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「優良」部品メーカーの粉飾、どうしたら見抜けたか

2023年12月26日に大阪地裁へ民事再生法の適用を申請した昌一金属は、金属部品メーカーとして全国の電力会社などに営業基盤を構築した優良企業と目されていた。申請の翌日に同社を訪れた取引先の担当者は「突然どうして。今日が期日の手形は払ってもらえないのか」と肩を落とした。急転直下の倒産劇をひもとくと、信用はうわべだけを繕ったものだった。

昌一金属は1955年10月に設立。電柱を支える支線を取り付けるバンドや電柱に変圧器を固定するバンドなど電力用を主体として、通信用や地中線用の各種金物を取り扱うメーカーだ。57年に大阪市港区へ本店・工場を移転した後、84年には近隣に福崎工場を開設。92年には子会社を設立し九州に進出した。さらに、93年に名張工場(三重県名張市)も設け、ピークとなる94年9月期には年売上高約49億1900万円を計上した。以降も、2008年に堺工場を開設し、東日本大震災や熊本地震といった震災復旧関連の工事に伴う受注などを獲得していた。

しかしその後は、震災復旧関連の工事減少に加え、電力の自由化などに伴う電力会社の経費圧縮の影響で受注が減少し、22年9月期の年売上高は約15億円にとどまっていた。こうしたなか、23年9月期において40億円を超える過年度損益修正によって債務超過に転落。取引金融機関に対して借入金返済のリスケジュールを要請したものの足並みがそろわず、一部の金融機関から期限の利益の喪失を通知されてしまう。預金と借入金を相殺され、同年12月28日の決済が履行できないことから、民事再生法による再建を選択した。

  • >>6845

    多額の修正で固定資産は半分以下に

    40億円を超える損益修正損に関係者は驚きを隠せなかった。前期の貸借対照表と見比べると違いは一目瞭然だ。投資有価証券は約24億7400万円から約4億7900万円に、保険積立金は約13億7000万円から約2億6500万円にまで減少。この2つで30億円を上回る架空・過大計上があったことが分かる。その他、現預金(約5000万円)の架空計上や借入金(約8億9500万円)の過少計上などが発覚した。

    この不適切な会計処理が発覚したのは、23年3月ごろ。前任の経理部長はこの頃、体調不良などを理由に出社しなくなったという。ある金融機関では、前任の経理部長から投資有価証券の明細を入手していたが、後任の経理部長から受け取ったのは全く異なる明細。そこで資料が長らく偽装されていたこと、つまり、決算を粉飾していたことを確信したという。

    24年2月下旬に債権者にあてた報告書には、調査中と前置きをしつつ、赤字決算が露見しないよう不適切な会計処理を行っていたと記されている。また、10年も前となる13年9月期決算の際、実際の決算書のほかに税務申告用に営業赤字が生じない形の決算書、さらに金融機関提出用の決算書が作成されたことが判明したとも記されていた。この不適切会計は22年9月期まで継続的に行われていたという。

    取引先は、どの時点であれば「不適切さ」に気付けたのだろうか。長い目で現預金や投資有価証券、保険積立金の推移をみると違和感を抱く。実態を確認しやすい現預金は減少傾向、実態を確認しにくい投資有価証券および保険積立金は増加傾向にあるのだ。確認できる最も古い決算書(1987年9月期)では、現預金は約10億円、投資有価証券は約5億円。その後、現預金は2001年9月期をピークに減少傾向をたどる。次に増えたのが投資有価証券で、12年9月期の35億4600万円をピークに減少傾向へ転じる。さらに同時期以降、今度は保険積立金が増加基調となる。

  • >>6845

    この動きから浮かび上がる粉飾の変遷はこうだ。当初は現預金の過大計上による粉飾を行っていたため、金融機関から見合い預金の依頼が絶えず、預金残高を減らさざるを得なかった。その減少分を投資有価証券に振り替えたがそれも限界に達し、保険積立金を増やす形の会計処理を行ってきた可能性があるということだ。

    今回のように相当前の現預金までは遡れないにしても、投資有価証券ではどうか。約20億円もの架空計上が発覚したが、その多くは仕組み債だった。取引先である電力会社の株式などを除き、計上されていた全てが架空だったことが分かる。仕組み債とは、一般的な債券にオプションやスワップなどのデリバティブ(金融派生商品)を組み込んだ債券のこと。高い利回りを期待できる半面、場合によっては元本が毀損するリスクをはらんでいる。

    昌一金属の自己資本に対する仕組み債の割合を考えると、架空ではなく実態がある資産だったとしても、非常に高いリスクを抱えた財務状態であったことは容易に想像がつく。資本が本業以外に投じられることは、リスクマネジメントの観点から十分に注意するべき勘定科目といえる。実際、過大な投資有価証券を問題視し、一定の上限を設けた融資取引にとどめていた取引金融機関も存在した。仕組み債でなかったとしても、12年9月期の年商約20億円を大きく上回る約35億円の投資有価証券はやはり過大だ。

    直近決算で約10億円の架空計上が判明した保険積立金はどうか。保険積立金とは、生命保険や損害保険などの保険料のうち、満期返戻金など貯蓄性がある部分を計上するための勘定科目だ。約15億円の年商に対して約14億円の保険積立金は、とても適正な水準とはいえない。

    帝国データバンクの調べでは、コンプライアンス違反に起因する倒産は23年度に351件発生。うち粉飾決算は81件にのぼった。今回は3つに着目したが、勘定科目の増減推移を丁寧に見ていくことの重要性を改めて確認できた。不適切にもほどがある企業の倒産に巻き込まれないためにも、違和感を抱いた際には一度立ち止まるべきだろう。