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現代貨幣理論(MMT)の中心人物が語る「財政赤字や公的債務が膨れ上がっても何の問題もない」
8/22(日) 9:00配信

日本でも注目を集めつつある現代貨幣理論(MMT)の主唱者、ステファニー・ケルトン。日本のように自ら貨幣を発行できる国は財政破綻することがない、という大胆な理論を唱える彼女に、仏誌「ル・ポワン」が徹底的に疑問をぶつけた。

米国の連邦議会にはハトとタカの二派がいる。ハトは減税よりも財政支出拡大を好む一派で、民主党の議員に多い。一方のタカは、財政支出拡大よりも減税を好み、共和党の議員が大半を占める。

そんなハトとタカだが、アメリカ政治という鳥小屋では意見が一致することもある。たとえば中期的には、公的債務が増大するのを全力で食い止めようとするのはハトもタカも一緒だ。

そんななか、フクロウを自任する米国人経済学者がいる。その名もステファニー・ケルトン(51)。フクロウとは財政赤字も公的債務も重視する必要がないとする一派である。

ケルトンは2015年から米上院予算委員会の民主党のチーフエコノミストを務めてきたニューヨーク州立大学教授で、民主党内の左派のバーニー・サンダースの政策顧問も務めた。MMT(現代貨幣理論)の中心人物の一人である。

MMT派に言わせれば、主権国家は自国の通貨を発行できるのだから、国債でお金を借りる必要はない。国家が経済に注ぎ込んだお金がインフレという眠れる怪物を起こさないかぎり、債務は際限なく増やせるという。

世界各国の政府が、新型コロナがもたらした経済と社会の危機に対処しようとするなか、MMTが魅力的な理論として受け取られるようになった所以(ゆえん)である。ステファニー・ケルトンに話を聞いた。

政府の「赤字」は、国民の「黒字」
──国家の財政赤字や公的債務を心配する必要はまったくないと仰っていますが、それはなぜですか。

通貨主権を保てている国家には米国、英国、日本、オーストラリアなどが挙げられますが、これらの国家にとって財政赤字が積み重なってできた公的債務は、世間で言われているほど、危険なものでも、無責任なものでもありません。

財政赤字とは何でしょうか。それは単純に言えば、国家が毎年、経済に支出している金額と国家が租税などで得ている金額の差です。年度の終わりに収入の額から支出の額を引いたとき、マイナスになれば財政赤字だということになります。

さて、これは実際に何を意味するのか。それは政府がその金額を、家計や企業などの民間部門に渡しているということにほかなりません。つまり、米国政府にとっての赤字は、米国民にとっての黒字だというわけです。

財政赤字に不安を抱くというのは、国家が民間部門を黒字にすることに不安を抱くのと同等の話です。国家が支出するというのは、誰かの銀行口座にその金額が入り、その人がそのお金を使えるようになるということなのです。

MMTでは、財政赤字や公的債務の増大のせいで国家が破綻するのを不安視することはありません。国家を破綻させるのはインフレなのです。国家が経済に注ぎ込むお金がインフレを引き起こす要因にならないかぎり、財政赤字も公的債務も何の問題もありません。その証拠に、米国政府の2020年の財政赤字が3.1兆ドルという天文学的な数字になっても、何の影響も出なかったのです。

世間の人は「公的債務」という語句を聞くだけでネガティブにとらえがちです。それは公的債務とは、自分たちの借金であり、いずれは増税か歳出削減のどちらかで返さなければならないお金なのだという説明を刷りこまれてきたからです。

しかし、公的債務とは、国債という形をとった国民の貯蓄の一部であり、国民の富の一部なのです。米国に財政赤字問題は一切ありません。通貨主権を保てている国は、どこも財政赤字問題など抱えていないのです。

国民が望めば、いつでもキーボードを叩くだけで、すべての債務を即時に支払えます。公的債務についてはPRの失敗がありました。使っている用語が悪いのです。

──税を徴収して財源を確保しなくても国家は支出ができるということですが、どうしてそれが可能なのですか。

租税が必要なのは、それが国家が発行する貨幣に価値を与えるからです。それをしなければ、国民は商取引にその貨幣を使ってくれません。

しかし、財政支出の規模に応じて、租税で徴集する額を決める必要はまったくありません。米国の連邦議会は、何の増税もすることなく、数兆ドル規模の財政支出計画を可決できたのです。連邦議会が支出をすると決めたとき、誰かにお金を借りに行く必要はありません。中国にも、ほかのどの国にも、お金を借りる必要はないのです。

連邦議会がすべきなのは、法律に署名をし、どんな政策にどのくらいの金額を使う用意ができているのかを示すだけです。その指示が米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)に出され、実際のオペレーションはFRBが担当します。FRBが、政府が支出したい分の金額だけ貨幣を発行するのです。その過程で増税が必要になる局面は出てきません。

ただし、経済が完全雇用に近づいたときは、何の埋め合わせもなく新しい財政支出計画を実施することには注意を払ったほうがいいです。租税という形で民間経済からお金を回収しないと、インフレが復活するおそれがあります。

──国家が自国通貨さえ発行すれば、つねに債務を支払えるとお考えなのですか。

国家が支出をするには、自国通貨の発行しか手段がありません。MMTは、政府にお金をどんどん刷るよう推奨する理論だと戯画化されることが多いです。しかし、MMTが国家にそのように推奨しているわけではありません。MMTは、単に貨幣の制度と財政の仕組みを、ありのままに説明する理論に過ぎません。

政府のすべての支出は、実際には貨幣の発行で賄われているのです。国家が金融市場に債券を出しているかどうかは関係ありません。国家が増税するかどうかも関係はありません。

すべての支出は、国家の予算担当機関とでもいうべき中央銀行によってなされています。中央銀行が、政府に許可された支払いを実行しているのです。中央銀行が、対象となる口座に電子的にお金を入れるわけです。

米国政府は新型コロナ危機で、米国の家計に給付金として、まず1200ドルの小切手、その次に600ドルの小切手を送付しましたが、そのときも中央銀行が民間銀行の口座にお金を入れ、民間銀行がそのお金をすぐに顧客の口座に入れるということをしていました。その後、米国では1400ドルの小切手も送付されました。

「金利の水準はあまり重要なことではない」
──ジョー・バイデン大統領は、2021年3月に1兆9000億ドルという巨額財政支出計画に署名をしましたが、インフレは始まりそうでしょうか。

これは今、米国で大きな議論の対象になっています。ローレンス・サマーズなどのごく少数の経済学者が、1兆9000億ドルの財政支出計画が米国経済を過熱させると言っていますが、同意する人はほとんどいません。

もちろん、私もまったく同意できません。FRBのジェローム・パウエル議長も、そのような状況にはまだほど遠いと明確に説明しています。

経済が完全雇用になっていればインフレ復活のおそれもありますが、失業者に関して適切な統計を見るかぎり、完全雇用にはほど遠いのが実状です。本当の失業率は10%に近いのです。

それに、この1兆9000億ドルの財政支出計画は、2021年3月に切れてしまう失業者への給付を延長し、2021年9月まで継続させたものです。企業もこれまでどおり、この財政支出計画で得たお金から従業員の給与を支払えます。

つまり、これは追加の支出ではないので、インフレを引き起こすわけではありません。もちろん細かく見れば、追加の支出となっている部分もありますが、基本的には、すでに可決された支出計画を単に延長したものです。

──とはいえ米国債の利回りが上昇する局面もありました。不安を感じませんか。

FRBの元議長のアラン・グリーンスパンが言うように、米国という国家が破産するリスクは一切ありません。

「米国はすべての債務を支払えます。なぜなら米国はいつでもお金を刷れるのですから」。これはグリーンスパン本人の言葉なのです。米国の債務は、すべて米ドル建てなので、FRBが銀行口座の数字を変更するだけで、債務をすべて支払えます。自国の通貨が不足する事態はありえません。

80年代のはじめ、ロナルド・レーガンが米国の大統領に就任したとき、FRB議長のポール・ヴォルカーのもと、米国の10年物国債の利回りは16%を超えました。レーガン政権の8年間、長期金利は7%を下回ることはありませんでした。

その間、レーガンは何をしたでしょうか。大規模な減税をする一方で、軍事支出を膨大に増やしたのです。その結果、米国の公的債務は3倍になりました。でも、それで何か問題が起きたでしょうか。何の問題も起きなかったのです。

金利の水準はあまり重要なことではないのです。いったいどこの国の政府が、金利の水準によって債務危機を引き起こすのを許すでしょうか。

日本の事例を見てください。日本の公的債務はGDP比で250%を超えましたが、10年物国債の利回りはゼロのままです。なぜなら、中央銀行がイールドカーブをすべて制御しているからです。日銀は国債を買う必要すらありません。金利がゼロを上回ったら、中央銀行が介入すると市場がわかっているからです。

  • >>5

    ──金利が中央銀行によって完全に操作されるのは問題ではないのですか。価格統制は、市場経済とは言いにくいように思えます。

    中央銀行が介入しなくても金利はゼロになります。ゼロを上回る金利がすべて人為的なものなのです。仮に、中央銀行が日々の金利の支払いを民間銀行の預金に入れるのを止めれば、非常に短期間のうちに金利はゼロになります。

    MMTでは、自然利子率はゼロとしています。ゼロよりも高い金利はすべて人為的であり、中央銀行が金融政策の実施に見合った金利水準はもっと高いと判断したことを示しているのです。

    それは中央銀行による金利の操作であり、人為的に決めた価格なのです。日銀は金融政策の目標に合わせて金利水準を固定しているだけであり、それ以上のことはしていません。

    MMTのインフレ対策とは?
    ──民間で仕事が見つからない人は国家が全員雇って、どんなときでも完全雇用を保障すべきだと主張されていますよね。

    ハイマン・ミンスキーに着想を得て、提言したことです。私に言わせれば、ハイマン・ミンスキーは、20世紀最大の経済学者の一人です。彼が研究したのは、1930年代の大恐慌であり、とりわけ金融市場を研究していました。

    ミンスキーが不思議に感じたのは、米国の連邦政府がFRBを「最後の貸し手」として創設し、危機が起きても流動性はつねに保たれると金融市場に示したのに対し、言ってみれば、「最後の貸し手」の財政版といえる「最後の雇い手」になる機関を創設しなかったことでした。私は創設されなかったその機関を「連邦雇用保障」と呼んでいるのです。

    新型コロナ危機でいま非常に危惧されているのは、今回、失業した人たちが、長期失業者になってしまうことです。長期失業者になってしまうと、景気が回復しても雇いづらくなってしまうからです。

    ですから、人が失業したときに、衝撃を緩和する仕組みが必要です。失業者が最低限の賃金をもらいながら、失業期間中も働き続け、仕事の能力と働く習慣を保てるようにするのです。そうすれば景気が循環して、企業がまた人を雇うようになったら、企業はそういった人たちを雇えます。

    そういう人たちを雇うには、最低限の賃金に少しだけ上乗せすればいいので、競合他社から有能な人材を高い給与を提示しながら引っ張ってくるという、インフレの要因になるようなことをしなくても済むのです。

    ──MMTでは、どうすればインフレを防げることになっているのですか。

    前述の「連邦雇用保障」が第一のブレーキになります。歴史を見ると、米国政府は、小麦の備蓄をしたりするなど、農産物価格の安定化に積極的でした。

    連邦雇用保障は同じ働きをします。景気が悪くなれば、連邦雇用保障を通じて自動的に政府の支出が増えるのです。人が雇われ、景気が回復したときに雇いやすい人材の蓄えを作るのです。

    逆に景気がよくなったときは、連邦雇用保障から支出される金額は自動的に減る仕組みになるわけですし、税収も増えるので、それがインフレを防ぐのです。

    ──しかし、またインフレが起きてしまったら、どうするのですか。

    1970年代にインフレが起きることになった当初の要因は、原油価格の上昇とベトナム戦争でした。企業の従業員がいまよりも労働組合に加入していたので、賃上げを求めやすかった側面もありましたけれどもね。

    さて、このように国外から輸入されたタイプのインフレを、どうやって抑えられたのでしょうか。金融政策が抑えたわけではありません。FRBのポール・ヴォルカー議長の利上げでインフレが抑えられたのではありません。むしろヴォルカーの政策は景気後退を引き起こすものだったというべきです。

    効果をあげたのは、ジミー・カーターが実施した天然ガス産業の規制緩和政策でした。それが天然ガスの価格を下げ、天然ガスが石油と競争できるようになったのです。

    インフレを相手に闘うとき、今のように金利と金融政策という、たった一つの武器しか持たないのは得策ではありません。金融政策という武器は、インフレを相手に闘うとき、役立たないことが多いのです。インフレの性質を見きわめてから対策を練るべきです。

    通貨主権のないユーロ圏の国家はどうなる?
    ──米国の財政赤字や公的債務について言えることが、そのままフランスには当てはまらないのはなぜですか。

    フランスが、通貨に関しては主権国家でなくなっているからです。フランスが使っているのはユーロであり、フランはもう使っていません。そのため、フランスの財政支出能力はかなり制限されてしまっています。フランス政府は金利も設定できません。

    フランスが米国や日本と違うのは、そこのところです。貨幣を発行しているのは欧州中央銀行なのです。新型コロナ危機が始まった頃、欧州中央銀行のクリスティーヌ・ラガルド総裁は、ユーロ圏の長期国債の利回り格差は自分の職務の範囲ではないと発言した後、すぐにそれを撤回し、その後は利回り格差が広がることは許さないという姿勢を示しました。

    欧州中央銀行は欧州の共通通貨を発行しているので、どんな債務も持続可能にできるのです。誰も欧州中央銀行を相手には闘えないのです。クリスティーヌ・ラガルドは、各国政府にコロナ対策の支出に何の不安も感じなくてもいいと理解させたのです。

    そのように行動したことで、欧州中央銀行は、ユーロ圏の国家の通貨主権を回復させたようなところがありました。ただ、問わなくてはならないのは、それがいつまで続くのか、というところです。私が不安に感じるのは、そこのところです。

    ──一部の経済学者は、ユーロ圏の国家の債務を減らすために、欧州中央銀行が新型コロナ危機の最中に買い入れた国債を放棄する債務帳消しを提言しています。どうお考えですか。

    欧州中央銀行が、いまの政策を続けることに決めるだけでも、長期的に債務を持続可能にすることはできます。債務の帳消しは、欧州中央銀行ができるもう一つの方法です。

    最悪なのは、ユーロ圏の政府が、膨れ上がった債務残高を減らすために緊縮財政を実施しなければならなくなることです。それに比べれば、どんな解決策も好ましいです。欧州中央銀行には、債務帳消しができるバランスシートがあります。債務帳消しをしたときにネガティブな影響を受ける人はどこにもいません。

    中央銀行は、資産がマイナスになっても問題はありません。損失を無限に吸収できるのです。ただ、債務帳消しという解決策には問題が一つだけあって、それは政治の問題が出てくるということです。

    Marc Vignaud