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あとで気が向いたら読み返そうの掲示板

巨額負債を抱える日本で、流行りの経済理論「MMT」を財務省があっさり否定したワケ

そもそもMMTとは?

 近年、「MMT」(現代貨幣理論)なる言葉を耳にする機会が増えてきた。

 「通貨発行権を持つ国の国債はデフォルトしないので、政府が膨大な借金を抱えていても問題はない」

 端的に言えばそういう理屈だが、巨額債務を抱えているにもかかわらず、インフレも金利上昇も起きていない現在の日本の状況を説明する理屈として、注目されているようだ。

 2月には、国民民主党・無所属クラブの高井崇志衆院議員が財務省とやりとりし、角田隆主計局次長から「財務省はMMTをまともな理論だとは思っていない。『実験的にやってみて失敗した』では済まない」という言葉を引き出している。

 先に言っておけば、欧米諸国の経済学界では、「MMT」は新たな経済理論として認識されていない。

 理屈の中身はケインズ、シュンペーターらが残した標準的な経済理論を原型に、会計論など様々な理論を加味して導かれたもので、そこに何ら新鮮味はないからだ。

 「財政赤字なんて気にする必要はない」という言い方をすると、いかにも極端な主張のように思われるが、「巨額な財政出動をしても、インフレ率は目標の範囲内に収束する」という標準理論と、言っていることは根本的に変わらない。

 その主張は、日本において「リフレ派」と呼ばれる人々が唱えてきたことにも重なる部分がある。

 リフレ派とは、量的緩和や日銀の国債引き受け、ゼロ金利政策の継続など、インフレ目標値を設定した上でさまざまなマクロ経済政策を推奨し、長く続くデフレ不況からの脱却を目指す立場を指す日本独特の用語である。

 リフレ派の考え方では、日銀を政府の「連結子会社」のように捉え、政府と日銀を一つの統合したバランスシートによって分析する。

 この手法は、標準的なファイナンス理論と何ら変わらず、米国主流経済学者から見れば、あえて「派」などと名指しするほどの目新しさはない。それが、日本で「リフレ派」とわざわざ呼ばれているのは、日本の経済学界があまりに後進的で、標準理論にキャッチアップできていないからだろう。

 こうしてみると、「リフレ派」とほぼ同じ主張である「MMT」も、経済理論から見れば、標準に則ったものであり(強いて言えば、ワルラスの法則やインフレ目標といった正統的な手法に準拠するリフレ派のほうが、説得力には長ける)、いまさらもてはやすような内容ではないのだ。

 それを、一部の政治家が都合よく取り上げ、あたかも目新しい理論がでてきたかのように、喧伝しているだけである。

 耳慣れない言葉で耳目を引き、世間の注目を集める。政治の文脈のなかでは、こうした「借用」はしばしば見られる。

 たとえば、小泉純一郎政権で盛んに用いられていた「構造改革」というキャッチフレーズは、そもそも左派運動で使われていたものだ。それを、小泉氏がスローガンとして効果的に借用したのだ。

 最近のMMTの扱われ方も同じ。政治的な文脈で使われている理屈でしかない以上、国の財政を預かる財務省が否定的なスタンスをとるのも、無理からぬ話なのだ。