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米なう☆の掲示板

日本ではアベノミクスが失敗したかという議論が盛んになりつつあるようにみえる。アベノミクスの評価は次の機会に述べたいが、景気回復を考えるうえでは、米国の動向を押さえることが最重要となる。日本は閉鎖経済ではないから世界の需要動向に影響されるし、国内の政策だけで景気回復を実現できるとも考えにくい。またドル・円相場を左右するのは、日米双方の状況だ。

日本の景気回復にとって中国は重要ではない

(1)経済規模が大きい、(2)先進国の中で一番成長率が高くしかも加速している、(3)雇用・賃金が明確に回復トレンドに乗っており需要回復の中心となる。これらが日本の景気動向、市場環境を考える際に、米国が決定的に重要となる理由だ。

経済規模の大きさの説明は必要ないだろう。米国経済は単独で世界経済の22.5パーセントを占める(GDP、2014年)。成長率については、IMFの予想に基づけば、先進国平均は新興国より低いものの総じて加速している。加速とは文字どおりアクセルを踏んだ状態だから牽引力がある。一方で新興国は、成長率は高いがアクセルから足を離し減速しており牽引力に欠ける。リーマンショックからの回復というトレンドの中で、雇用・賃金ひいては消費の回復、つまり需要回復のリーダー役となるのが米国なのだ。

日本の経済回復はいつも外需がリードしてきた。外需の牽引役としてアジア、特に中国に注目する向きが多い。だが、私は中国が今回の景気回復に重要とは考えていない。中国は日本にとってはいまだに生産拠点としての性格が強いからだ。現時点で世界需要の回復をリードするのは米国経済しかない。意外に感じるかもしれないが、米国では、リーマンショックからの回復がまだ始まったばかりなのだ。

2008年から10年までの間に、米国では870万人の雇用が失われた。その後、雇用は毎月ざっと20万人ずつ回復してきて、統計上では2014年4月にやっと失われた分を取り戻した。2年ちょっとで失ったものを4年ちょっとかけて元の水準に戻した。これが米国の失われた7年ということになる。

  • >>12

    しかし、これで本当に雇用環境が元に戻ったのではない。その7年の間に高校や大学を卒業した人、メキシコなどから米国に来た人が仕事を求めるからだ。これが労働市場のたるみ(=スラック)だ。賃金を上げなければ人を雇えなくなって初めてスラックがなくなる。ようやく賃金が上がり始めたのは2015年も秋のこと。スラックの解決にさらに1年ほどかかったことになる。つまり、雇用ショックとしてのリーマンショックは決して遠い過去のことではないのだ。

    米国の利上げを後押しした賃金上昇

    このところ、毎月の雇用者数や賃金は安定してきた。これこそが2015年12月、米国連銀が利上げに踏み切ることができた理由だ。人民元切り下げなどのリスク要因はあったが、少なくとも米国内の状況は順調に見えた。利上げの背景には、賃金の上昇が素直に米国の消費拡大を伴うインフレをもたらすとの期待があった。

    ところが実際には、賃金の上昇はここまで消費拡大につながってきていない。そこで金融市場は待ちくたびれ、機嫌が悪くなってきた。雇用さえ増えればおのずと賃金が上昇し消費が増え、ひいては日欧の輸出が活性化、中国など生産国や資源国が回復するという好循環への期待はすっかりしぼんでしまった。

    しかも、賃金上昇が消費に向かわない、その理由がよくわからない。

    これを説明する仮説としては、(1)まだ久しぶりに賃金が上がりだしたばかりでまだ十分認知されていない、(2)社会的地位や給与水準など仕事の質がまだリーマンショック前に戻っていない、(3) 豊かさの経験に乏しいミレニアル世代(30~40歳くらい)が貯蓄率を上げる、(4)今後はどの世代もあまねく貯蓄率を上げる、といったものがある。

    ここで最初の2つは時間が解決する問題であるが、後ろの2つは構造変化を意味していることに注意したい。つまり今のところ、賃金が増えても消費を増やさず貯蓄に回すことがごく一時的なのか未来永劫なのかがよくわからないのだ。

    私は今のところ、消費が盛り上がらない理由は前の2つが大きく、(3)は少しあるかもしれないが(4)はなさそうだと見ている。