ここから本文です
投稿一覧に戻る

バイオ株(博打株)で一勝負の掲示板

【急性リンパ性白血病に新たな治療法が登場 がん細胞だけを攻撃するメカニズムとは?
<週刊朝日>】

遺伝子操作した免疫細胞を体内へ戻してがんを治療する「CARーT(カーティー)細胞療法」という新たな治療法の開発が進んでいる。2018年2月から名古屋大学病院で、急性リンパ性白血病に対して臨床試験が始まっている。好評発売中の週刊朝日ムック「がんで困ったときに開く本2019」では、今後期待の最新治療として「CARーT細胞療法」を取り上げ、同院小児科教授の高橋義行医師取材している。

* * *
急性リンパ性白血病は、骨髄でつくられる血液細胞のうち、リンパ球が幼い段階でがん化し無制限に増殖する白血病だ。成人では比較的まれで10万人に1人程度の発症率だが、2-4歳の小児でもっとも頻度が高く10万人に7-8人発症し、小児でもっとも多い。このなかで骨髄移植をしても再発してしまうような難治性の症例に対して、画期的な治療法が登場している。CARーT細胞療法(キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞療法)だ。

名古屋大学病院小児科教授の高橋義行医師は、こう説明する。

「CARーT細胞療法は、免疫に関与する治療ですが、免疫チェックポイント阻害薬とは異なり、薬物を投与するのではなく、患者さん自身の免疫細胞を体外へ取り出して、遺伝子操作で加工したものを体内へ戻して、がんを攻撃するという治療です。急性リンパ性白血病は、小児がんの死亡原因の1位の病気です。小児では薬物療法で寛解しないか、再発してしまう難治例は約2割で、そのうちの約半数は骨髄移植で助けることができます。しかし、残る1割は、救命が難しいのです。また成人は小児より難治例が多く、それらの症例に対して、効果が期待されるのが、CARーT細胞療法です」

CARーT細胞とは、キメラ抗原受容体(CAR)の遺伝子を導入したT細胞という意味だ。T細胞は、免疫細胞の一つ。白血病細胞の表面にあるCD19という抗原を認識できるモノクロナール抗体とT細胞を、キメラ抗原受容体を導入することで合体させ、がんを敵として認識する力と攻撃力を併せ持った細胞にする。体内に入れると、標的にするがん細胞だけを見つけて攻撃し、同時に自らも増えていくメカニズムをもっている。

■アメリカで保険承認

CARーT細胞療法は、2017年8月、アメリカで、0-25歳の患者に対して保険承認された。臨床試験では、骨髄移植でも助けられなかった患者の80-90%で、治療後がん細胞が検出されない完全寛解に至った。治療は、ほぼ1回の点滴で済むのも大きなメリットだ。

ただし、米国で承認されたCARーT細胞は、「ウイルスベクター法」という培養方法でつくる。T細胞にウイルスを介して遺伝子を組み込む方法で、安全対策や施設整備にかなりの費用がかかる。そのため、薬価のみで5300万円、その他の治療費を含めるとさらに高額になってしまう。

日本でも同じ方法での研究がおこなわれている。これに対して、名古屋大学病院は、ウイルスではなく酵素を介して作る「酵素ベクター法」を採用する。遺伝子導入のコストは10分の1程度に抑えられるという。細胞を培養してできた製剤を検査するコストは別途かかるが薬価にも反映できそうだ。

「青虫から発見された遺伝子組み換えができる酵素を使います。信州大学病院の中沢洋三教授がアメリカ留学中にこの酵素ベクター法をCARーTを用いて細胞をつくれることを論文で報告しました。私たち名古屋大学は、T細胞培養法を使って臨床試験をしていましたので、双方の強みによって共同研究を進めてきたのです。当初は、遺伝子の組み込みにおいて、ウイルスベクター法が50-60%できるのに対して、酵素ベクター法は、5-10%程度しかできなかったのが、試行錯誤を重ね、平均50%まで到達しました。現在、特許を申請しています」(同)

■安全性を確認する試験

高橋医師らは、厚生労働省の部会に再生医療の臨床研究を申請し了承された。2018年2月から、CARーT細胞療法の臨床試験を開始した。骨髄移植後に再発した患者を対象におこなう、安全性を確認する第1相試験だ。

「試験は3段階に分けておこないます。最初は16-60歳の骨髄移植後に再発した人3人を対象におこないます。この3人で安全性が示せたら、次に1-15歳で3人おこないます。さらに安全性を示せたら、CARーT細胞の容量を3倍に増やして1-60歳で3人、そしてそれも安全なことがわかったらさらに3倍の容量にして3人おこないます。すべてが順調に進めば12人で終了し、各試験で再検証が必要になると24人で終了します」

この試験結果に基づき、次の段階では、1-60歳を対象にした、第2相試験を検討したいと、高橋医師は考えている。さらに数年後には、治験により、新薬としての保険承認を目指す。

ただし、この治療は、サイトカイン放出症候群という重篤な副作用がある。高熱や血圧低下、ショック症状などが起こる可能性があるため、ICU(集中治療室)で管理する必要があり、骨髄移植の経験が豊富で設備の整った病院での治療が重要だ。

「CARーT細胞療法は、限られた病院でおこなうことになります。将来的には、遺伝子導入法を応用して、さまざまながんの抗原を認識できるモノクロナール抗体を見つけて使えるようになれば、他の血液がんや固形がんでの実用化も可能になると期待しています」

(文/伊波達也)

※週刊朝日ムック「がんで困ったときに開く本2019」から抜粋