドリンクは、コストを切り詰め、提携先の全日空と同じものを使うようになった。

 27年の冬。渕は上司から、客室乗務員のおもてなし指針の変更を促された。

 指針は、就航前に渕が作ったものだ。「仕方ない」とあきらめながら、乗務員の指導教官に相談すると、彼女たちの意見は違った。

 「変更すべきではありません。10年続く、スターフライヤーのサービスの根幹です」

 渕は腹をくくった。

 「創業の時の思いは根付いている。それを引き継いでいこう。それこそがスターフライヤーのDNAなんだ」

 温かいサービスを軸にするのは、経営陣も変わらない。

 27年11月、3代目社長、松石禎己(63)は盾を手に、晴れやかな表彰式の舞台にいた。

 日本版顧客満足度指数(JCSI)の「国内航空会社部門」で、スターフライヤーがナンバーワンに輝いた。しかも7年連続の快挙だった。

 JCSIは、日本生産性本部が中心となって21年度に始まり、顧客満足度に関する国内最大規模の調査といえる。

 松石は「スターフライヤーが力を入れてきたホスピタリティーで、これからもお客に選ばれていくんだ」と胸を張った。(敬称略)