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ソニーグループ<6758>
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独自路線で絶好調のソニーは「メタバース時代」の世界一のエンターテイメント企業になれるか
1/29(土) 9:30配信

ソニーの業績・株価が過去20年でもっとも好調だ──この高収益を支えるのは、映画や音楽、ゲーム事業など、ソニーが長く持っていたエンターテイメント事業だという。これまでバラバラだった各事業が統合されつつあり、ソニーは生まれ変わろうとしているという。

変貌を遂げたソニー
今年2月公開予定の冒険映画『アンチャーテッド』の予告編が2021年10月に公開された際、世界中にいる原作ゲームのファンたちは憤慨した。

主人公の師匠的存在のサリーには、マーク・ウォールバーグはぴったりな配役に思われたが、このキャラクターの特徴である口ひげは一体どこに行ったのかと。

この疑問に対する答えは、2ヵ月後に公開された第2弾の予告編最後のショットで示された。そこではサリーに口ひげがあったが、その謎の全貌を知るには、2月の映画公開を待たなければならない。

このような「炎上商法」は、ソニーの新たな自信の表れといえるだろう。ソーシャルメディア時代に、大人気のプレイステーション・ゲームのファンをソニーが巧みに翻弄しているということだ。

76年の歴史を持ち、日本株式会社の象徴でもあるソニーは、保有するエンターテインメント事業の統合を10年前から目指してきたが、これまで実現しなかった。時価総額1570億ドル(約18兆円)となった今、その野望が達成されようとしていると見る投資家が増えている。

ソニーは、マイルス・デイビスからマライア・キャリーにいたる世界的なアーティストを抱え、ハリウッドの映画・テレビスタジオ、そしてプレイステーションというゲームビジネスなどを長く抱えていた。しかし、「楽器」を作ったり、買ったりしても、そのオーケストラをまとめることはできていなかった。

そして、エンターテインメントの世界を覆す多くの革新が起きる現在、ソニーはようやく各グループをうまく連携させる方法を見つけたようだ。

映画スタジオではスパイダーマンをはじめとするマーベルの大ヒット作が生まれ、ストリーミングサービスに提供できる膨大な映画やテレビ番組を抱える。また、スポティファイやティックトックの成長から利益を得て、音楽事業は世界第2位の規模に復活した。

さらに、ネットフリックスやアップル、アマゾンなどの大企業が必死に参入を試みるゲーム分野においては、ソニーはプレイステーションを通じた数十年の経験を有している。さらに、VR(仮想現実)ヘッドセットなど、メタバースにつながる最先端のハードウェアもソニーは持っている。

長年ソニーを取材してきた独立系アナリストのペラム・スミザーは言う。

「その戦略のおかげで、ソニーは他に類を見ないほど強力な立場にいます。ソニーが持つ音楽、テレビ、映画、ビデオゲームは誰もが欲しがるものです。これらすべてを大規模に連携のとれた状態で保有するのは、ソニーだけです。今後、より没入型の環境でエンターテインメントが消費される時代になることを考えると、ソニーよりメタバースの中心となれる企業は他にありません」

やっと実現したコラボレーション
現在ソニーの株価は20年ぶりの高値を記録し、ソニー株を担当するアナリストの圧倒的多数が「買い」と評価している。

プレイステーションの大人気ゲーム『アンチャーテッド』シリーズの映画化は、グループ間の統合戦略が実行されている良い例だ。

今回の映画公開は、ソニーのゲーム部門と映画・テレビ部門の協力により実現した。サイロ化が進んでいると悪名高かった、かつてのソニーグループにおいては不可能と考えられただろう。

2017年からソニー・ピクチャーズエンタテインメント会長を務めるトニー・ヴィンチケラは、両部門は10年前から同作品の映画化を企画していたと語る。

しかし、このプロジェクトが軌道に乗ったのは、ソニー・インタラクティブエンターテインメントの社長ジム・ライアンとヴィンチケラが話し合った後だ。その後、両社の間でさらに10の共同プロジェクトが立ち上がった。

この20年間のソニーによる投資は判断を誤っているようにしばしば見えた。「感傷的な理由」と表現されるような理由で事業が維持され、スリム化や統合に抵抗のある組織となり、不格好なコングロマリットとなっていた。

「企業文化の問題は非常に重要です。コラボレーションはとても重要です」と、2018年にソニーの最高経営責任者(CEO)に就任した、入社32年目の吉田憲一郎は言う。

『アンチャーテッド』の映画化は、彼がソニーで促進しようとしてきた企業文化変革の一例だ。ソニー・ピクチャーズとプレイステーションのチームのコラボレーションを、彼は「強く勧めてきた」という。

「武器商人」という独自アプローチ
ニールセン社のデータによると、アメリカで毎週もっとも多くストリーミング配信されているのは、『イカゲーム』や『ストレンジャー・シングス』などのネットフリックスのオリジナル作品ではない。33年前に放送開始された名作シットコム『となりのサインフェルド』などだ。

このコメディシリーズは、権利を保有するソニー・ピクチャーズエンターテインメントとの5年契約により、ネットフリックスで独占配信されている。その権利は最終的に5億ドルにもなった。

ソニー・ピクチャーズは、ハリウッドのライバル企業に比べてはるかに規模が小さい。そのため、もっとも賢明な戦略は、独自のストリーミングサービスを立ち上げるのではなく、映画やテレビの権利を最高入札者に売却することだと判断した。ソニーの幹部は、このアプローチを「武器商人」と呼ぶ。

ソニーは昨年、ネットフリックスおよびディズニー・プラスという2大ストリーミングプラットフォームとの間で、2022年から2026年の間に劇場公開される作品のストリーミング権を与える契約を結んだ。この総額は30億ドル近くにもなると推定されている。

ディズニー、アマゾン、アップル、ワーナーブラザーズなどは、ストリーミングサービスへの加入者獲得のため、数十億ドルをコンテンツに投じると予想され、売り手市場となっていることは間違いない。

大手ストリーミングサービスの加入者数が伸び悩むなか、ソニーの「武器商人」アプローチはより賢明だと言うアナリストもいる。

米投資会社カウエンのダグ・クロイツによると、ソニーの今後の問題は、ストリーミング戦争の末にサービスが統合されると、コンテンツの売り先が少なくなり、現在の価格優位性が損なわれることだという。

この影響を低減させるため、吉田はそれを「コミュニティ・オブ・インタレスト」と呼ぶ、ニッチなストリーミングサービスに賭けている。これは、アニメや信仰などに基づく、少数の熱心な視聴者に提供するサービスだ。

また、昨年のインドのジー・エンターテインメントを買収し、インドでも総合的なエンターテインメントのストリーミングサービスを構築している。

ソニーのエンタテインメント事業収益改善のもう一つの柱は、映画部門の改善だ。『スパイダーマン』シリーズの大ヒットが大きく、パンデミックの影響で世界の興行収入が大幅に落ちたなか、2021年も好調だった。

2021年12月公開の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、すでに6億6800万ドルの興行収入を出し、米国映画市場6位となった。それを筆頭に、米国トップ10作品のうち3作品を配給したのはソニー・ピクチャーズだ。

ソニーグループの2021年の利益は、2017年比150%増の9億5000万ドルという記録的な利益になると見込まれている。

ソニーの映画・テレビスタジオは、ディズニーやワーナーブラザーズなどのハリウッドのグループに比べて小規模だ。しかし、近年業界の統合が進んでも、このスタジオを必ず維持することを吉田は約束している。

ヴィンチケラは言う。「規模は小さくとも、3つのエンターテインメント企業すべてを合わせると、私たちは多くの資産、多くの知的財産を有しており、必要なところで競争できます」

ソニー帝国に対する「懸念」
しかし、ソニーにはリスクと疑念が常につきまとうという大株主もいる。海外で事業展開しているとはいえ、ソニーは日本企業だ。世界の投資家は、日本の経営者の利益や価値を創出する力が不足していることに不満を持ち、見下すこともある。

吉田のCEO就任以降、ソニーの株価は180%以上上昇した。しかし、それだけ株価が上がっても、ソニーの時価はアップルの約20分の1に過ぎない。

ソニー株を「中立」と評価する数少ないアナリストの一人であるマッコーリー証券のダミアン・ソンは、ソニーの大変革には警戒すべき点がいくつもあると言う。

特に警鐘を鳴らすのは、1月初めに発表された、新会社「ソニー・モビリティ」の設立だ。電気自動車市場への参入を検討するためのこのプロジェクトは、未来の車は基本的に走るエンターテインメントセンターであるという考えを強調している。テスラやトヨタに対抗するのではなく、自社製品のマーケティングのためという意味合いが強いのかもしれない。

ソンは言う。「ソニーが自動車で成功する可能性は低いでしょう。EVビジネスに力を入れすぎると会社の価値が低下し、何年にもわたって損失が続くのではないかと懸念しています」

あのアップルでさえ7年以上も自動車プロジェクトに取り組んでいるが、明らかな結果は出ていないと彼は言う。

Leo Lewis and Christopher Grimes