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>>92052

https://bunshun.jp/articles/-/46343

「20歳で月収150万越えも…」  最年少ゴールドランク保持のマルチ“成功者”が借金700万に転落した“末路”
西尾潤さん『マルチの子』インタビュー#1
西尾 潤2021/06/25

 20歳でマルチ商法を始め、最年少でゴールドランクに昇格し、7桁の月収を実現した西尾潤さん。実体験をもとに「マルチ商法」にハマった女性の“乱高下人生”を、小説『マルチの子』でリアルに描いた。マルチ商法の光と闇について、西尾さんに聞いた。(全2回の1回目。後編を読む)

西尾潤さん

バイト先の先輩から「20歳になったら紹介したるわ」と
──『マルチの子』は実体験を元に描かれたと伺いました。どこまで「リアル」なんですか?

西尾潤さん(以下、西尾) モデルにした人物は多いですね。セミナーやスポンサリングの様子などは、現在のマルチ商法を取材して自分の体験とミックスしました。最年少の20歳でゴールド保持者になって月収150万円を得ていたことや、22歳で借金を抱えたのは、全部実話です。付け加えると、作中の真瑠子の借金は400万円。でも実際の私は700万円ありました。




──そうなんですね。聞きたいことが多すぎるので順番にお尋ねします。そもそも、なぜマルチ商法をやろうと思われたのですか。

西尾 バイト先の先輩に教えてもらったのがきっかけです。

 私、高校時代は軽音部に入っていたんですよ。高校卒業後にデザイン事務所に就職したんですけど、何を血迷ったのか「ロックで食べていく」と1年で会社を辞めてバンド活動をしていた時期がありまして。当然食べていけず、生活のために外資系会社の営業アルバイトをしていたんですが、そこで出会ったFさんが、「めっちゃすごいビジネスの話がある」と教えてくれたのがマルチ商法といわれるネットワークビジネスでした。

──ネットワークビジネスって、いわゆるねずみ講のことですよね。

西尾 作中でも書いてますが、ねずみ講とマルチはまったく違うものです。マルチはマルチ・レベル・マーケティング(MLM)の略です。ネットワークビジネスとも呼ばれていて、昔から欧米諸国などで活用されている流通形態

  • >>148825

    西尾 ねずみ講は商品などの流通がなく、お金だけが流通する「無限連鎖講」という違法な仕組みです。それに対しネットワークビジネスは、商品がきちんと流通する「連鎖販売取引」という合法的な仕組みです。



     私がやっていたのは違法のねずみ講ではなく、合法のマルチ・レベル・マーケティングでした。ここ大事なんで書いておいてください(笑)。

     Fさんは当時20代後半で、バイトの他に業界最大手のネットワークビジネスをやっていた人でした。ある程度成功していたようなんですが、「今やっているビジネスではこれ以上儲からない。それより今、めっちゃすごい話が来てるんやけど、20歳にならないとできないから、西尾ちゃんが20歳になったら紹介したるわ」と言われて、すごく興味を持ったんです。



    https://bunshun.jp/articles/-/46343?page=2

     それが泡風呂の機械を売るネットワークビジネスで、当時はテレビCMもされていたくらいメジャーだったんです。人に売るだけで紹介料がもらえて、月収100万円を超える人もいると聞いて、なんていい仕事なんだろうと思いました。「めっちゃやりたい」と言ったんですが、「西尾ちゃんは未成年やから始められへん。そのかわりにこれ読んどき」と薦められたのが『マーフィー 100の成功法則』『人を動かす』『アメリカの心』の3冊でした。

    ──まっさらな19歳の少女にすごい本勧めてきますね(笑)。

    西尾 ですよね(笑)。私も今ならそう思いますけど、当時はその3冊を熟読して、「自分ならできる」と超ポジティブ脳になってしまったんです。



     何百万円もの初期投資が必要だったらさすがに私もやろうとは思いませんが、「自分が使う商品をひとつ買うだけでビジネスが始められる」と聞いたら、できるような気がしませんか? 実際、Fさんのアップ(系列の上位にいる先輩会員)の人は7桁を超える収入があって、すごい豪華なマンションに住んでいましたし、そのうえプロのミュージシャンとしても活躍していたと聞いてますます興味を持ち、20歳になるとすぐ入会しました。

  • >>148825

    20歳で月収150万円超、でも魅力は収入よりも…
    ──入会されたあと、驚異の売上げを達成してあっという間に高ランク保持者になれたのは、Fさんの推薦図書のおかげですか。

    西尾 違います(笑)。運がいいといっていいのか、そこがダメだったというべきか、やり始めて数か月後に、作中にも出てくる「竹やん」(竹田昌治)みたいなスター的な人が私のダウン(自分から始まる系列)に入り、グループが一気に拡大したからです。

     彼も、Fさんと同じく、ほかのネットワークビジネスをやっていた人で、かなりの人脈を持っていました。彼のおかげで1年半くらいで800人くらいにグループが広がり、売上げが伸びたんです。おかげで彼のアップだった私が最年少で高ランク保持者になり、あの当時、20歳で月収150万円を超えたこともありました。



    ──憧れの月収7桁を20歳で! 生活が派手になったり、金銭感覚がマヒしたりしませんでしたか。

    西尾 「月収150万円」といってもそれがずっと続くわけではなくて、「そういう時期が何か月かあった」というだけなんです。それに、セミナーや講習会で寝る時間もないくらい忙しいので、派手に使う暇もないんですよ。でも実家を出て1人暮らしを始めて、家に10万円仕送りしていました。社会人になってから毎月3万円家に入れていたので、一気に金額が上がって母には喜ばれました。



    https://bunshun.jp/articles/-/46343?page=3#goog_rewarded

    ──収入が魅力でマルチ商法を始めたのに、お金を使う暇もないとなると、モチベーションが下がるのでは。

    西尾 今回『マルチの子』を書くにあたって、あらためてなぜ自分はネットワークビジネスをやっていたのかを考えてみたんです。そしたら、決して収入だけでやっていたわけではなかったのを思い出しました。

    『マルチの子』(西尾潤)
     もちろん、「ビジネスへの参入障壁が低くて高収入が見込める」というのはいちばんの魅力です。でも、「人間的成長と知識向上」というオプションが大きかったように思います。

  • >>148825

    https://bunshun.jp/articles/-/46343?page=3#goog_rewarded

    「あなたは特別な人です」と言われた気がした
     ネットワークビジネスをやる人って、お勉強好きな人が多いんですよ。「商品を売る」プロにならないといけないので、深い商品知識や商品の背景はもちろん、初対面の人と話すコツとか、キャンセルやクレーム対応といった営業ノウハウも身につけておかなければいけません。だから、商品知識や営業力向上のためのセミナーや勉強会が常に行われていました。そういう勉強会に参加していると、「自分が知識を得ている」ということに独特な高揚感を抱くようになるんです。



     今でも覚えているのが、作中にも出てくる「滝瀬さん」みたいなかなり上のランクの人から「ネットワークビジネスをしている人は真剣に生きているから、なんとなく生きている人とは目が違う」と言われたことです。「このビジネスを選んだあなたは特別な人です」と言われた気がして、「そうか、私は真剣に生きているから目つきが違うんだ!」と有頂天になったんですよね。今なら「そんなの、わかるわけないやん!」って一蹴できますけど、20歳で「神」と崇められている人からそう言われたら、「自分は特別だ」って絶対思っちゃいますよ。ある種の洗脳状態だったのかもしれませんが……。

    ──選民意識を煽るのがうまいということですか? 承認欲求の高そうな人や自己肯定感の低そうな人を「ターゲット」にしているのでしょうか。

    西尾 当時私と一緒にネットワークビジネスをやっていたのは、普通の人ばっかりでしたよ。みんな明るくて優しいし、面白いし。すごいガツガツしている人とか、めっちゃ自己肯定感の低い人とかはいなかった。

     でも、「勉強熱心」な分、だんだん組織内だけのつきあいになって、ほかとのつきあいがなくなるので、まわりが見えなくなるという部分はあったと思います。

    それと、わたしのいちばんダメだったところは、入ってくるお金は管理できても、出ていくお金の管理ができていなかったところです。ネットワークビジネスで気がつくと地獄から抜けられなくなっている人が多いのは、みんなここが原因のような気がします。

  • >>148825

    https://bunshun.jp/articles/-/46344

    「ローン返済が月40万円でも、また稼げば大丈夫と自信があった」 経験者が語る借金を抱えても"マルチ”を辞めなかったワケ
    西尾潤さん『マルチの子』インタビュー#2

    150万円もの月収を得ていたはずが、気がついたら借金700万円のローンを抱えていたという西尾潤さん。実体験をもとに「マルチ商法」にハマった女性の“乱高下人生”をリアルに描いたサスペンス小説『マルチの子』では、いちどハマったら抜け出せない承認欲求地獄を赤裸々に描いている。なぜそんな窮地に陥ってしまうのか。西尾さんがマルチと縁を切った後の人生の立て直しについても聞いた。


    西尾潤さん

    借金を抱えてもマルチをやめなかった理由
    ──マルチを辞めたのは700万円にふくれあがった借金が原因とお聞きしました。最年少ランク保持者として月収150万円もあった西尾さんが、なぜそんなに借金を抱えることになったのですか。

    西尾潤さん(以下、西尾) 月収150万円といっても、ずっとその金額が保証されているわけではなく、たまたまそういうことが何回かあった、というだけです。確かに数か月間はそのくらいもらっていた時期もありましたが、その分出ていくお金も多かったんです。

    ネットワークビジネスって、「いくら入ってくるか」というのは自分とダウン(自分から始まる系列)のランクに関わってくるので必死で計算するんですけど、「出ていく」支払いの方はまったく考えないんですよ。もちろん、これは、人にもよりますけど。

    『マルチの子』でも書きましたが、ランクを上げるための売上げノルマがあって、自分のダウンの子から「次のステップに上がるのにあと何十万円足りない」と言われてお金を貸したこともありますし、自分やダウンの子の売上げのために、自分自身が “客”として商品を購入することもしょっちゅうでした。ダウンの子が別のマルチと兼業していて、つきあいで何十万円もする下着を買ったこともあります。だから、売上げがあがるにつれて借金がふくらんでいくケースが多いような気がします。

  • >>148825

    https://bunshun.jp/articles/-/46344?page=3

    ──銀行・信販系の350万円も返済されたんですよね。どのくらいで完済できたんですか。

     西尾 昼も夜もひたすら働いて、3年くらいで完済できたと思います。父に泣きついたのが2月で、翌日から就活をして中途で化粧品会社に採用が決まり、4月から正社員で働き始めました。

     昼の仕事は基本給20万円くらいでしたがボーナスもあり、あとは夜、北新地のクラブでヘルプのバイトをして稼ぎました。1日行くと2万~3万円もらえたので、ありがたかったです。



    「これだけの借金返すには体も壊されへん。バイトも毎日は体壊すから、週に3日ぐらいにしとき」と母に言われ、夜のバイトは月・水・金の週3日通っていました。

     昼の給料とボーナス、夜のバイト代のうち、家賃光熱費として月3万円を母に渡し、生活費として月5万円を除いた残りを全額、母に「返済」していました。

    ネットワークビジネスで成功した人は、どの世界でも成功できる
    ──昼も夜も働くって体力的にも精神的にも大変ですね。

    西尾 体力的にはネットワークビジネス時代の方が大変だったから、大したことなかったです。



     ネットワークやっていた時は本当に体力の限界のなかでやっていたので、セミナー中にホワイトボードを指しながら寝てしまう、ということが何度もありました。説明途中で「西尾さん」と言われて我に返る、みたいな。商品の説明も、ビジネスの説明も、同じことを繰り返して話すだけなので、体が覚えているんですよね。だから今でもネットワークの説明できます、私(笑)。

     でも精神的にはきつかったです。心血注いでやってきたのに、全部パー。それどころか借金700万円ですから。

  • >>148825

    https://bunshun.jp/articles/-/46344?page=3

    ──借金を完済したあと、お金を貯めて2年後にカナダ留学。そこからヘアメイク、スタイリストとして実績を積み上げ、2019年には『愚か者の身分』で第2回大藪春彦新人賞を受賞。作家としてのキャリアもスタートされています。

    西尾 本当にいろいろやってきたので、すべて糧になっている感じです。今回も本当はヘアメイク業界の話を書こうと思っていたんですけど、担当さんにマルチ時代の話をしたら食いつきがすごくて。時間が経ちすぎているので最初は思い出すのも難しい感じでしたが、だんだん思い出しながら書きました。

    ──様々な場で活躍される西尾さんの生き方に励まされる読者は多いと思います。

    西尾 「自分でした借金だから返せる」という変な自信はあったんですけど、でもそれが逆にネットワークビジネスにはまったいちばんの理由でもあると思います。もちろん、すべてのネットワークビジネスが悪いわけではありませんし、大成功している方もたくさんいます。

     ただ、ひとつだけ言えるのは、ネットワークビジネスで成功されている人は、どの世界でも成功できる人だということです。これは間違いありません。文春オンラインを読んでいるみなさんにはもっと賢く生きてほしいと、最後に付け加えてほしいです(笑)。



    (取材、構成:相澤洋美、撮影:石川啓次/文藝春秋)