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世界の外準(外貨準備高)を中心とした米国外の公的マネーは、保有米国債の戻り売り基調が持続している。

米FRBが代理保管する外国中央銀行の米財務省証券保有高は、昨年11−12月の米債金利低下(米債価格は上昇)局面でも減少が続き、約1年ぶりの低水準となってきた。

過去実績として米債金利に先行性を有しているが、今回も米債金利は年末年始から遅行で上昇(米債価格は下落)となっている。現在もなお続く保有高の減少トレンドは、先行き一段の金利上昇を示唆するシグナルとして無視できない。

「米国債がこれまで確立してきた絶対的に安全な資産としての地位が揺らぎ始める恐れが出てきた。米債務上限を巡る果てしない政治対立でダメージを受けている上に、環境債(グリーンボンド)などの分野でユーロ建て債の発行が一段と優勢になっているためだ」。ロイター通信は昨年10月、このような指摘を行っている。

同時期には世界の大手民間金融機関が参加する国際的な組織・IFF(国際金融協会)も、「米国はイタリアやギリシャとともに、2020年に国外からの国債投資が減った数少ない国の1国となった」というレポートを取りまとめた。その背景としてIFFのアナリストらは、「FRBによる緊急の量的緩和措置が、米国債の安全性に対する信頼低下という長期的傾向を覆い隠した」、「米国の債務が、持続不可能な水準かもしれないとの投資家の懸念も影響し得る」といった分析を行っている(ブルームバーグが引用で紹介)。

そうしたなか、米国債市場の中長期的なトレンドに影響を及ぼすリアルな長期運用資金のうち、世界の外準(外貨準備高)を中心とした米国外の公的マネーでは、保有する米国債の減少がトレンドとして持続している。

米FRBが代理保管する外国中央銀行の米財務省証券保有高は、最新1月5日週の最終日ベースで3兆0161億ドルとなった。前週比では+29億ドルの微増となったが、昨年11−12月には9週のうち8週が前週比で減少となっている。保有高は昨年12月29日週に3兆0132億ドルとなり、2020年11月以来、約1年ぶりの低水準となってきた。

昨年後半に米10年債金利は10月21日の1.70%超えを最高として、12月には1.33%へ低下するなど、金利低下と米債価格の上昇が加速されている。その中での保有高減少は、改めて海外公的マネーによる「長期トレンドとしての戻り売りや新規投資の減少」を示唆するものだ。

過去実績として海外公的マネーの米債保有動向は、米債金利に先行性を有してきた。今回も米10年債金利は、昨年末12月29日前後から遅行で急上昇に転じている(米債価格は下落)。その意味で現在も続く保有米債の減少モメンタムは、先行き米10年債金利の一段の上昇余地を示唆するシグナルとして無視できない。

今年はFRBによる利上げ開始が見込まれている。現在は3月への前倒しや、年3回から4回への回数増加が焦点になってきた。政策金利FF(翌日物)の上昇余地は、連動する形で米10年債金利の上昇余地につながってくる。
最近では2015年12月にFF0.50%水準への利上げが開始されたが、米10年債金利は6カ月前の2015年6月に2.50%前後へ上昇していた(現在は6日の最高が1.75%前後)。その後、「3回目」となるFF1.00%水準への利上げがなされた2017年3月には、10年債金利は2.63%方向に切り上がっている。

FRBによる利上げ局面を含めて、米10年債金利が上昇する局面では、月間最高金利の比較で最低でも「前年同月比+0.8%から+1.0%前後」という上昇パターンが繰り返されてきた。昨年は過去比で金利上昇が抑制されたが、それでも金利上昇の局面では、昨年10月に前年同月比+0.83%前後、4月に+0.97%前後の上昇幅が観測されている。

その前では2018年11月に+0.81%前後、2017年7月に+0.77%前後、2013年12月に+1.19%、2010年1月に+1.01%前後といった上昇実績が見られてきた。その点、昨年の米10年債金利の月間最高は、2月が1.61%前後、3月が1.77%前後、4月が1.75%前後などとなっている。控えめに「前年比+0.5%から+0.8%の上乗せ」と試算しても、今年4月に向けては2.2%から2.6%方向への上昇余地が残されている。

なお、海外公的マネーによる米国債の戻り売り要因としては、米議会での債務上限や歳出法案を巡る対立混乱のほか、FRBによる超緩和策の後遺症、米財政赤字と米国債発行の一段の拡大懸念、インフレ高止まり警戒などがある(いずれも米国債の価値希薄化の要因)。同時にFRBによる米国債の買い入れ縮小や先行き利上げ、金利上昇前の米国企業による「駆け込み」社債発行の動きもまた、米国債金利の上昇と米債価格の下落要因として警戒されるものだ。

現在は米国債に代わる資産として、ユーロ圏での環境債のほか、相対的に金利の高い中国などの国債、ビットコイン(暗号資産、仮想通貨)といった資産も台頭している。その他、海外保有の米国債減少については、根深い供給・輸送・人手制約や半導体などの品不足を受けた世界全体での貿易取引の伸び悩み(各国の外準抑制)、各国の感染再打撃や金融経済ショックなどに備えた現金確保と外準の自国内活用などが着目される。何より現在は中国など、新興国全体で経済の急成長が一段落となってきた。世界的に外準の増加ペースも鈍化しており、米国債への還流規模は減速となっている。

もっとも海外公的マネーによる保有米債の減少が続いても、海外の年金資金などを含めた民間マネーによる米国債への需要は根強い。
ゴールドマン・サックスは6日、「今後も米債金利の上昇は抑制される(米債価格の下落は限定的)」との見通しを示した(ブルームバーグが引用で紹介)。背景としては、米国債市場のターミナルレート(利上げサイクルの最終到達点)はさほど上昇しないと予想されることや、その見立てが内外で広がりつつあること、需給不均衡で価格シグナルがゆがんでいることなどを挙げている。パウエルFRB議長もこれまでに、「他の国・地域の国債利回りがマイナスかゼロ近辺にある中で、米国債に対する国外の需要は引き続き強い」とアピールしていた。

また、米国の長期国債に先行き不安があっても、ドル建ての現預金や短期流動性資産など、ドル保有への信認や需要は残存したままだ。世界各国で感染再増加や金融経済ショックへの不安が残されているほか、中国など新興国を含めたドル建て債務の膨張、資源相場の高騰などもあり、利払い通貨・借入返済(借り換え)通貨・ファイナンス通貨・資源調達通貨・短期決済通貨などで、現金を含めたドル自体の需要は根強い。

今後はFRBの利上げにより、米国では短期債や預金などで僅かながらも金利がつくことになる。内外の余剰資金や米国株などの調整下落待ち資金、コロナ混乱の一段落待ち資金、危機に備えた手元確保資金などに関して、ドル建ての短期流動性資産は世界的な受け皿となっていく。底流部分でドル高の持続性を支援するものだ。

米国の投資信託協会(ICI)によると、米国の証券市場内で現預金に近い短期流動性資産のMMF(マネー・マーケット・ファンド)は、資産残高が最新1月5日週も4兆7026億ドルと過去最高水準が維持された。コロナ危機前である2019年12月末の3兆6044億ドルからは、+1.1兆ドル、+30.5%の大幅増で高止まりが続いたままだ。内訳には海外マネーも直接的・間接的に含まれており、ドル/円を含めたドル高基調をサポートする一因になっている。