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そして最後のシナリオ3が大規模軍事侵攻だ。このシナリオではロシア系住民が多いウクライナ東部の一部を占拠するパターンから、ウクライナの領土のほぼ半分にあたる東部全域を奪取してしまうパターンまであり得るという。いわゆる、我々が想像する一般的な戦争に近いもので、戦車や航空機による攻撃も伴う大規模な軍事作戦となる。これが起こるのは、プーチン大統領がまだ政治的目標を達成できておらず、かつ軍事侵攻に対する抵抗は少ない、と判断した時だ。

サイバー攻撃が前触れ?
シナリオ2とシナリオ3はおそらくサイバー攻撃から始まる可能性が高いだろう。
前述のハイブリッド戦あるいは大規模侵攻のいずれのシナリオでも作戦開始時には、敵の対応を麻痺させる目的で、2016年にウクライナの電力網をサイバー攻撃でダウンさせた手法が取られる可能性が高い。サイバー攻撃が好まれる理由はロシアの犯行だと特定されにくく、表向きは関与を否定する余地がある点にある。サイバー攻撃の攻撃源を特定することは難しく、特定できたとしても、その攻撃源がロシア政府の指揮命令系統にある個人、団体であるのかどうかの確定には時間を要するからだ。

サイバー攻撃の攻撃減の特定には時間を要する

事態の把握とロシアの攻撃を認定するのに時間を要する間(認定後も対応の調整に時間を要することは言うまでもない)、アメリカやNATOは効果的な対応が遅れ、ロシアは作戦を継続し、既成事実を積み上げていくだろう。

前述のニューヨーク・タイムズのサンガー記者は「いくらロシアが疑わしくても、サイバー攻撃の攻撃源として厳格に特定できなければ、ロシアと事を構えるようなあぶないことはできない、という声が欧州から出て意見は割れる」と懸念する。

実はハイブリッド戦やサイバー戦に関連してバイデン大統領は19日の会見で失言ともとれる発言をしている。大規模なウクライナ侵攻は制裁の対象だと強く警告する一方、「小規模な侵攻の場合、対応の仕方はいろいろな議論があるだろう」と、あたかも小規模侵攻は経済制裁の対象にならないと受け取れる発言をして物議をかもしている。

この発言にはバイデン政権に好意的な主要メディアからも「プーチンにハイブリッド戦ならいいぞ、とゴーサインを出したようなものだ」という批判が上がり、慌てたホワイトハウスが声明を発表して火消しに走る一幕もあった。戦略的に曖昧にしておけないバイデン大統領らしいともいえる発言だが、アメリカの本音がはからずも飛び出したものともとれる。

後から、この発言がロシアのハイブリッド戦の引き金になった、というようなことにならないことをホワイトハウスの幹部たちは祈っていることだろう。

欧州のアキレス腱
不気味な動きをみせるロシアだが、実は欧州の足並みの乱れを誘う強力なカードを持っている。
それはEUがガス供給の3分の1をロシアに依存している点だ。

ロイターは1月14日の記事で、ロシアがEUに対するガス供給を遮断した時に備えて
追加供給が可能か、エネルギー各社にアメリカ政府が打診したと伝えている。打診を受けた各社はアメリカ政府に対し、ガス需給が世界的に逼迫しているために、ロシアからの巨大供給量に見合う追加供給は難しいと答えたという。つまり、真冬の暖房の需要が高まっているこの時期に欧州はロシアにガス供給という人質を取られていることになる。ウクライナという非NATO国のためにどこまで結束を維持できるのか、アメリカとNATOも試されている。

今後の展開についてモレル氏は「変数が多くて断言は難しい」としながらも、悲観的シナリオの可能性を否定しない。「もし、あなたがウクライナに利害を有する政府や企業の関係者であれば、当然、あらゆるシナリオ、つまり限定的な軍事侵攻から大規模な軍事侵攻のシナリオにまで備えるべきだ。」

ウクライナ侵攻があった場合、アメリカは地上部隊を派遣することは考えていないことをバイデン大統領がすでに明らかにしている。バイデン政権は軍事オプションの代わりに強力な制裁で対応する構えを見せている。

制裁で対抗するアメリカ
英国軍によるウクライナへの軍事支援

具体的にはロシアの金融機関をドル取引から排除することや、半導体の禁輸措置によってロシアの航空産業に打撃を与えるというものだ。

これまでにアメリカは、イギリスと共に対戦車ミサイルといった武器の供与や顧問団としてサイバー部隊を派遣しているほか、侵攻の兆しがあればリアルタイムでロシア軍の位置や動きをウクライナ側に情報提供することが検討されている。

ニューヨーク・タイムズの報道によれば、ロシア軍による侵攻でウクライナ軍が組織的抵抗の停止に追い込まれた場合は、隣国のポーランド、ルーマニアやスロバキアでアメリカ軍がゲリラ戦の訓練を施してウクライナの抵抗活動を支援する案もあるという。

だが、CIAで準軍事作戦に30年以上、従事したキャリアを持つフィリップ・ワイゼルスキー氏は米シンクタンクCSISに寄せたレポートで、アメリカやNATOがウクライナ防衛のために部隊を派遣しない以上(カナダ軍の特殊部隊が教育訓練目的で派遣されているとの一部報道あり)、“拒否的抑止”、つまり事前にロシア侵攻を拒否、阻止することは望めないと指摘する。

残されているのは“懲罰的抑止”、つまり悪さをすると、こんな痛みやコストを伴う懲罰が待っているぞ、だからバカなことはするな、という方法しかない、とワイゼルスキー氏は説く。まさにアメリカ政府がNATO諸国と共に用意している制裁案は、経済的な痛みを伴うことを知らしめることで軍事行動を思いとどまらせようというものだ。

制裁はロシアを止められない?
問題はアメリカが用意する経済制裁でロシアがどこまで痛みとコストを感じるか、だ。
クリミア併合以降、ロシアは国際社会の制裁に耐え抜いてきており、ロシアは「制裁慣れ」しているとして、制裁がロシアの侵攻をどこまで思い止まらせられるか、疑問視する声もある。

これは北朝鮮、イランの例を見ても言えることで、主権国家が決意した核開発やミサイル開発の計画などを制裁によって断念させることには限界があるといえる。

ロシアである疑いが極めて強いにもかかわらず、サイバー攻撃の事実認定に手間取り、事態は進んでいく―。民主主義国家は有効な対抗策を打ち出せず、世界が注視する中で軍事侵攻が進んでいく。

そして何よりも、リスクを取ることも、世界から批判を受けることも、孤立することも厭わない権威主義国家のトップが軍事侵攻を決意した時、それを押しとどめる方法は限られている。

本当にそんな展開になっていってしまうのだろうか。
今、世界ではタガが外れたかのようにロシア、中国、北朝鮮がアメリカの出方や我慢の限界を試しながら、手痛いしっぺ返しがないと見るや、躊躇うことなくさらに前に出てくる動きを見せている。

なんとも灰色で憂鬱な世界だ。
だが、さらに憂鬱なことはヨーロッパで起きることが、東アジアで起きないと慢心できる理由は何一つない、ということだ。

ウクライナ有事は台湾有事の「予行演習」?
臨戦態勢のウクライナ空軍

「台湾有事は日本有事」とも言われる台湾有事で懸念されているのは、まさにサイバー攻撃であり、電撃的なスピードで神経中枢を攻撃して台湾を屈服させる「Short Sharp War」と呼ばれる戦い方だ。

アメリカ軍が阻止に駆けつける暇を与えず、日米英仏豪が足並みを揃えて対抗策を打ち出してくる前に一気に片をつけてしまう。それを可能にする軍事能力を中国は着実につけつつあり、中国がひとたび決意すれば、それを押しとどめることは難しい構図が出来上がりつつある。
それに対抗する民主主義国家の連携がどこまで維持できるのか、という点もまたウクライナ問題と共通する。

暗くて憂鬱な世界にようこそ、とでも言うべきか。
ウクライナ問題は決して遠い国の出来事ではない。
むしろ私たちにとって「予行演習」なのかもしれない。