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貼っていくスレ
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最も市場をかき回したのは、引き続き米中貿易交渉に関しての部分合意を巡る思惑だった。まず株安材料となったのは、2日(月)にウィルバー・ロス商務長官が、FOXテレビとのインタビューで「(米中間の交渉が15日(日)までに合意できなければ)ドナルド・トランプ大統領は関税を引き上げると明確にしている」と述べたことだった。
 さらにそのトランプ大統領が訪問先のロンドンで、3日(火)に「中国との合意を大統領選挙後(2020年11月)まで待つのは良い考えだと思う」と述べたと報じられたため、「今月中の関税引き上げの可能性が高まった」と、市場に動揺が生じた。

 というのも、今月15日に予定されているのは「約1600億ドル分の対中輸入について」と金額が大きい。その中身もスマートフォン、ノートパソコン、玩具など、消費財が多く、関税引き上げによる価格上昇が個人消費の打撃になると懸念されるためだ(なお、こうした関税引き上げの可能性はすでに想定されているため、輸入業者は駆け込みでアメリカに輸入し通関している。そのため、そうした価格上昇の影響が出るとしても、先のことになる)。
 しかし4日(水)付のブルームバーグ通信は、匿名の事情に詳しい関係者の発言として、「15日に対中追加関税を発動する前に第1段階の合意を完了できる」との見解を紹介したため、一気に市場に安堵感が広がった。

 またアメリカの経済指標の内容も、同国の株価を押し下げた後、押し上げる方向に働いた。特に2日(月)発表の11月のISM製造業指数が、10月の48.3から48.1に低下したことが、驚きを持って迎えられたようだ。
 前月比でわずか0.2ポイント幅しか低下しなかったのに、株価の悪材料となったことは不思議に感じられるかもしれない。しかし最近のアメリカ(に限らないが)の株式市場では、「株価が堅調なのは、すでに発表された足元の経済統計や企業業績は確かに悪いが、最悪期は過ぎつつあり、これから改善するに決まっているからだ」と、今後の景気指標は良くなるはずとの決めつけが市場で横行していた。

 そうした空気のなか、ISM製造業指数も11月は49.2に上昇するとのエコノミスト予想の平均値だった。そうした勝手な期待が勝手に裏切られたため、同指数を受けて株価が反落したと考えられる。
 逆に週末金曜日の6日に発表された11月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比で26.6万人もの増加をみせ、その日のアメリカの株価を大いに押し上げた。この増加の背景には、GMでストライキを行なっていた労働者が、職場に復帰したとの一時的要因はあるが、その影響は4万人強だと推察されており、それを除いても22万人を超える前月比での雇用増だ。素直に足元の雇用情勢はまだ強い、と解釈すべきなのだろう。

 このように、先週はドタバタとした市場展開となったが、結局週を通じてみれば、高値圏ながら日米等の株価は横ばい圏内だったと言える。また外貨相場は、むしろ外貨安・円高気味の推移で、前述の雇用統計を受けた米ドルの上昇も一時的に終わった。
■気がかりな日本国内の消費動向

 一方、目を日本の経済情勢に転じると、消費増税の影響については、楽観・悲観双方の見解があったものの、「消費増税前の駆け込みがあまり大きくなかったので、その反動も小さいものになるはずだ」、との見方が広まっていたように思う。

 だが6日(金)に公表された10月の家計調査によれば、同月の世帯の消費支出(単身者世帯を除く)は、前年比で5.1%も減少した。これは、前回5%の消費税を8%に引き上げた2014年4月(同4.6%減)よりも減少率が高いという結果となっている。
 10月の消費動向については、大型台風の影響もあったと推察され、すべてが消費増税の影響とも言い難い。しかし、このところ企業が発表している、小売りなどの11月既存店売上高の前年比をみると、たとえばファーストリテイリング(国内ユニクロ分)が5.5%減、アークランドサービス(かつや分)が3.2%減、ジーンズメイトが5.4%減、幸楽苑ホールディングスが11.8%減となっている(台風による工場操業停止などの特殊要因もある)。しかもこれら各社は、3カ月連続の前年比マイナスだ。つまり、すでに消費増税前の9月から10月、11月と不振を示している。
 もちろん、他に売り上げを伸ばしている消費関連企業も多いため、安易に結論を求めるべきではない(まだもう少し売り上げ動向などの様子を見た方がよい)のだろうが、消費増税のいかんにかかわらず「日本の消費の勢いが弱くなり続けているのではないか」、という懸念はぬぐえない。
日本を含め、製造業の業況にはまだ逆風が吹いている。それに加えて日本国内の消費も厳しさを増すとなれば、日本の国内株価は経済・業績面からのサポートを失っていくだろう。
 さて今週は、主要国の株価にとっては、材料が多い。FOMC(米連邦公開市場委員会)やECB(欧州中央銀行)会合、アメリカの議会下院における弾劾の動き、同国の小売売上高、日本の景気ウォッチャー調査や日銀短観、イギリスの総選挙などだ。ただそれらの材料よりも、市場に波乱を引き起こしそうなのは、やはり米中部分合意に関する通商交渉だろう。

 前述のロス商務長官の発言は、たまたま、とか、思いつき、ではない。FOXテレビのインタビューに加えて、3日(火)にCNBCテレビに対しても「15日までに合意できなければ関税を引き上げる」、との同趣旨の発言を行なっている。また、ラリー・クドローNEC(国家経済会議)委員長(対中穏健派とみられている)も、6日(金)のブルームバーグテレビのインタビューで、米中間でほぼ24時間体制で詰めの協議を行なっていると述べつつも、「12月15日は非常に重要な日」「合意がまとまらない場合、現行法に基づき関税は復活する」と語っている。ここまで主要閣僚が発言しているということは、政権内で「こうした形で表立って中国に圧力をかける」という点で、合意がなされているのだろう。
■日本株も下振れの懸念がある

 最終的に部分合意がどういう展開をみせるか、という肝心の点だが、筆者が独自取材して得られた情報では、細部において米中間の隔たりがまだ大きいため、合意はどうやら来年になりそうだ(1月中、中国の旧正月の前)と聞いている。

 では15日に追加関税が発動されるかと言えば、それが景況感や市場に与える影響が大きいため、たとえば1カ月ほど関税発動を延期する、と米政権が表明する展開になると予想している。
 ただ、交渉事においては、交渉の過程で話が思いもかけない方向に展開し、誰も望まない結果になることはよくある。米政権内でも考え方は一枚岩ではなく、たとえば対中強硬派が「とりあえず関税を引き上げておいて、部分合意が成ったら撤回すればよい」と主張し、そちらに話が転ぶことは否定できない。あるいは、筆者の予想通り、最終的に関税引き上げが大幅に延期されるとしても、その発表が遅れれば遅れるほど、15日が迫って市場が不安にとらわれる、という展開はあるだろう。
 このため、今週の国内株価動向は、週明け月曜日の滑り出しは、先週末のアメリカの雇用統計を受けて株価が上振れして始まりそうだが、徐々に追加関税発動の有無を巡る不安心理からアメリカの株価や米ドル相場が下振れすることに巻き込まれ、日本株も下振れする恐れが強まっていくと懸念する。もちろん、そうした懸念が実現せず、筆者が考えているように、とりあえず追加関税が先送りされれば(そしてそうした先送りの決定が一日でも早くなされれば)株価下振れの恐れは小さいものとなる。
 株価が大きく下落する前に、米政権が関税先送りを公表する、というシナリオを前提に、今週の日経平均株価は、2万3000~2万3600円を予想する。不幸にして、米中部分合意の展開が悲観的な方向に向かった場合は、さらなる下値を想定すべきことになる。