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株の掲示板

日銀トップの堂々記者会見で「株爆上がり」が現実化したワケ

値上がりする株を見極めるのは、とてもむずかしいことです。そしてその見極めをむずかしくしている要素のひとつに「みんなが値上がりすると考えると、本当に値上がりする」という現象があります。なぜそのようなことが起こるのか、そして、それらを踏まえたうえで少しでも有利に投資を行うには、どうしたらいいのでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

美人コンテントの優勝者を当てたら、自分にもご褒美が
著名な経済学者であるケインズは、株価の動きを「美人投票のようなもの」と表現しました。しかし、この言葉の真意を理解するには、ケインズが生きていた当時の美人投票のルールを知っておく必要があります。

現代の美人投票は、審査員が「この人がいちばん美人だ」と思う候補者に投票し、最多得票者が優勝してトロフィーをもらいますが、ケインズの時代では、優勝者に投票した審査員も「審美眼が高い」として景品をもらえたのです。

そうなると審査員は、自分が美人だと思う候補ではなく、優勝しそうな候補者に投票しようと考えます。つまり「ほかの審査員が投票しそうな候補者」です。そのため、候補者を見るよりも審査員席の噂に耳を傾けるようになるわけですね。

自分はAが美人だと思っても、Bが登場したときにほかの審査員が大きな拍手をしたら、Bに投票したほうが得ですね。さらにいえば、「Cが審査員に賄賂を贈っているから、Cが勝つだろう」という噂を耳にすれば、Cに投票した方が得でしょう。

「自分も賄賂がほしかったのに。くれなかったCには投票しない!」などという意思決定は、経済合理的とはいえませんからね(笑)。

重要なのは、その噂がウソであっても関係ない、ということです。もしかすると、Cはだれにも賄賂を贈っていなかったかもしれません。それでも、審査員たちの多くが噂を信じてCに投票すれば、実際にCが勝つのです。

反対にいうと、噂がウソだと知っていても、人々が噂を信じていることを知っていた場合は、噂を信じたフリをしてCに投票する方が得だ、ということになります。

「市中にお金を回せば、株価もドルも全部上がるよ!」
(※画像はイメージです/PIXTA)

美人投票を理解するための格好の材料が、アベノミクスにおける金融緩和の効果です。

アベノミクスで黒田日銀総裁は思い切った金融緩和をしました。大量の札束を銀行に届けて、世の中にお金を出回らせようとしたのです。「世の中に大量のお金を出回らせれば、物価も株価もドルの値段も上がります」と堂々と記者会見しました。

しかし、私は元銀行員なので、知っていました。もちろん、ほかの銀行員の多くも知っていたはずです。銀行の金庫に札束を運び込んでも、銀行はそれを日銀に送り返して「準備預金」として預けてしまうということを…。なぜって、そもそも借りてくれる企業がないのですから。

銀行は金利ゼロの国債を大量に保有しています。借りてくれる会社があるなら、喜んで国債を抱えたりしないでしょう。借りてくれる会社がないから、仕方なく国債を持っているわけです。

そんなときに日銀が札束を置いて、代わりに国債を持ち帰ったとしても、札束は日銀に送り返されるに決まっています。だから、お金は世の中には出回らないのです。

したがって、「金融緩和の効果は皆無である」という理屈は正しいはずでした。しかし、そうならなかったのです。なぜなら人々は、記者会見での自信満々な黒田日銀総裁の演説を聞いて「そうか、世の中に資金が出回るから、株価とドルが値上がりするはずだ!」と考えたからです。

そこでみんな株とドルを買いました。買い注文が増えたことにより、株とドルが値上がりしました。理屈上は起きないことが起きたのです。Cが賄賂を贈っていないのに得票が増えた、というのと同じですね。これが美人投票です。

美人投票のウラ側を知っても「あえて乗っかる」
さて、筆者はどうしたでしょうか。世の中にお金が出回らないことを知ってるし、株価やドルが値上がりする理由もないから買わない…とは考えませんでした。「人々が株とドルを買っているから、自分も買おう!」と考えたのです。

おかげで、儲かりました。元手は小さかったけれども、それでも何度も飲みにいきました。「黒田総裁、ありがとう!」といいながら乾杯をしたものです(笑)。

美人投票の世界においては、「なにが真実であるか」よりも「人々がなにを考えているか」のほうが重要であることを知っていたため、飲み代を稼げたわけですね。その意味では、ケインズにも感謝です(笑)。

ちなみに、株は値上がりしましたが、野菜のカブは値上がりしませんでした。理由のひとつには「カブの値段は美人投票では動かない」ことがあげられます。

株は腐りませんし置き場にも困りませんので、大量に買う人がいますが、野菜売り場のカブを「値上がりするだろうから、来年食べる分も買っておこう」と考える人はいませんから。

もうひとつ理由があります。黒田日銀総裁は「消費者物価指数は1年で2%上がるだろう」といいました。1年間で2%しか上がらないなら、カブを買い急ぐ必要はありません。一方で、株とドルは大幅に値上がりする可能性があるので、買い急ぐ人が大勢いた、というわけですね。

以上のことから、スーパーの野菜売り場に陳列されるカブについては、美人投票で値段が動くことは稀です。もっとも、可能性は皆無ではなさそうです。たとえば人々が「超インフレがくる!」という噂を信じるようになったら、「なんでもいいから現金を現物に換えておこう」と考えるようになるからです。筆者としては、そうした事態が起こらないことを祈るばかりですが。

長期投資の場合は、噂より真実を追い求めるべき
しかしながら、「株価は美人投票だ」というのは短期投資の場合です。10年持っているつもりで株を買うのであれば、噂より真実を追い求めるべきです。「人の噂も75日」といいますからね(笑)。

会社が発表する決算資料等々を見ながら「この会社は10年後も利益を稼ぎ、配当を支払っているだろうか」を考えることが重要です。

とはいえ、「この銘柄を買おう」と決めてからは、やはり美人投票が重要になります。「いますぐ買うか、半年待ってから買うか」という選択が必要になるからです。

余談ですが、長期投資の場合、筆者は積立投資を推奨しています。時間をかけて少しずつ買うのです。美人投票の世界では株価は理屈通りには動きませんから、株価を予想するのは非常に困難です。

それならば、割り切って短期的な株価の変動を予想するのをやめて、毎月少しずつ買っていけば、高いときも安いときも買うことになるので、平均的な株価で買うことになります。そうすれば、「買ったときが運悪く株価が高い日だった」といったリスクが避けられます。

個別株の場合は最小購入単位があるので、毎月少しずつ買うということが困難な場合もあるでしょう。ただ、投資信託ならそういった問題はありませんし、また、個別株であっても銘柄によっては最小購入単位が小さい場合もあるので、ご参考まで。