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雑談と文学(小説)
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「そうですか……それなら良いのですが」
 「ねえ氷室さん。この辺は滝が多い所でね。オシンコシンの滝やそして、ここの乙女の涙の滝、そして少し離れた所に男の涙の滝があるのよ」
 「へえ~ロマンチックですね」
「本州には乙女の滝は栃木の那須、長野の蓼科、大阪にもあるようですね」
「へぇもの知りですね」
「乙女の滝ってなんとなくロマンッチクだからそんな地名が増えたんじゃないでしょうか」

  確かに案内された乙女の涙の滝は、水の量か少なく岩場に弾かれ涙の雫のように落ちて行く。やがて滝を後にして、景色が良い海岸の方に行こうと風子に誘われた。
 「先程のフレペの滝(乙女の涙の滝)。失恋した乙女の涙がここにどれだけ流されたでしょうね。ほら下を見て百メートルの絶壁よ。ここで失恋の淋しさに耐えられずに飛び込んだ乙女達の魂が眠っているのよ」
 「えっ身投げした人が居るのですか? 風子さん……そんなに前に行ったら危ないですよ」
 すると風子は急に泣き出した。俺は驚いた、やはり何か思いつめていて、我慢の限界を超えたのだろうか。俺は側より慰めようとした時だった。
 だが風子は突然、走り出し海に向かってダイビングした。風子は風になれ~~~と叫びながら落下していった。
 「ふ、ふうこさ~~ん! 嘘でしょう!?」
 俺はあまりにも突然の出来事に驚いた。いったいどうしてだ!!
 一瞬だが俺の頭の中で彼女の淋しそうな表情の意味が理解出来た。だが気づくのが遅かった。

 風子は斉藤を好きだったんだ。たぶん心では風子は割り切っていても耐えられなかったのだろう。心の動揺は隠せず発作的に死のダイビングをしたんじゃないか? 落下して行く風子を見ながら、俺は奇跡でもいいから助かってくれと祈った。その時だ! 海の下から上に向かって突風が吹き上げてくる。落下して行く風子が一瞬、風にあおられ落下のスヒードが落ちた。下を見ると風子はなんと、身に着けていたジャンパーを広げて鳥のように舞いながら海面に落ちた。とはいえパラシュートじゃないから、かなりの衝撃を受けたはずだ。
 俺はオロオロしながら風子の落ちていった海を見ると、近くにいた観光用の船だろうか、風子の傍に近づいてゆくのが見えた。なんとか助けってくれと祈った。万が一の事があったら斎藤になんと言ってわびれば良いか。風子が残し行った車は幸いキーが差し込んだままだった。俺は観光船の船乗り場に向かって走った。
 一時間半後、風子は観光船の乗り場事務所で毛布にくるまっていた。
 幸いに打撲程度で医者も入院には及ばないとの事だった。通報を聞いて駆けつけた警官の説教が終わった処だった。
そこに俺が車で駆けつけると。身内の者かなどと聞かれた。
 「いいえご迷惑をおかけして申し訳ありません。私は彼女に観光案内して頂いている者です」頂いて
 それでこれまでの経過を聞かれた。仕方なく友人の結婚時に来たこと。その友人の妹のような存在が彼女で、彼女に好意に甘えてしまってまさかこんなことになるとは。彼女の居ない場所でそのお兄ちゃん的存在が結婚し落胆したのが原因だろう伝えた。警察もやっとり理解し返してくれた。二度とそんな気を起こさないように自宅まで送り届けるという事で解放して貰った。

乾燥機で洋服を乾かして貰ってから、俺は風子が運転して来た車に乗せて代わり俺が運転し、取り敢えず俺の宿泊しているホテルに向かった。暫くお互いに言葉を交わさず走り続けた。
 風子が少し落ち着いたところで俺は話しかけた。
 「風子さん……あなたはやっぱり斉藤の事を……」
 「ごめんなさい。本当は飛び込むつもりはなかったんです。つい感情が込み上げて来て、そう思ったら走っていました。迷惑をかけてごめんなさい。でもあの時、急に風が私を突き上げて、その時に死んではいけないと思った瞬間、本能的にジャパーを広げていました。あれは神風なのかも知れません。本当に馬鹿な事をして申し訳ありません。もう吹っ切れました。私にはお兄ちゃんは、お兄ちゃんでしかなかったんです。妹が兄を好きになるなんて可笑しいですよね」
 風子はそうは言ったものの俺は心配で、予定を変更し三日ばかり知床にとどまった。

つづく

雑談と文学(小説) 「そうですか……それなら良いのですが」  「ねえ氷室さん。この辺は滝が多い所でね。オシンコシンの滝やそして、ここの乙女の涙の滝、そして少し離れた所に男の涙の滝があるのよ」  「へえ~ロマンチックですね」 「本州には乙女の滝は栃木の那須、長野の蓼科、大阪にもあるようですね」 「へぇもの知りですね」 「乙女の滝ってなんとなくロマンッチクだからそんな地名が増えたんじゃないでしょうか」    確かに案内された乙女の涙の滝は、水の量か少なく岩場に弾かれ涙の雫のように落ちて行く。やがて滝を後にして、景色が良い海岸の方に行こうと風子に誘われた。  「先程のフレペの滝(乙女の涙の滝)。失恋した乙女の涙がここにどれだけ流されたでしょうね。ほら下を見て百メートルの絶壁よ。ここで失恋の淋しさに耐えられずに飛び込んだ乙女達の魂が眠っているのよ」  「えっ身投げした人が居るのですか? 風子さん……そんなに前に行ったら危ないですよ」  すると風子は急に泣き出した。俺は驚いた、やはり何か思いつめていて、我慢の限界を超えたのだろうか。俺は側より慰めようとした時だった。  だが風子は突然、走り出し海に向かってダイビングした。風子は風になれ~~~と叫びながら落下していった。  「ふ、ふうこさ~~ん! 嘘でしょう!?」  俺はあまりにも突然の出来事に驚いた。いったいどうしてだ!!  一瞬だが俺の頭の中で彼女の淋しそうな表情の意味が理解出来た。だが気づくのが遅かった。   風子は斉藤を好きだったんだ。たぶん心では風子は割り切っていても耐えられなかったのだろう。心の動揺は隠せず発作的に死のダイビングをしたんじゃないか? 落下して行く風子を見ながら、俺は奇跡でもいいから助かってくれと祈った。その時だ! 海の下から上に向かって突風が吹き上げてくる。落下して行く風子が一瞬、風にあおられ落下のスヒードが落ちた。下を見ると風子はなんと、身に着けていたジャンパーを広げて鳥のように舞いながら海面に落ちた。とはいえパラシュートじゃないから、かなりの衝撃を受けたはずだ。  俺はオロオロしながら風子の落ちていった海を見ると、近くにいた観光用の船だろうか、風子の傍に近づいてゆくのが見えた。なんとか助けってくれと祈った。万が一の事があったら斎藤になんと言ってわびれば良いか。風子が残し行った車は幸いキーが差し込んだままだった。俺は観光船の船乗り場に向かって走った。  一時間半後、風子は観光船の乗り場事務所で毛布にくるまっていた。  幸いに打撲程度で医者も入院には及ばないとの事だった。通報を聞いて駆けつけた警官の説教が終わった処だった。 そこに俺が車で駆けつけると。身内の者かなどと聞かれた。  「いいえご迷惑をおかけして申し訳ありません。私は彼女に観光案内して頂いている者です」頂いて  それでこれまでの経過を聞かれた。仕方なく友人の結婚時に来たこと。その友人の妹のような存在が彼女で、彼女に好意に甘えてしまってまさかこんなことになるとは。彼女の居ない場所でそのお兄ちゃん的存在が結婚し落胆したのが原因だろう伝えた。警察もやっとり理解し返してくれた。二度とそんな気を起こさないように自宅まで送り届けるという事で解放して貰った。  乾燥機で洋服を乾かして貰ってから、俺は風子が運転して来た車に乗せて代わり俺が運転し、取り敢えず俺の宿泊しているホテルに向かった。暫くお互いに言葉を交わさず走り続けた。  風子が少し落ち着いたところで俺は話しかけた。  「風子さん……あなたはやっぱり斉藤の事を……」  「ごめんなさい。本当は飛び込むつもりはなかったんです。つい感情が込み上げて来て、そう思ったら走っていました。迷惑をかけてごめんなさい。でもあの時、急に風が私を突き上げて、その時に死んではいけないと思った瞬間、本能的にジャパーを広げていました。あれは神風なのかも知れません。本当に馬鹿な事をして申し訳ありません。もう吹っ切れました。私にはお兄ちゃんは、お兄ちゃんでしかなかったんです。妹が兄を好きになるなんて可笑しいですよね」  風子はそうは言ったものの俺は心配で、予定を変更し三日ばかり知床にとどまった。  つづく