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 中国で、企業の求人と求職者の希望がかみ合わない雇用のミスマッチが深刻になっている。広東省など沿海部の工業地帯は工場労働者の確保に苦しみ、ベトナム人の不法労働者の雇用が増えているとささやかれる。一方、経済成長と歩調を合わせて増え続けてきた大学生は希望の仕事にありつけず、各地の新聞は「史上最も就職の厳しい年」と伝える。

 「ベトナム人? 一緒にビリヤードをして遊んだことがあるよ」。中小の靴工場が集まる広東省東莞市厚街。不法滞在であるためにつかみにくいベトナム人労働者の実態を、中国人の工場関係者(40)が語ってくれた。周辺には1000人ほどのベトナム人が滞在し、主に靴の工場で働いている。目立つのを避けるために1つの工場で働くのは3~5人にとどめ、昼間は外に出ないようにしている。

 街には労働者派遣のベトナム人の元締めがおり、工場主は、従業員1人当たり、中国人労働者の最低水準の月給に派遣料約400元(約6400円)を加えた約2200元を毎月支払っているという。工場主は追加負担をしてまで、摘発されるリスクのある不法労働者をほしがっているわけだ。

 海外から技術と資本、国内の内陸部からは膨大な出稼ぎ労働者を呼び込み、低コストで大量の製品を生産・輸出することで成長した沿海部の工業地帯。内陸部の雇用拡大や若者の工場労働の敬遠で、現在は従業員の確保に苦しんでいる。広東省は今年2月の春節(旧正月)休暇前、春節明けの労働者不足が「100万~120万人に達する」と警戒。実際には輸出が勢いを欠いていることでそれほど厳しくなかったが、労働者不足は常態化している。

 不足の穴を埋めるために一部の工場主が雇い入れているのが、中国南部の地元住民と見分けのつきにくいベトナム人だ。ベトナムからはまず、隣接する広西チワン族自治区に陸路か小船で入る。国境の街の同自治区東興市では、公安当局が広東省に向かう幹線道路で大型バスなどを重点的に検査しているが、その警戒態勢をかいくぐって広東省の工業地帯にたどり着くベトナム人が少なくない。

 不法入国は「蛇頭」と呼ばれる複数の犯罪組織が手引きしているとされる。かつては日本などに不法労働者を送り出すことで知られた組織が、今では不法労働者の「輸入」をなりわいとするようになっている。

 こうした工場労働者の求人難と同時に存在するのが大学生の就職難だ。中国の大学生の卒業式は6~7月。調査会社の麦可思などによる4月の調査では、就職が決まった学生は35%にとどまり、前年より12ポイントも低かった。卒業時点の状況は明らかになっていないが、7月下旬に入っても各都市の職業紹介所には就職活動を続ける卒業生の姿がある。

 就職難は景気減速による採用意欲の低下に加え、構造的な要因が大きい。今年の大学などの高等教育機関の卒業者は約700万人で、10年前の3.3倍だ。これに比べ産業構造の変化は遅い。国内総生産(GDP)に占める第3次産業の比率は2012年までの10年間に41.5%から44.6%への上昇にとどまり、メーカーの技術開発やIT(情報技術)関連、金融といった大学生が望む仕事の供給が追いついていない。人力資源社会保障省の尹成基報道官は7月25日の記者会見で「来年は卒業生がさらに増え、就職機会を求める圧力がさらに強まる」と述べ、厳しい状況が続くとの見方を示した。

 広東省広州市の国立大学、中山大学の林江教授は「すでに高校卒業生の7割が大学で学べるようになり、大学はエリート養成機関ではなくなっている」と強調。大都市での就業や給与水準の高い仕事にこだわらず、就業の機会を幅広く探すことを呼びかける。一方で「産業高度化が不完全で、経済成長モデルが変わっていないことも就職難の原因だ」と語り、労働集約型の輸出産業や建設などの投資に依存する経済成長から脱却して高等教育を生かせる職場を増やすことを訴える。

 中国の共産党と政府は大学生の就職難問題に高い関心を持ち、卒業生に職業体験や技能訓練の機会を提供するほか、国有企業に対して大卒者の雇用拡大を直接働き掛けている。「天安門事件」の名で振り返られる1989年の動乱で立ち上がったのは全国の大学生たち。現在の指導者たちの脳裏には、その恐怖の残像があるのだろう。不法労働者にも頼らなければならない労働集約型産業を縮小し、構造転換で大卒者の満足する職場を提供できるかどうかは体制を揺るがしかねない問題だ。