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私と経済の掲示板

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8年前の「太平洋」から「地球」へ

これに絡み、習はオンライン協議でオバマ政権時代に阻まれた新型大国関係のリベンジを思わせるひと言をバイデンにぶつけた。「地球は十分広く、中国と米国がそれぞれ、そして共同で発展してゆける余地がある」。一見、何でもない発言だが、米国に伍(ご)する大国を意識し始めた中国の人々の自尊心をくすぐる巧みな表現である。バイデンはニュアンスに気付いただろうか。

「米中のつばぜり合いと協力の舞台は、かつての太平洋から地球全体に広がった。バイデンは我々の実力を認めるしかなかった。本当に素晴らしい」「いやいや、簡単にバイデンの口車に乗ってはいけない。台湾ではこんなにも押し込まれているではないか。経済での圧力も続いている」

習・バイデン協議の後、中国の人々の間で交わされる議論を理解するには、8年前の米中首脳会談を思い起こす必要がある。中国のトップに立った習は13年6月、初めて訪米し、当時の米大統領、オバマと会談した。オバマを支えていたのは副大統領だったバイデンである。

カリフォルニア州での米中首脳会談の現場取材で強い印象があるのは、習の冒頭発言だ。「広く大きな太平洋は、中国と米国という大国を受け入れることができるほど十分な空間がある」。柔らかい言い回しで挑戦状を突き付けたのだ。行間に透けるのは「米国は太平洋に関する利益を独り占めするな」という意味だった。

もう一歩踏み込めば、ハワイ以西の太平洋は中国の勢力範囲になりうることまで示唆していた。太平洋への野心はいったん阻まれるが、今年、米国不在の環太平洋経済連携協定(TPP)への加盟申請という形で復活している。

今回、バイデンを前にした習が、かつての太平洋ではなく、地球という一段、大きなスケールを口にしたことは注目すべきだ。オバマ政権で教訓を得たバイデンは「権威主義体制との激しい競争」も強調しており、いわゆる「G2」論に再び流れることはありえない。

だが、一定の範囲で世界政治・経済での有力なプレーヤーとして中国を認めるのはいとわなくなった。代わりに地球温暖化問題などで協力を引き出し、「戦略的安定」という名の軍備管理、衝突回避のガードレールづくりを探ろうとしている。名を捨てて実を取る戦略である。裏には同盟国との関係強化によって中国から譲歩を引き出す枠組みが整ったこともあるだろう。