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(株)スターフライヤー【9206】の掲示板 2016/01/30〜2016/04/14

片山は、羽田の便数を増やすには、北九州空港を拠点とする新たな航空会社しかないと考えた。

 だが、航空会社設立に名乗りを上げ、市に出資を依頼してきた業者の多くは、片山の質問にも満足に答えられなかった。市の金で「一山当てよう」と考える山師のような人間が含まれていた。

 そんな最中に、堀が片山に面会を申し込んだ。

 さすがにプロだった。堀の計画は、深夜早朝も飛ばし、1機当たりの飛行時間を増やすことで、コストを低く抑えるというものだった。24時間空港を目指す北九州空港ならばその条件が当てはまる。

 しかも堀の周囲には、全日空出身の武藤康史(62)ら航空業界のノウハウを持つ人間が多かった。

 実は堀は北九州と無縁ではない。日本エアシステム時代、定期便就航を目的に、旧北九州空港の滑走路延長を働きかけ、実現させた経験を持つ。市の新空港担当部署に知人も多い。

 堀との面会を終えた片山は市長室で進言した。

 「末吉さん、この航空会社は資金さえ集まれば成功すると思います」

 末吉の脳裏にあったのは、日航や全日空による路線だった。

 「信じてよいのか?。大手航空会社の印象を悪くしないだろうか…」

 末吉は一瞬考えをめぐらすと、片山に「企業誘致」名目で、堀の支援担当を命じた。

 肝心の名称が「神戸航空」のままでは具合が悪い。堀は社名をスターフライヤーに変えた。

 夜光る星「スター」に24時間運航の思いを込め、ライト兄弟の飛行機「フライヤー号」をもじった。


 片山は、企業を堀に紹介し、ともに出資を頼んで回った。航空会社設立には60億円もの資金が必要とされていた。

 堀も、ただ待っていただけではない。

 株主優待制度としてチケットを割安で購入すれば、社員の出張費を軽減でき、出資金も数年で回収できると訴えた。

 16年3月末、第1弾として、北九州都市圏の主要企業5社から、2億1千万円の出資を受けた。この実績が国土交通省に認められ、羽田空港発着枠の分配に手を挙げることができた。

 TOTO会長の重渕雅敏(80)はその年の11月、北九州商工会議所会頭に就任すると、自ら市内の会員企業に出資を打診した。会員企業を集めて、説明会を開くほどの力の入れようだった。

 北九州市の政財界には、大きな期待を寄せるわけがあった。

 四大工業地帯といわれたのは遠い過去。昭和38年の5市合併時点で100万都市だった北九州は、鉄冷えによって、どんどん人口が減少した。企業流出も相次ぎ、日銀北九州支店の移転の動きさえあった。

 市長の末吉、そして経済界の首脳は、北九州没落の原因の一つとして、空港の不便さを挙げていた。

 もともと北九州地区は、製鉄業に加え、陸路と海路における九州の玄関口として、隆盛を誇った。

 だが戦後、経済圏の拡大に伴い、交通・物流の主役は空に移った。市内には滑走路1600メートルの小規模な北九州空港しかなかった。対して、福岡市は中心部からわずかな距離に滑走路2800メートルの大空港がある。

 北九州市は、起死回生の一手として、沖合に新北九州空港建設を進めた。ただ、ハードを作っても、飛行機が飛ばなければ、無用の箱物に終わる。

 堀にとって夢であるスターフライヤー構想は、北九州にとっては、極めて現実的な要望に添ったものだった。

 市内からは中小企業も支援に手を挙げた。資本金が500万円程度のある印刷会社は1千万円を出した。

 北九州市も17年度予算で、スターフライヤーに10億円の補助金を計上した。

 だが、北九州だけでは足りなかった。

 北九州発祥のゼンリンを全国企業に育てた大迫忍(1945~2005)は、福岡都市圏に手を伸ばした。

 製造業の街・北九州と、商業都市・福岡。同じ県とはいえ、両市の間には、微妙な反発があり、これまで同じプロジェクトを協力して行った経験は、ほとんどなかった。

 大迫は、九州の発展には北九州・福岡両都市圏の連携が欠かせないと考えていた。“断交状態”だった両市の経済界の交流を進め、福岡財界に太いパイプがあった。

 大迫はスターフライヤーについて、九州電力など福岡市の主要企業で構成する「七社会」に働きかけた。

 そして、堀にこう言った。

 「彼らは、口に出さないけど、裏でOKをもらっている。お前はあいさつに行き続けろ」

 堀は大迫に頭を下げた。だが、スターフライヤーに協力してくれた大迫は病に倒れ、17年6月に死去した。59歳だった。七社会は同じ年の9月、5億円を出資した。

 堀は胸中で大迫の冥福を祈り、誓った。

 「海外と同じように、飛行機をホテル代わりに使ってもらうような航空会社を作ります。将来は24時間飛ばして、世の中を変えてみせます」(敬称略)