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貼っていくスレ
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1年前に米国が、インドへの一般特恵関税制度(GSP)の適用を停止したことが、貿易戦争の始まりだった。米国はその際、インドが米国企業を差別していると主張した。これに対しインド側は、米国が導入した鉄鋼輸入関税への対抗措置として、以前に警告していた関税措置を実施に移すことで報復した。

 ドナルド・トランプ米大統領は、来週のインド訪問の際に同国のナレンドラ・モディ首相と会談し、何らかの和解策で合意するかもしれない。しかし、背景には中国との貿易戦争と似通った要素があるため、底流にある対立は続きそうだ。

 モディ首相は本質的に、中国を世界第2位の経済大国に押し上げたのと同じ手法を採用しようとしている。その手法とは、外国からの投資を歓迎する一方で、インド企業のために国内市場の保護を強めるというものだ。インドは、中国のような経済的・地政学的脅威をもたらしてはいない。しかしトランプ大統領は、米国を利用していると判断したすべての国に罰を与えると決意しているため、インドは現在トランプ氏との衝突に向かっている。

 インドの保護主義的傾向は、ずっと以前から続いている。インドの初代首相でインド国民会議派のリーダーだったジャワハルラール・ネルー氏は、社会主義と輸入代替工業化政策がインドの発展と自立のカギになると考えていた。1990年代初頭の外貨準備枯渇の危機を受けて、ヒンズー至上主義のインド人民党(BJP)を中心とした連合組織とインド議会の下で自由化が一気に進められ、これが2000年代の急成長の引き金になった。しかし、広範な規制、許認可制度、銀行など主要産業の国家統制と、気まぐれな政策立案が起業家精神と投資の障害になり続けた。

 モディ氏は「最低限のガバメント(政府)、最高度のガバナンス(統治)」という主張を掲げ、2014年にBJPを政権の座に復帰させることに成功した際、こうした慣行を変えると約束した。モディ氏は、2018年にスイスのダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)年次総会でも同様の発言を行い、「保護主義勢力」からグローバリズムを守る考えを表明した。

 国内では、破産に関する法規の効率化や、売上税の簡素化(物品・サービス税の導入)といった重要な改革に着手した。

 しかし、国外対応でモディ氏率いるインドは、再度保護主義を受け入れた。モディ政権は2018年度と19年度に、多数の物品に対する関税を引き上げた。2018年にインドの「最恵国」に適用された平均関税率は17%に上昇し、世界貿易機関(WTO)で最も高い部類に入った。

 米通商代表部(USTR)は、昨年の外国貿易障壁報告書で、モディ氏の「メーク・イン・インディア」プログラムや外国貿易政策のほか、既存の国家製造業政策が、国防、電子機器、医療、情報通信、およびクリーンエネルギー製品の分野でローカル・コンテント要求(国内産品の購入や使用を要求する措置)と技術移転に関する要求を課していることに不満を表明した。

 新しく提案されている規則は、インドの顧客個人情報と、クラウド・コンピューティング・サービス提供者や特定の通信ゲートウェイがインドで創出したデータを、物理的にインド国内にとどめることを義務付けている。スイスに本拠を置く貿易監視団体「グローバル・トレード・アラート」の推測によると、インドの輸入品の半数以上は、2008年以降に導入された少なくとも3つの有害な措置の影響を受けている。

 モディ政権はまた、多国間貿易協定への参加に後ろ向きだ。2016年には、関税障壁の緩和のためのWTO合意に関する交渉から離脱した。昨秋には、中国から大量の輸入品が流れ込むことを危惧し、アジアの自由貿易圏構想「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」交渉から撤退した。それを補うため、同国はさらなる2国間貿易協定の締結を目指している。

 モディ氏は、決して欧米スタイルの自由化推進主義者とみなされるべきではなかった。インドの経済ジャーナリスト、スワミナタン・アイヤール氏は2018年に米シンクタンク「ケイトー研究所」の論説で、国政与党BJPについて、産業界およびグローバリゼーションを本質的に支持している他の右派政党と違うと指摘。そのうえで、中小企業や貿易業者などの中核の支持者を大企業との開かれた競争から保護したがっているとして次のように話す。「BJPは官民両方のセクターの企業に海外のライバルと戦うための政府支援を提供することで、国を代表する大企業を創設したいと考えている 保護貿易主義を容認する現在のインドの姿勢は、自給自足体制の確立を目標にしていたかつての同国の政策とは異なっている。前出のアイヤール氏は、国際的なサプライチェーン(供給網)においてインド製造業の居場所を確保することをモディ氏が目指していると指摘する。

 モディ氏は、中国が行ったように、国内製造業の生産能力向上に貢献することを期待し、外国からの投資に門戸を開いた。モディ政権の元経済顧問で現在はハーバード大学で講師を務めるアルビンド・スブラマニアン氏は、「中国モデルはインド国内で極めて強力な共感を得ている」と語った。その考え方は、「彼らは中国トップの主要企業を作り上げた。われわれに同じことができないはずはない」というものだ。

 しかし、モディ氏は中国が経験しなかった障害に直面している。具体的にはまず、雇用、解雇、土地の取得などに関するインドの各種規定は、小規模企業より大規模企業にとってより大きな負担となっていることが挙げられる。「巨大になり、規模を確保することは極めて困難だ。もしそれができなければ、製造業や輸出分野で強力な存在になることは決してない」とスブラマニアン氏は指摘する。同氏は共著による最近の論文で、インドの製造業は、国内総生産(GDP)に占める比率が中国の場合に比べ、かなり低い段階でピークに達したことを示した。これは「早期産業空洞化」と呼ばれる状態だ。

 第2に、中国による台頭は、自由貿易に反し、中国方式を模倣しようとするすべての国の動きを阻止する世界的な反発を引き起こしたことだ。米国の政策立案者たちは、インドを中国ほど戦略上の脅威とはみなしていない。しかし、モディ氏によるより厳格なヒンズー至上主義は、インド国内の少数派であるイスラム教徒の抗議を招いており、インドに対する米国の友好姿勢を一部弱めるものとなっている。

 トランプ氏はモディ氏を個人的に好きな人物だと表明しているが、それがインドにとって米国との貿易戦争を回避させるものにはならないだろう。トランプ氏が中国の習近平国家主席に好意を示しているからといって、貿易戦争の回避につながるわけではないのと同じだ。